見出し画像

量らないヒトビトの美味しい食卓

おわりにはじめに

この記事はmohikanz #cooking Advent Calendar 2018 11日目の記事です。
突貫工事で書きました。後々誤字脱字など修正したりしなかったりします。

さて、皆さんの家に計量カップはありますか? 大さじ、小さじのたぐいは? キッチンスケールは? お酒が好きな人はひょっとしてカクテル用のメジャーカップを持っていたり?
キッチン用品にはとにかく量るためのツールが多いですね。
レシピを見ても大体あれを何グラム、それを何ml、これを大さじ何杯とあれこれ細かく書いてあります。
これさえあればいつでも誰でも同じ味が再現できます。やっぱりレシピって大切ですよね。特にお菓子作りとか、パン作りとか……。
……本当にそうでしょうか?
中央アジアの国の一つ、キルギスの量らない食卓事情を紹介します。

調味料を覗いてみる

・塩
 小粒のさらさらした塩でなく、なんだか不揃いな粒のわりと雑な塩です。
 塩というより塩化ナトリウムなのでは?というパラフィン紙が似合う感じ
・胡椒
 大体袋入りで売っています。
 基本は黒コショウで、すでに挽いてあるもの。大きなスーパーやちょっと高級なスーパーに行くと、粒の胡椒もありますが、あまり使いません。
・油
 各家庭に一斗缶みたいなサイズのボトルが常備されています。油大事。
 マイナーなところではグレープシードオイルやオリーブオイルも入手可能ですが、一般的なのはひまわりオイルです。
 え?油は調味料じゃない?野菜に油かけたらサラダになるだろ、いい加減にしろ!(本当)
・唐辛子
 粉末からチップ状まで様々。市場に行くと色味の異なる唐辛子が量り売りされています。店員さんに聞いたところ、どうやらそれぞれ辛さが違うらしいです。が、使い分けているかは謎。
・酢
 日本で使う酢の濃度、どれくらいかご存知でしょうか。食酢は 酢酸濃度5%前後が一般的なようです。まあ大体皆さん買った酢をそのまま料理に使うでしょう。
 対してキルギスで購入できる一般的なお酢は70%前後。結構な濃さです。蓋を開けて鼻を近づけようものならひどい目に遭います。
・マヨネーズ
 酸味が薄くてまろやかというか、クリーミーというか。日本のマヨネーズとは味の強さがかなり違います。
 このマヨネーズでポテトサラダなんかを作るとちょっと物足りない感じになるので、マスタードやお酢を自分で足して調整が必要。スパイス類の邪魔をしないので、逆にバーベキュー用のお肉を漬け込むには向いています。
・醤油
 中国製の謎の醤油。カラメル色素が多く添加されているのか色が濃く、味は日本の醤油よりうまみ分が減って塩気が強い。
 全てが黒く染まるので煮物には全く向かないですが、にんにく醤油を作って鶏肉を漬けてから揚げにしたら非常においしかったです。中華料理に使えということか。
・スパイス、ハーブなど
 クミンなどスパイス屋さんには大量に売っていますが、あまり買う人を見かけません。個人的にはいつもスパイス屋さんの売り上げが心配でした。
 そんな中でも比較的よく使うのはコリアンダー、ディル、ローリエあたりです。意外なところではスグキなども。

炊き込みご飯はカンと経験

米と水と人参と肉とにんにくをなんかいい感じに用意してください。あと塩か袋売りのスパイス。
……きょうの料理でこんな出だしだったらクレームついてしまいますね。しかし、それは量ることに慣れた人間の傲慢なのです……
中国寄りのドゥンガン系民族からトルコの辺りまで、意外と広い地域で食べられている中央アジア風炊き込みご飯『プロフ』
お祭りやお祝いの席などでどーんと作ります。
材料は頭に書いた通り。
塩を入れて具をいい感じに炒めて、水をいい感じに入れて、コメをいい感じに入れて、場合によってはにんにくを皮ごととプロフ用のスパイスを入れて、蓋をしていい感じに炊きます。
私はこの皮ごと放り込まれてホクホクになったにんにくが一番好きです。
キルギス人は羊で作ることが多いですが、羊の(脂の)質がいいか悪いかでかなり味が変わります。さらに大体の場合、キルギスプロフのお皿の底は油でひたひたです。ダイエッターの敵。
ちなみにちょこっと作る、ということがない料理なので、基本的にレストランでは複数人前分の事前オーダーのみ受け付けています。
ビシュケクのプロフセンターというレストランはそれを逆手にとって(?)プロフしか置かないという戦法に。各地の特色あるプロフをいつでも食べられます。

