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引きこもりにはコーヒーとビール

某ボツ原稿です……コーヒーとビールおいちい

昨今の感染症の状況で、家に引きこもらざるを得なくなってしまった。

私はもともと、家にはほとんど寝に帰るだけのような生活を送っていて、今の状況は結構辛い。

その私の癒やしになっているのは、コーヒーとビールだ。

コーヒーとビール。

どちらも苦くて、甘いものが大好きだった私は、かつては美味しいと思えないものだった。

コーヒー。それは大学生のときには、カフェインを取るための魔剤のような存在だった。

どうしても明日までに課題を仕上げなくてはならない。

でも眠い。

そんなときに、砂糖とミルクをガンガンに入れてごまかして、カフェインを取ることの代償に、苦さを引き受けるような気持ちでコーヒーを飲んでいた。

ビール。それは同じく大学生のときには、コミュニケーションツールのような存在だった。

私は大学でオーケストラに入っていたが、オーケストラという優美な響きとは裏腹に、飲み会がたくさんある団体だった。

1杯目はビール、というのが当たり前になったし、先輩にお酌もしたし、目上の人にラベルを見せながら瓶ビールを置くようなマナーも身についた。

ビールを飲むと、人見知りだった私がすっかり明るく社交的な私になり、みんなと仲良くなれたように感じられていたのが好きだった。

でも、一人で飲むのは苦手だった。なぜならビールが苦いからだ。

あるとき「あのプレミアム・モルツだったら、みんな美味しいって言ってるし、美味しく飲めるに違いない」と思って買ってきて、わくわくしながら夕ご飯の折に飲もうとしたら、やっぱり苦くて美味しくなくて、途中で捨ててしまった。

コーヒーとビール。

良薬は口に苦し。

自分にとってメリットがあるのを引き換えに、その代償として苦さを引き受けるような、そんな存在だ。

大学生だった私は、もう少し大人になって会社員になった。

大人になった私は、ダイエット目的から、甘い飲み物を飲むのを控えるようになった。

すると、コーヒーとビールは、もう少し私の友だちになった。

コーヒーはブラックで飲めるようになり、喫茶店で頼むのはブレンドコーヒーがほとんど。

ビールも、一人でふらっと入った飲食店で、食事のお供に生ビールを頼み、おいしくいただくことができるようになった。

ちょっと洒落たお店に行くと「スペシャリティーコーヒー」やら「クラフトビール」といった、少し高いメニューを見かけるようになった。

「なんか高いし、いっぱいあってよく分からないから怖い」

そんなふうにずっと思っていた私に、ちょっとした変化が訪れた。

私の貧弱なコーヒー体験のなかにも、多少なりとも「美味しかったな」という思い出がある。

とある企業に打ち合わせに行った際に出されたアイスコーヒーは、なんだかフレーバーティーのような味がして「こんなコーヒーがあるのか」と感慨深く思った。

このコーヒーのことを「美味しかったな……」としか思っていなかったのだが、あるとき、コーヒーに詳しい知り合いに、「あのとき、こんな美味しいコーヒーを飲んだんですよ」というと、きっと煎り方がどうで、産地がどうで……と怒涛の知識を披露してくれた。

それから私は、スペシャリティーコーヒーを飲んでみようと思い立つ。とりあえず「浅煎り」を選択し、分からなかったらおすすめを聞いてみる。そして、飲んだ豆の種類と、価格と、店の写真をInstagramにアップしていく。

すると、自分のなかでコーヒーのデータベースができてきて、「私はエチオピアの豆が好きだな」とか「あっ、今飲んでいるコーヒーは今までで一番美味しいかも」とか、そういう考えに到れるようになった。

そうして飲んでいるコーヒーは、もはや苦いものではない。

コーヒーは果実なんだ、と思い知らされるような、味のバランスによってさまざまな個性がでてくる、面白い飲み物だなと思えてくる。

クラフトビールも、最初はたくさん種類があることに怯えていて、頼んだビールが口に合わなかった際には絶望的な気持ちになっていた。

しかしあるとき、自分がこれまで飲んで、あまり苦くなくて美味しいと思っていた「Bluemoon」や「On the Cloud」、それらに共通するのは「小麦」が成分に入っているということに気づいた。

そういうビールは「ホワイトビール」や「ヴァイツェン」と呼ばれているらしい。

クラフトビールのメニューをたくさん見かけたら、まずはそういう種類のビールを頼んだり、よく分からなかったらとにかく色が白そうなものを選んだ。概ね間違いがなかった。

「何か一つ、自分が絶対美味しいと感じられるビールを飲めた」と思えば、その後の冒険もしやすい。

たくさんの種類があるクラフトビールが怖くなくなるどころか、むしろ自分が探す飲み屋は、クラフトビールが置いてある店しかほぼいかないくらいになった。

こうして、コーヒーとビールが苦くて嫌いだった私は、すっかり好きになり、その沼に片足を突っ込んでいるのである。

しかし昨今、外出の自粛が余儀なくされた。

コーヒーやクラフトビールの奥深さに気づいて、これからお店をいろいろ回りたい矢先だった。

仕事もリモートワークになった。友達とも会えなくなった。

そんな私は、家でコーヒーの抽出にトライしている。

これまではお店でしか飲んでいなかったコーヒーを、機材を揃え、コーヒーを豆で買い、見様見真似で抽出をしてみる。

豆の挽き方ひとつで味や濃さが変わり、まだまだ自分の美味しいポイントを探せていない。

しかし、先の細いヤカンでお湯を回しながら入れ、豆が膨らむのをゆっくり見ている瞬間。心が穏やかになるのである。

友達とは、オンライン飲み会をするようになった。

そのときには、自分のお気に入りなビール、もしくは飲んでみたかったビールを買い込み、何を飲んでいるか見せながらしゃべった。

味の感想をシェアしあうこと、パッケージを見ながら飲んでいること。お店で飲むよりも、なんだか味がよく覚えていられるような気がした。

コーヒーとビール。

不安定な状況のなかでもなんだかんだと楽しめているのは、この2つのおかげ。

知れば知るほど、奥が深い。引きこもり時間の大切なおともになった。

お読みいただきありがとうございました! よかったらブログものぞいてみてください😊 https://kondoyuko.hatenablog.com/