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【パラ陸上 | あれこれ #19】東京パラリンピックでのテザー使用状況

さて,「テザー」とはパラ陸上競技において,視覚障がいのある選手とガイドランナーがお互いに握るなどして競技を行うために必要なもので,下記の図(World Para Athletics Rules and Regulations 2020-2021,P76より抜粋)のように,両サイドに輪状のものがついている"つなぎ縄”状のものです.その長さはトラック種目では30cm以下,ロード種目では50cm以下と定められています.

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各大会においては,このテザーが競技規則や規程で定められている長さ素材であるかなどの検定が行われます.このルールが初めて適応されたのが,2018年のアジアパラゲームズ(インドネシア)であり,その検定の様子を少しご覧ください(短い動画です).

つまり,各選手が作成したテザーを競技会に持ち込み,検定を経て,競技規則や規程で定められている事項をクリアすれば競技で使用することができるわけです.ちなみに,このテザーはWorld Para Athletics(WPA)公認のもの(中国製)が販売されており,競技規則や規程に忠実に則って作成されているので公認のものかどうかは競技の様子(動画)をみて判断することができるかと思います(主観的な内容もありますことをご了承ください).

ということで,東京パラリンピックで各選手のテザー使用状況を整理してみました.このテザーを使用する選手は,競技クラスがT11かT12(の一部)となります.東京パラリンピックの実施種目では,男子では100m(T11,T12),400m(T11,T12),1500m(T11,T12はT13の1500mに出場可),5000m(T11,T12はT13の5000mに出場可)が該当します.女子では,100m(T11,T12),200m(T11,T12),400m(T11,T12),1500m(T11,T12はT13の1500mに出場可)が該当します.ここではトラック種目を取り上げます.

男子から確認します.T11の100mでは,予選1組目全員公認テザー,予選2組目全員公認テザー(デイビットブラウンが輪の握りが独特のため,もしかしたら独自のものかもしれない),3組目全員公認テザー,4組目全員公認テザーでした.

T12の100mでは予選が3組あり,合計12名が出場し,1名だけがガイドをつけて競技を行いました.それはドイツのBOETTGER Marcel選手ですが,彼は独自のテザーを使用していました.

T11の400mでは,予選1組目全員公認テザー,予選2組目全員公認テザー,予選3組目3名公認テザーで1名不明でした.

T12の400mでは予選が3組あり,合計8名が出場し,ブラジルのBARROS FERREIRA Fabricio Junior選手のみがガイドをつけていましたが,公認テザーを使用していました.

T11の1500mでは予選が2組あり,合計11名が出場し,1名不明な選手がいましたが,それ以外は公認テザーを使用していました.T11の5000mも同様でした.T13の1500mに出場していたT12の選手は全員単独走でした.T13の5000mに出場していたT12の選手でロシアパラリンピック委員会のKOSTIN Aleksandr選手は独自のテザーのようでした.

続いて女子を確認します.T11の100mでは,予選1組目全員公認テザー,予選2組目全員公認テザー(ブラジルのSIMPLICIO da SILVA Thalita Vitoria選手は輪が滑らないようなテーピング状のものを巻いているようにみえる),予選3組目全員公認テザー,予選4組目は高田千明選手が独自のテザーのような気がしますがその他は公認テザーでした.

T12の100mではガイドをつけてもつけなくても良いのですが,ほとんどの選手はガイドをつけて競技を行います.予選1組目では1名が単独走でそれ以外はガイドをつけ公認テザー,予選2組目では全員公認テザー,予選3組目では全員公認テザー,予選4組目では全員公認テザーでした.

T11の200mでは,予選1組目全員公認テザー,予選2組目全員公認テザー,予選3組目全員公認テザー,予選4組目イギリスのリビークレッグ選手が独自テザーのように見えましたがそれ以外の選手は公認テザーでした.

T12の200mでは,100mと兼ねている選手がほとんどですが,100mに出場しておらず200mに出場した選手は全員公認テザーでした.

T11とT12の400mでは100mと200mと兼ねている選手が多く,100mと200mに出場しておらず400mに出場している選手は全員公認テザーでした.

T11の1500mでは,予選1組目トルコの選手は独自のデザー(輪状箇所)のようでしたが,それ以外は公認テザーでした.T13の1500mに出場していたT12の選手は全員公認テザーを使用していました.

ここまで非常にマニアックな観点で競技を振り返りましたが,選手とガイドがお互いにつながっているテザーにはこだわりが表れている場合があり,単なるロープのように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが,非常に重要な競技道具としての役割を果たしていると思います.

現状では,WPA公認のテザーを男女とも多くの選手が使用していると思います.輪状をどのように扱うのかについては,各選手とガイドが走りやすい方法をとっていることが分かりました.例えば,しっかりと握る,親指以外の4本を使用する,輪状を二重巻きにして中指だけにかける,などです.

終わりに,T11女子の100m決勝では,世界記録保持者のGEBER dos SANTOS Jerusa選手のテザーの輪の部分がスタート直後に切れてしまいました.非常に珍しいことですが,このようになるとDQ(Disqualified;失格)になってしまいますから,常にテザーのメンテナンスを行い競技を確実に完了できるようにしておく必要があると言えます.

(上記動画はT11 女子 100m決勝の該当箇所から再生されます,5レーンが世界記録保持者のGEBER dos SANTOS Jerusa選手です)

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