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読了のおっさん35 ABURA(貘九三口造(ばくさくぞう)(作画)NUMBER8(原作)/裏サンデー)

今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。

概要的なネタバレは含みます。


ABURA(貘九三口造(ばくさくぞう)(作画)NUMBER8(原作)/裏サンデー)
2023年~2024年 全3巻(完結)

① タイプやテーマなど
 油小路事件、御陵衛士、新撰組、歴史もの、幕末、意志、一騎当千、改革、尊王攘夷、復讐、昇華、仲間

② 簡単な内容
 油小路事件をテーマにした、御陵衛士達の物語。伊東甲子太郎が油小路にて新撰組に殺害され、伊東一派の御陵衛士達が、伊東の遺体を回収すべく油小路に集結。待ち構えていた新撰組と打ち合うというもの。
 多くは油小路事件そのものと、御陵衛士達の過去の回想とで構成されるが、生き延びた御陵衛士の復讐劇やその後までが描かれている。

③ 読みどころ
 絵が良い。幕末の侍活劇に非常にマッチした絵柄で、傷や筋肉、体格や表情といったものが、当時を思わせるようなリアルさと親しみやすさを持っている。
 キャラクターが総じてスラリと美しく描かれる作品もある中で、個々の男達の内面が滲み出る描き分けと言ったら伝わるだろうか。短い作品でキャラクターをストーリー面で語る部分が少ない反面、その容姿と、コマ割りや動きで、一人一人の個性を強く感じられる。
 語ってもなかなか伝わらないが、これはぜひ読んで体感していただきたい。

 しばしば新撰組の裏切り者(悪)として描かれがちな伊東甲子太郎一派だが、本作は彼らが主人公サイドであり、読み慣れたさまざまな作品とはまた違った歴史考察、人物考察が広がる作品でもある。善とか悪ではなく、いつの時代でも、己の信念や出会った人物、所属した組織によって人間の行動は決するものである。
 ABURAを読むことで、御陵衛士という存在に大きく興味を持つことができると思う。

 時代考証もまた優れていると思われる。油小路事件そのものへの考察もあるが、各登場人物の裏打ち、油小路以後の行動とその動機、心情の変化。時代考証というよりも人物考証と言った方が良いのかもしれないが、その苛烈な生き様が見事に描かれていて、なんとも心を揺さぶられる。


④ 雑多な感想
 伊東甲子太郎という人物については、前々からおっさんも独自で調べたり、色々な人の幕末歴史物語で触れてもきた。だが、本作に出会う前は、伊東がどんな信念を持って新撰組と袂を分ち、同時に伊東を慕ってどんな人がついてきたのか、大して深堀できていなかったようにも思う。
 多くの人にとって単に「新撰組の裏切り者」として、なんとなくの悪と認識されている伊東であるが、おっさんも恥ずかしながら、そのバイアスの影響をもろに受けている一人なのだろう。少々不公平な見方であったように思う。

 作中でも紹介があったが、現代の新撰組信奉者によって、京都にある御陵衛士の墓所が荒らされたという話もあった。流石におっさんはそこまではやらないが、そういう意味の無い、残念なことをしてしまう人も出てくる程に、歴史物語の影響というものは大きいのだなと、改めて感じないわけにはいかないところだ。

 少々ネタバレをすると、実は伊東は開幕で殺害され、物語開始のキッカケで終わってしまうのだが、仲間の御陵衛士一人一人が深掘りされていく中で、伊東の影がちらつく。新撰組と袂を分かった一派の内面、そして当時のそのほかの侍達もまた、様々な思想信念を抱いていたであろうと、考察が深まる内容である。


⑤ その他
 前回の風の槍もそうだったが、原作はNUMBER8。前回、同氏原作の漫画「BLUE GIANT」をテレビドラマに近い感じがしたと評したが、本作ABURAは一本の映画のように感じた。
 実写のキャストを充て、同じストーリーでコンテ打って作るのはとても難しいと思うが、貘九三口造氏がガッツリと、ベストキャスト、最良の演出で描いたことで、物語の良さが際立ったように思う。
 人がやるお芝居としてはなかなか成り立たなくても、漫画ではかなりの名作という脚本はおそらく他にもまだまだあるだろう。本作に限って言えば、下手にメディア展開せず、純粋に漫画だけが良いなあ(良いキャストと監督なら成功の可能性もあるけど、本作は漫画の配合が良すぎる感じがする)。

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