小麦粉はボウルで量る(量るとは言っていない)

食事は経験で作れるという人も、なかなかパンやお菓子を量るものナシで作ることはないかと思います。それはおそらく小麦粉の好感度を上げ切れていないせいです。イベントをこなしてフラグをどんどん立てて目と目で語り合う仲になるのです。
キルギスのおばちゃん(民族は問わない)はなぜかとても小麦粉と分かり合っている感じがあります。とにかく小麦粉の扱いがうまい。
大体各家庭には出荷用コメ袋みたいなサイズの小麦粉が常備されています。
マントゥ(大きな蒸し餃子のようなもの)を作るぞ→袋からボウルでがばーっ
オロモ(薄く伸ばした生地に具を巻いて蒸す料理)を作るぞ→袋からボウルでがばーっ
ラグマン(うどんのような麺)を作るぞ→袋からボウルで(ry
サムサ(ミートパイ)を作るぞ→袋からボ(ry
ナン(パン)を作るぞ→袋から(ry
……定量的に量る余地がありません。
ここからさらにどう見ても適当に水や牛乳や卵を投入していきます。
イースト菌も適当にザーッ。
私が料理を習おうとして断念した理由がおわかりいただけるでしょうか?
「いい?コノッコ。小麦粉をこれくらい、水をそれくらい、卵3つ…あら4つ…うーん、もう一個入れましょうか!」
「アッハイ」
しかしいつも美味しいのです。(オカワリー)
ちなみに小麦粉は日本の強力粉と薄力粉の間くらいのものらしく、仮に覚えても同じノリで日本の小麦粉から作れるかは謎です。

夏の冬支度。保存食もなんかこういい感じに

またか、とか言わないでください。本当に何も量ってないんです。
日本人の感覚だと、保存食は多少しっかり考えて作らないとカビたり腐ったりするんじゃないか、と不安になりますが、気のせいです。キルギスは湿度が低いこともあって、日本ほどカビの心配はありません。
夏の収穫の時期にはイチゴやラズベリーなどのベリー系やトマト、キュウリなどを大量に保存食へと加工します。
なぜなら冬が厳しく長いから。10月後半には初雪が降り、3月頃まで寒さが続きます。1~2月は大体マイナス20度程度の気温。作った保存食たちは生野菜が手に入らない冬場の貴重なビタミン源になります。


バレーニャ。ちょっと緩めのジャムのようなもの。材料はイチゴ、ラズベリー、アンズなど。

コンポート。果物を砂糖水で煮たジュースのようなもの。リンゴなどのドライフルーツで作るものもありますが、うちでは主に生のサクランボを使っていました。

あとはピクルス。キュウリやトマトの塩水漬け。一緒にニンニクやディルなどを隠し味や香り付けに漬け込みます。
瓶を煮沸消毒して、がっちり蓋を閉めるわけですが、その直前のワンポイント。アスピリンを一錠放り込みます。殺菌してくれるとかなんとか言いますが、んんん?
そんなわけで夏の後半になると市場の野菜エリアでは大量のガラス瓶と蓋、それにアスピリンが合わせて売られています。(本当)

おわりに

量らないで何でも作れてしまうのは偏に慣れ故かと思われます。
それは裏を返すと、食材など含めレパートリーが少ないということなのかもしれません。
代わりに日本は異様なほど食卓に上がる料理がバラエティーに富んでいます。大体の人は、和・洋・中・伊の4か国分の料理は当たり前に作ることができるのではないでしょうか?
合えるだけ、混ぜるだけ、かけるだけ、といったアレンジ用調味料の類も豊富。これはぜひ全世界に普及させるべきだと思います。特に焼き肉のたれ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?