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デジタルとアナログ、どっちが大事?

 ある若い営業マンが建設工事請負の企業へパソコン関連の提案を持っていったときのこと。打ち合わせ相手の現場主任がこうぶちかました。「ワシら、アナログで仕事してるよって、デジタルの事はようわからんわ。大体おたくら、デジタルだけで商売している会社には、ウチなんかのシステム化は無理やで…」。これを聞いた営業マン、とっさに切り返したいところだったが、アナログという強烈な言葉の響きと、真っ黒に日焼けした主任のいかにもアナログっぽい迫力に、すごすご退散してしまった。
 中小企業を相手にした営業では、このような話は枚挙にいとまがない。事務仕事が中心のサービス会社ならともかく、建設業や製造業では、トラックが行き交う建設現場や絶えず機械音が鳴り響く工場など様々である。どれも、人間が泥臭く汗水たらして働いている、まさしくアナログの世界だ。当たり前の話だが、パソコンには人間のような暖かみも泥臭さもない。だから、大抵の現場の人は、パソコンと聞いただけで「そんなデジタルなどいらん」となる。アナログとデジタルという区分けで決めつけてしまっているのだ。読者の皆さんはお笑いになるかもしれないが、結構このレベルでつまずいてIT化が進行できない中小企業は多いのだ。

 先日、電気工事の経営をしている中小企業の社長からこういう相談を受けた。社員は十数名。ほとんどが、現場の人だ。以前は見積積算を手書きしていたが、3年前からパソコンLANを導入して見積積算を徐々にパソコンで行うようにしてきた。目的は明快だ。見積資料を共有し、個別の積算に生かすことだ。

 ところが、この社長は最後に厄介な問題にぶち当たってしまった。1人の古参の社員が、頑としてパソコンは使わないのだ。いままで、手書きで作ってきたものの方が味があり、お客様も喜ぶというのだ。

 一見、この社員の言うことはもっともだ。商売には人間が汗をかく部分、すなわちアナログ的なところは絶対に必要だ。だが、この社員は狭い視野で物事を見てしまっている。パソコン=デジタル、つまりアナログではないという図式だ。このあたりの誤解を解いていかないと、本当のIT化は中小企業ではなかなか浸透しない。さて、どうするかだが…。

デジタルとアナログは対立しない
 IT化は決してアナログ的な部分を否定することではない。あくまでも人がいて、その人が相手に対してアナログ的に接するためのツールとして使用することが、IT化の成功の秘訣なのだ。見積積算の例で言えば、手書きでウエットな印象を与えることも重要かもしれないが、社内で積算情報を共有化することで、より正確で迅速な提案をお客様に持っていける。すり合わせによって再度積算が必要になっても、これまた対応はスピーディーだ。これは、手書きの積算などよりはるかに大きな満足感をお客様に与えることになる。さらに、IT化で浮いた時間をお客様へのアフターサービスの時間に充てることだってできるはずだ。

 いま、CRM(カスタマー・リレーション・マネジメント)が、大企業相手のシステム提案でも大はやりだ。それは、IT化が進めば進むほど、データのやりとりなどは会社の裏方に引っ込み、お客様へのアナログな対応での競争が激しくなってくることを意味している。「アナログが大事だからITはいらん」ではなくて、「今後ますますアナログが大事になるからITが必要だ」という意識に転換しなくてはならない。

(本記事は、「SmallBiz(スモールビズ)※」に寄稿したコラム「近藤昇の『こうして起こせ、社内情報革命』」に、「第6回 デジタルとアナログ、どっちが大事?」として、2001年8月3日に掲載されたものです。)
※日経BP社が2001年から2004年まで運営していた中堅・中小企業向け情報サイト

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