おうち時間にお勧めの旅小説~「ヒッチハイク!:正木忠則君のケース」(作:牛野 小雪)を読んだ感想です
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

おうち時間にお勧めの旅小説~「ヒッチハイク!:正木忠則君のケース」(作:牛野 小雪)を読んだ感想です

 今月はいわゆるKDP、セルフ出版の電子書籍をたくさん読みました。
 その中の一冊である「ヒッチハイク!:正木忠則君のケース」という小説の感想を書きます。

 この小説は、大学三年生の主人公・正木忠則君が東京から徳島県の実家までヒッチハイクで帰る十一日間の様子を描いたものです。
 東京から福島までホンダの軽自動車で。会津まで中型トラックで。新潟までトヨタのクラウンで。富山まで古いホンダで。石川県の兼六園までマツダのデミオで。東尋坊までスバルのプレオで。彦根まではバイクの後ろに乗って。京都までトラックで。大阪までトヨタのSUVで。神戸まではワーゲンのビートルで。香川に渡ってから徳島まではポルシェで。
(それぞれ、ドライバーがどんな人たちなのかは実際に読んでお確かめください。)

 作品の中で、主人公は老若男女、階層もばらばらのたくさんの人と出会うのですが、その人たちの描写が良くて、ああ現実にこういう人っているかもと思いながら読むことができました。
 そんな彼らに、主人公は決して深入りしません。また、文章の行間に「主人公の旅を通して青春を描くのだ」という思念も滲んでいなかったことで、読んでいる自分もすんなりと旅に入り込むことができました。ドライブ中の風景や人との出会いを想像して楽しむことができて、読後感も悪くなく、コロナ禍のインドア生活の中で読むのに合っていたなと思います。

 読んでいる途中から私が興味を持ったのは、
「実家に着いたあと、主人公はどういう行動をするのかな?」
 ということでした。社会の暗い部分に振れる機会もあった道中。体力的にも過酷な旅をしてきたのだし、私だったら実家に引きこもって二週間くらい寝込んじゃうな…と思ったからです。
 けれども、主人公はたったの三日間実家に滞在しただけで東京に帰ってしまいます。

「今夜はもうあっちへ帰るよ」と僕が言うと「夏休みは8月いっぱいあるんでしょう?」と母は言った。
「うん、でも向こうでも色々あるし」 向こうでも色々あるからといって絶対に帰らなければいけないわけでもない。世界中どこでも色々あるものだ。

 よく読むと、主人公は実家の家族に対して、自分がヒッチハイクで帰ってきたということを話していないのですね。一度、落ちていたカニを拾って食べた話をきっかけにして話題に出せそうではあったのですが、家族はカニの話を黙殺したので、ヒッチハイクの話にはつながりませんでした。
 命の危険と隣り合わせの旅をして帰ってきたにもかかわらず、家族はそれを知ることもできないままたった三日でまた送り出さなければならない。
 子どもが大きくなるとそんなものなのか…とぼうっとなりつつも、
 いや、自分の若い頃もこんなふうだったわ…だからうちの子たちもこうなるんだわ…と身につまされたりしました。

 考えてみると、実家や親戚の家というものは、子どもたちが大きくなってしまえば単なる思い出を入れる器でしかなくて、大人になった子どもたちが抱えている実質的な関心事や悩み事を親や親戚に打ち明けたり、それを親や親戚が受け止めたりすることは難しいものなのでしょうね。
 この小説の主人公だって、多分本当に家族に話したいのは、

僕は高校で成績が良かったから担任の勧めで東京の大学へ行った。両親は凄い事だと言っている。でも、東京には各地から僕みたいな人がたくさん集まっていて、僕はその他大勢の一人にしか過ぎないことを思い知らされて、将来の夢なんてものはないし、あってもその通りにはできないし、大学を卒業してもバラ色の未来が待っているわけでもない

 ということなのだと思うのですけど、でも、話せない。
 そんなふうに一人で抱えていたことは私にだっていっぱいあったし、いずれ私の子どもたちにも親には言えずに何かを抱える時がやってくる。
 そう思うと、今はただ、子どもたちにはできるだけ楽しくて優しい思い出をこの家という器に残しておいてあげようと思えます。
 同時に、今まで考えるだけでも億劫だった実家や親戚との付き合いも、単に自分の過去の記憶が億劫にさせているだけなのだとすれば、コロナ禍が明けた暁にはもう少しさくさくこなせるようになるのかもしれないな、と思いました。

 今回は、ドライブと帰省、法事と親戚付き合いの擬似体験ができて思わずこの先の人生まで考えてしまうというお得な読書体験をしました。
 これを読んで、気になった方がいらっしゃればぜひ、お試しください。

この記事が参加している募集

読書感想文

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
こんぶ堂

いただいたサポートは、noteやKDPなどで出版社を通さず個人で活動されている作家さんの小説を購入し、皆様にご紹介していくために使用します。

お互い、いいことありますように。
お話を書きながら夫と子らと暮らす主婦。たまに出社します。