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中堅・中小企業にとって“在庫管理の徹底”は宝の山

 <要約>多くの企業が在庫管理で苦しんでいるのは、現場の整理整頓、伝票の確実な記入といったアナログ面の対応でつまずいているからだ。逆に言えば、パートタイマーを雇うなり、社員を再教育するなりしてこの面を強化すれば、少ないIT投資で不良在庫削減、資金回転率の向上、確実な発注が可能になり、大きな経営改善につながる。中堅・中小企業がここに取り組まない手はない。


 古くて新しい経営課題の一つに「在庫管理」がある。在庫管理は、商品を販売している企業にとって不可欠の経営行動であるし、IT活用の面でも、POSやSCM等の仕組みにおいて、在庫管理はなくてはならない中核の機能だ。それだけに、在庫管理用のパッケージソフトもかなりの数が市場に出まわっている。

 しかしながら、在庫管理がうまくいかずに不良在庫が溜まっていたり、在庫回転率が目標レベルに達しないで困っている会社も多いのが実情だ。これは、何も中小企業に限った話ではない。中堅企業でも大手企業でも、程度の差こそあれ同じような問題を抱えている。

●“現場力”に左右される在庫管理の精度

 なぜ、在庫管理はそれほどまでに難しいのか。これは、在庫を管理する“現場”の問題が大きい。倉庫の中が整理整頓できていない、入出庫の際に伝票発行などの手続きが確実に実施されていない、経時変化が起きる品物などの状況把握が確実にできていない等々の、現場管理の基本動作に欠陥がある場合が多いからだ。いくらITを使って帳面上の管理ができていても、それが実際の在庫状況と食い違っているのでは意味が無い。完全に実現するのは無理にせよ、現場と帳面の一致を目指さなくては経営改善につなげることはできない。

 極論ではあるが、倉庫を半分にしてしまえば商品を置けなくなり、その分在庫管理が進むと言う人もいる。乱暴だが、それができるなのならやってしまえと言いたくなるのは私だけではないだろう。それだけ在庫管理の改善には各社とも苦労しているのだ。

 ある事務機器の販売会社では、パートさんを雇って在庫管理を成功させた。その方法を取るまでは、社員がキチンと入出庫伝票を書かないため、倉庫内の在庫管理は非常にいい加減なものだった。いくら社員教育を実施しても口うるさく言っても、一向に改善しないのだ。特にサービス部門の修理用部品類の在庫管理がひどい状態だった。当該部門の社員にとっては、お客様への迅速な対応と修理作業の方が優先順位が高く、どうしても修理用部品の管理作業は後回しになる。

 しかし、在庫管理がうまくできていないと、緊急に必要な修理用部品が在庫切れしていたり、不良在庫の山が経営を圧迫したりで、会社にとって良いことは何一つ無い。逆に、在庫管理さえきちんとできれば資金の回転率も良くなるし、お客様へのサービスも確実にできるようになる。この面ではほとんど何も手を付けていないだけに、ここにメスを入れられれば大きな経営改善につながる。だから、なんとしても在庫管理を成功させたいと言うのがその会社の社長さんの思いだった。

 その会社の社長さんは、社員がどうしても伝票記入の手間を惜しむのならばと、在庫管理専用にパートさんを二名雇うことにした。パートさんには伝票管理と入出庫管理、修理用部品の現物管理をお願いし、パートさんを通じてしか在庫品の取り扱いをできないようにした。

 するとどうだろう。目に見えて倉庫内の整理整頓が進み、以前は部品棚に雑然と置かれていた部品類が整理整頓されて並ぶようになった。記入に抜け洩れが多かった在庫表も確実に記入されるようになり、いつでもどの部品の在庫が何個あるのかが把握できるようになった。そのおかげで、デッドストックと汚損・破損している部品があぶりだされ、逆に在庫切れを起こしているものや近々在庫切れになりそうな部品も具体的に把握できるようになった。

●アナログ面を強化すれば、IT投資は少なくて済む

 この会社では、パートさんを在庫管理専門に雇い、パートさんも期待に答えてキチンと仕事を遂行したから成功できたのだ。つまり、在庫管理は伝票の処理やものの出し入れ等、現場サイドで工夫できる部分が多いということだ。逆に、現場でやるべき業務をキチンとやっていれば、在庫管理は恐れるに足らずということでもある。

 それでは、現場管理さえできていれば、ITの仕掛けは不用だろうか? そうではない。現場管理がキチンとできていればこそ、ITの仕組みが活きるのだ。単純に考えて、ITを活用した方が効率的にも精度的にも有利であることは自明である。それに、商品特性に応じた効率的な発注支援といった領域に踏み込むなら、ITのサポートは欠かせない。

 ただ、在庫管理の場合は、現場の整理整頓と伝票をキチンと書くなどのアナログ部分の影響が大きく、まずはこの面での強化に取り組まざるをえない。上記事例のようにパートさんを雇うという施策は、中小企業クラスだと、どの会社ででもできることではない。やはり社員を教育し、鍛え、やるべきことは自分たちでやれる組織を作るべきだろう。

 そのような組織ができれば、在庫管理に仰々しいシステムなど不用である。基本さえできていれば、場合によってはエクセルだけで済むこともあるし、大概の場合は安価なパッケージソフトが使えるようになる。結果的にIT化投資も少なくて済むはずだ。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第72回 中堅・中小企業にとって“在庫管理の徹底”は宝の山」として、2004年4月15日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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