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プリンセス・クルセイド 第3部「ロイヤル・プリンセス」#3 【フローラ、華のように】 5

 フローラ・ダリア・ラングデイルといえば、イナアハム王国の厳格なプリンセスとして有名だ。自国の王位を継ぐ存在ではないものの、国家としての在り方、指導者としての理想に厳しく、忠実であった。そんな彼女が、闘いで一国の王子の結婚相手――将来の統治者を決めるプリンセス・クルセイドなるものを知ったらどうなるかーー答えは想像に難くない。

「ハイヤー!」

 アンバーが剣を一閃すると、刃の先から太く長い光の束が放たれた。フローラは空中高く飛び上がり、この一撃をかわす。このチャーミング・フィールドでは、バイタルによって身体能力が著しく強化される。そして彼女の持つ聖剣は、重力を自在に操る地のエレメントの力を有している。その相乗効果により、フローラは容易にアンバーの頭上を取ってみせた。

「ハイヤー!」

 だがアンバーは、強引に身をよじって仰向けの体勢になると、空中のフローラ目掛けて再び光の束を放った。

「くっ……」

 フローラは剣に宿った地の力を発動させると、横向きの重力を発生させ、宙を滑るようにしてこれをかわした。そのまま一度体勢を立て直すべく着地すると、こちらにも光の束が襲ってきた。だがその狙いは甘く、フローラの立ち位置から大きく離れた岩場に着弾する。

「……随分と思いきった攻撃をするんですね」

 斬撃波の着弾箇所を確かめつつ、フローラが話しかけたが、アンバーの返事ははなかった。だが、答えがなくとも、その心情は想像がつく。大方、剣術では敵わぬとみて自暴自棄になっているのだろう。彼女の放つ光の束は、フローラのものとは比べ物にならない程の威力があるが、当たらなければ問題はない。

(ともあれ、遠距離戦は不利ね)

 フローラは今一度空中に身を投げ出すと、前方へと落ちるように移動し、アンバーのいる岩場の上に降り立った。

「……助けたい人がいるから」

 視界に姿が入った瞬間、アンバーがポツリと呟いた。

「……そのために王家の杖を狙うと?」

 問いかけながら、フローラは眉根を寄せた。アンバーは静かに頷いた。

「詭弁ですね。勝利に伴う責任を負わずに、その恩恵だけを享受しようなどと……恥を知りなさい」

「……私も、分かってもらえるとは思ってない」

 アンバーは呟くように答え、剣に光を宿らせた。またもや斬撃波の構えだ。フローラは身構えた。

「ハイ……ヤー!」

 掛け声とともに、斬撃波が放たれた。だが、飛来してきたのは光の束ではなく、アンバー自身であった。斬撃波の反動を頼りに、突進攻撃をかまそうというのだ。

(そのような攻撃が……通用するなどと!)

 フローラは腰を低く落とし、捨て鉢な乙女に現実を突きつけるべく迎撃体勢に入った。アンバーは突進から右脚を前方に伸ばして向かってくる。飛び蹴りの構えだ。フローラはその動きを見極めると、左手でアンバーの脚を掴んだ。

「捕らえた!」

 叫んだのはーーアンバーだった。彼女は掴まれた右足を支点にして、フローラに抱きつく格好でフローラに密着していた。

「一体何を……!?」

 フローラは聖剣を構え、地のエレメントの能力を使おうとした。そして気がついた。

「こうしてくっついてたら、私だけ吹っ飛ばしたりはできないでしょう!?」

「くっ……!」

 アンバーの言うとおりだった。今や、フローラとアンバーの身体は完全に密着している。そしてアンバーの聖剣には光が宿る。

「……何か、言い残すことはある?」

「……参りました」

 フローラがうなだれると、アンバーは剣に宿った光を爆発させた。両者の身体を斬撃波が貫き、フローラの剣は四散した。

エピローグに続く


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