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プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 2

 ソファに座ったフローラ王女がコーヒーを飲む姿を、アンバーは固唾を飲んで見守っていた。味の評価を気にしているのではない。気にしているのはただ一点、王女の腰に差された聖剣だ。

「......ごちそうさまでした。キララ、また腕を上げましたね」

「恐縮です、フローラ王女」

 労いの直立不動の姿勢で立っていたキララが、恭しく頭を下げた。王女が飲むコーヒーは、彼女が淹れたものだ。

「フローラ、お久しぶりですわね。お元気でしたか?」

「変わりありません。歳が3つ増えただけです」

「もうそんなになるのか? まったく、月日が経つのは早いもんだな」

 静かに挨拶を交わすイキシアとフローラに、ルチルが茶々を入れた。

「アンタが突然お茶会をやめにするとか言い出したから、アタシは城を抜け出す口実を1つ失ったんだ。いい機会だから、謝罪の言葉でももらいたいもんだね」

「プリンセスが城にいるのは当たり前のことです。貴女はそろそろ大人しくするということを覚えてはいかがですか?」

「言われてるぞ、イキシア」

「何故この流れでわたくしが批判されてると思ったのですか?」

 脈絡なく水を向けられ、イキシアが口を尖らせた。だが意外にも、フローラの強い視線はイキシアにも向けられていた。

「イキシア、貴女にも自覚というものを持っていただきたいものです。マスクヤーデンの次期女王である貴女が、何故このようなところにいるのですか?」

「マクスヤーデンの将来をどうするかは、貴女が決めることではありません」

 言い返したのはジャスティンだった。イキシアが虚を突かれたような表情で彼を見、フローラは眉間にシワを寄せた。

「その言い種では、まるで貴方が王位を継ぐかのようですね。マクスヤーデンでは、伝統的に長子が国を治めることになっていたはずです」

「お言葉ですが、変化を恐れないというのもマクスヤーデンの伝統です」

 ジャスティンは譲らなかった。柔和な笑みを浮かべながらも、彼の言葉には力強い意志が感じられた。

「……フローラ、貴女は国の在り方を議論するためにここに来たのですか? それとも、これはいつものお節介なのですか?」

「後者です。もちろん」

 イキシアの答えにそう答えると、フローラは静かに腰の聖剣に手をかけた。

「こちらに1人、闘える状態にあるプリンセスがいるということは分かっています。貴女方のどちらか、私と手合わせ願えませんか」

 フローラはそう言って、イキシアとルチルとを交互に見た。その意味を察したルチルが、いたずらな笑みを浮かべた。

「悪いな、フローラ。アタシはもう脱落だ」

「わたくしも本日は闘えないことになっています。一足遅かったということですわね」

「お二人とも違う……? では……もしかして貴女が?」

 フローラの視線がアンバーに向けられた。

「……はい」

 アンバーは覚悟を決めて頷き、フローラに自らの聖剣を見せた。

「見てのとおり、私もプリンセスです」

「成程。では、早速始めましょうか。時間をかけてはいられませんので」

「……それは貴女が決めることじゃない」

 ジャスティンの言葉を借りつつ、アンバーは挑戦的に言葉を返した。直後、両者は剣を鞘走らせると共に切り結び、チャーミング・フィールドへと旅立った。

3へ続く

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