リモートコラボレーションの可能性を探る

ご挨拶


初めまして。介護福祉士兼トランペッターのkonbと申します。

2022年現在、DTM(っていう呼称はあまり好きではないのですが)の世界では、実際に顔を合わせたことの無いミュージシャン達と交流を持てるのはもちろん、時にはコラボレーションという名の共同作業で、作曲・演奏することもあります。素晴らしいことです。インターネットのある世界で良かった。
さて先日、コラボレーション(以下コラボと略)を進めるなかで、改めていくつか発見する点があり、また考える機会がありました。
忘備録としてnoteに書き留めておきたいと思います。



今回のコラボの共同作業者は、BGM Craftsmanさん(https://twitter.com/BgmCraftsman)です。

ElectronicaやLo-Fi、Chill outからJazzy Beat、Ambientまで、とても幅広い音楽性を持つ優れたクリエイターさんです。


こんなのがやりたい


別件のコラボを終え、次回のアイディアをあれこれ話していたのですが、
「せっかくだから、今までやったことのない形をやってみたいよね」
という話の流れになり、
「なんだか良く分からないものをやりたい、よくあるJazzy Hiphopとかじゃなくて…フリージャズ、ノイズ、IDM、Boombapみたいな」
とBGMさんから出たキーワードで、僕の頭に閃くものがありました。

僕は(自分でトラックを組むこともあるのですが)基本的には演奏者ですので、こういったコラボの機会を頂く際の定型はあります。

トラックメイカーさんにオケを作ってもらい、トランペットでソロを録音して送り返す。編集されたラフミックスを聴き、若干意見を述べて、完成。

もちろん、この方法論に不満はありませんし、素晴らしい作品創りに関わることが出来たケースも多いです。
が、やや天邪鬼気味な僕としては、一度この定型を崩してみたく、その機会を伺っていたのです。

要するに、

まず僕がアカペラでトランペットを録音して、そこにオケを作って欲しい。

近年、remixの手法はすっかり一般的になりました。
ヒット曲のヴォーカルトラックを抜き出して、そこに原曲とは異なる雰囲気のオケを用意し、トラックメイカーの名義で発表する。
あれをやりたかったんです。ただし、元になるヒット曲は存在しないので、あくまでも「架空のremix」を。
幸いBGMさんも面白がって下さったので、すっかりやる気モードに火がつきました。

規律と混沌

BPMだけ決めて、即興的にトランペットを吹く。
これだけでも良かったんですが、やや天邪鬼としてはもう少し要素を足してみたくなりました。
なんとまあスタジオ入りの当日の朝に思いついたのです。
(前日の夜に、晩年のコルトレーンを聴いていたのが良くなかったのかもしれません)

擬似的な集団即興をやってみたい(一人で)。カオスだよ全員集合。

ただし、本当に出鱈目だけを録音したデータを送る訳にもいきません。
ルールを設定しました。

1. スケールはFminor及びBPM90。これは厳守する
2. コンセプトの異なるイメージで吹いたテイクを数種類用意する
3. 4/4拍子あるいは6/8拍子のどちらを用いても良い
4. テイクの取捨選択は、トラックメイカーに一任する。カットされても拗ねない

そして、こんな風になりました。

全て、10数秒のみのサンプルです。
「浮遊感とロングトーン」「リズミックなリフ主体」「銭形マーチ風の演歌っぽい歌い回し」「ミュートでfunkっぽいノリ」
それぞれのイメージで吹き分けた..はずです。

そりゃ困るだろうね

録音データを送られたBGMさんは、さぞ困っていたと思います。
少し無口になっていました(笑)。

「…例えば、これが全部同時に鳴っていても、平気なわけですか?」
「大丈夫ですよ、理論的には」
リスナーさんは戸惑うかもしれないけど。
このテイクを全て使う必要もなくて、好きなところだけ切り刻んで、加工して。
もう何をしても良いです。僕はBGMさんのセンスを信じています。
「分かりました、少し時間はかかると思います!」

やったあ、僕は自分のテイクにハサミが入ることには全然抵抗が無いのです。
「リズムがずれていたところ、修正しました。ピッチも音痴なのでメロダインしておきましたよニヤリ」
とかだと少しイラっとしますが、サンプリング素材として刻まれるのは歓迎なのです。
カットアップだけで創作出来る、ビートメイカーさんにはずっと憧れているのでした。
僕のことも刻んで欲しい。

情念と編集

黒歴史に入れようとして、思い出したことがありました。
そもそも僕は、10数年程前のことですが、集団即興演奏の場にいたことがあったのです。
情念と情念がぶつかりあいカオスになる現場。演奏者は楽しいんですが、聴衆はきっと退屈なんじゃないかあ、と醒めた目でみていたものです。
コンダクターを置くとか、何かしらの明快なルールを設定するとか、
第三者の客観的な視点が入るだけで、ずいぶん聴きやすくなるのに。

情念(主体)と編集(客体)。
個人がエモーショナルに即興演奏した素材を、相方が客観的に編集を施して作品にする。

これが、DAWを駆使したリモートワーク時代の、新たな即興演奏の形じゃないか?
なんだか大変なテーマを発見してしまったんじゃないのかしらん、うわあ。
BGMさんの作業を待つ間に、独り興奮する僕でしたが、なんのことは無い。
先人は既に、偉業を成し遂げていたのですよ。
それが、Miles DavisとTeo Maceroの関係。

終わりに

そして  BGMさんから完成したトラックが送られてきました。

見事です。
クールなピアノに導かれ、ビートに沿ったミュートトランペットと、一見グリッドから外れて聴こえる複数のトランペット群が、波のように寄せては返し、緊張と緩和を繰り返してストーリーを語る。

こういうのがやりたかった。

皆様はお聴き頂いて、どのように感じられたでしょうか?

ご感想、ご意見など頂けると幸いに存じます。



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