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父の「人生」をインタビューして贈った話 #このひだより

「宝物だ。ありがとう」

完成した本を渡したとき、他に言葉が出ないのか、ぽつりと一言、父は言いました。

師走です。このひよりメンバーも、あっという間に過ぎていく日々にどうにか食らいつきながら1年の終わりを迎えようとしています。

コロナ禍で対面インタビューを自粛してきた私たちですが、「先になってもいいから」とお待ちいただいている方もいらっしゃいます。(本当にありがとうございます……!!)私たちも「もう動き出してもいい頃か、いやまだか」とニュースとにらめっこしながら、2021年の後半を過ごしてきました。

もどかしいなかで、サービスの細かな改善を重ねてきた1年でした。「少しでも今のうちにできることを!」を合言葉のようにしてミーテイングを繰り返し、進めているのがnoteの連載と、これまでの事例紹介です。

前回の「仲間の「独立」にインタビューを贈った話」に引き続き、今回は私自身が父にインタビューを贈ったときのことを振り返りたいと思います。

(執筆:ウィルソン麻菜

『このひより』で父の人生をまとめたい

私の父は、53歳にして経営していた会社を手放し、ずっと目標にしていた早期引退の夢を叶えました。

ずっとがむしゃらに働いてきた父。ようやくのんびりするのかと思ったのも束の間、そこから急速に元気がなくなっていくのが、傍から見てもわかるほどでした。仕事一筋だった方が生きがいを見失ってしまう、いわゆる「燃え尽き症候群」なのかも……と思いました。

「この年齢で何ができるんだろう」
「自分にはもう打ち込めるものは見つからないかもしれない」

どんどん弱気になっていく父を見るのは、娘としてつらかったのを覚えています。

父の人生が結構な「波乱万丈」だったこと。小さい頃から断片的に聞いていたエピソードでなんとなく知っていました。

地元の長野から、家族の反対を押し切って上京。歌手の夢に手が届きそうになったところで、謎の病気により声が出なくなり挫折。30代にして初めて就職し、そこから自分の会社を立ち上げて……と、まるでドラマのような話ばかり。子ども心に「お父さんはすごい人生を送ってきたんだ」と思っていたし、自慢の父でした。

これまですごいことをしてきたんだよ、思い出してよ。今まで成し遂げてきたことを忘れたかのようにしぼんでいく父にそう伝えたくて、このひよりでサンプルを作るときに、私は真っ先に父に声をかけたのでした。

「お父さんの人生、本にしない?」

人生の“棚卸し”ができたインタビュー

どんなインタビューだったのかや父や家族の反応は、事例記事を読んでいただくとして。

今回「ライター」という立場と「娘」という立場、両方で同席した私が一番感じたのは、インタビューの持つ“棚卸し”の力でした。

私がライターとしてインタビューをするとき、いつも考えているのは「この人の軸はなんだろう?」ということ。幼少期の話やまったく関係のない小さなエピソードなどの点同士が、線としてつながったときに「その人らしさ」が出てくると思っているからです。

だから、「娘」としては興味本位で根掘り葉掘り、「ライター」としては父の軸を探しながら、それこそ幼少期から現在までを聞いていきました。60年間を一緒に丁寧に振り返ったことは、インタビューを受けた父自身にとっても、忘れていた何かを思い出させるきっかけになったようでした。

今日、こうやって振り返ってみると、色んなことをしてきたなあ。熱中していることがすごく好きだから、良い人生だったんだろうと思うよ。

 でも、そんな僕の人生もいよいよ最終章って感じだね、まなちゃん。「終わりよければすべてよし」っていうのもあるからさ。これから、人生の最終章に何をするか、考えてみるよ。

(『第5章 リタイアした50代。これから僕はどこへ向かうのか』より引用・一部改変)

人生のなかで“振り返る”という機会はなかなかないけれど、あえてまとまった時間を取り、話していくうちに見えてくるものがある。それはインタビューを受ける側にとっても思考の棚卸しになり、時に前を向く力をくれるんじゃないかな、と思いました。

忘れられない、あなただけのインタビュー

前回の記事でも書いたとおり、このひよりの「インタビューギフト」は、さまざまな場面で贈るれるようにしているつもりです。

結婚前の2人をインタビューして、馴れ初めや未来について語ったり。妊娠がわかってから出産した日までのことを残したり。あるいは、還暦や米寿、誕生日などのタイミングで両親や祖父母の人生を一冊の本にするのも素敵だなあと思っています。

(次回ご紹介するのは、結婚をきっかけに両親に本を贈った話。自分が子どもにもらったら照れくさいながらも嬉しいだろうな……)

一つとして同じ人生がないように、インタビューの時間や、そこから綴られる本もどれ一つ同じものはありません。贈り手と語り手(と私たち聞き手)だけの、オーダーメイドです。だからこそ、インタビューの「この日」も忘れられない日になるんだと、私たちは考えています。

師走です。気づけばあっという間に過ぎ去ってしまう日々を噛み締めて過ごしたいなあ、なんて書くからには、私たち自身もこのひよりとしての2021年を「振り返る」機会を作らなくてはいけませんね。

2022年もどうぞ引き続き、よろしくお願いいたします。

<お問合せ先>
contact@konohiyori.com

<ウェブサイト>
konohiyori.com

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