2020年10月25日

 こなつは大食らいだが、水もよく飲む。
 思えばこなつを私の家に連れ帰ってすぐ、ケージに入れたら自分で給水機から水を飲んだ。びっくりして褒めそやしたらドヤ顔をしていた。そして今でも水を飲む時にちらりとこちらを見る。お水飲んでえらいねと私は言う。
 そんなふうにして一日に500ミリリットルのペットボトル一本半を飲む。散歩中も給水することが多い。しなかった散歩では帰るなりごくごくやる。そしてじゃばじゃば出す。成犬が一日使えるとされるペットシーツを一度で取り換えることも少なくない。水を飲まないと健康にさわりがあるから、いいことである。

 いいことではあるのだが、いくらなんでも多すぎるのではないかと思って標準量を見た。そうしたら1日あたり体重の5パーセントよりは多く飲ませた方がいいと書いてあった。
 こなつの体重は先の動物病院検診で4.8キロだった。今は5キロ以上あるはずだ。体重の10パーセント以上の水を飲んでいることになる。日によっては15パーセントとかだ。
 そのわりに体格は大きいほうではない。近所にこなつより半月ばかり年嵩の柴の子犬がいるのだけれど、こなつよりずいぶんと大きい。からだつきが全体にどっしりしており、首まわりの皮も柴らしくたっぷりと余り、シルエットに丸みがある。
 この子犬のフードの量は300だそうだ。こなつは現在400、一度420に上げたら消化が足りなかった。それで戻した。最近はようやくがっつかなくなったが、それにしたって大食らいである。この月齢でのペットフード会社による目安が200ほどだから、近所の子犬もよく食べるほうなのだろうが、こなつはそのさらに1.5倍以上だ。フードを皿に盛るとちょっとした成人の昼食くらいの迫力がある。うちに来た当初から常時フード目安量の二倍以上を平らげ(ブリーダーさんの示した最初の量からして多かったのだ)、そのくせ「管狐ちゃん」とあだ名される細身のままである。
 どうにも教科書どおりでない。でもまあ、いいか、と思う。健康で機嫌もいいから、いいや。獣医さんも健康で順調だと言っていたし。他の犬の二倍食べて二倍飲む、いいじゃないか。

 とはいえ、気にならないことがないのでもない。こなつは獣医さんいわく「バスケ部かな、テニス部かな、陸上部かな?」というアスリートな子犬だ。私が一緒にダッシュしている程度でじゅうぶんとは思われない。ドッグランが必要だ。他の子犬とリードなしで遊ぶ機会も作ってやりたい。
 こなつは犬づきあいがわりとできるほうだとは思うが、それは近所の犬の飼い主のみなさまの好意とコントロールによるところが大きい。ドッグランデビューしたら、リードなしで犬づきあいをしなくてはならない。こなつの自己判断で他犬に接することになる。そうなったら他犬に遊んでもらおうとつきまとってどやされるのが目に見えている。リードがついていたってすでにどやされているのだ。吠えられるといったん引くがまったく懲りない、それがこなつである。少しは懲りてほしい。できるだけ安全なシチュエーションで適度に懲りてほしい。

 そもそも私は自分ひとりで適切な飼育ができると思っていない。これまでは思いのほか愉快に暮らすことができているけれども、こなつが来る前は「きっといろんなことがうまくいかないだろうし、持てあますこともあるだろうし、犬なのに密に接する相手が人間だけでうまく育つなんて考えられないから、犬の保育園的なところに連れていこう」と考えていた。そのための予算もとってあった。
 今はたまたまうまくいっているだけだ。たまたまこなつがすごく人間に都合の良い性質を持っていて、運動の機会と刺激さえ与えておけば機嫌がよく、ハウスさせれば自分で敷物を折って寝床をつくってぐうぐう眠り、退屈してもせいぜい憮然とした顔で小さい声を出す程度で、いわゆる無駄吠えもせず、他の犬も人間も怖がらず、訓練らしい訓練もなしにおすわりまでできる学習能力をそなえた個体だったという、それだけのことである。
 現代の家庭犬飼育は偶然にいつまでも乗っかっていられるほど甘いものではあるまい。この先、都市の複雑な環境で犬も人も安全に暮らすために、より複雑な学習をしてもらう必要がある。具体的には散歩中に胴輪がすっぽ抜けたり犬の接し方を知らない人に突然手を出されたりしても対応できる犬になってもらう必要がある。もちろんドッグランで上手に犬づきあいができる必要もある。

 そういうわけで近隣の「犬の保育園」的なところを見学してみたのだけれど、なんかちょっとちがった。とてもきちんとしたところで、室内ドッグランなどもあって、いい環境だ。けれどもご褒美のおやつが多すぎるし(ひっきりなしといってもいい)、芸みたいなのを仕込んだりする。私が求めているのはそういうのではない。山岳救助犬とか警察犬とかをめざすならいざ知らず、こなつはただの家庭犬なので、そんなに複雑なことをできる必要はない。公園で鳩を狙うなど猟犬の素質はありそうだが、飼い主の私が猟に向いていない。
 「犬の保育園」では犬同士でたっぷり遊ばせてくれて、こなつが疲れて寝るまで運動させてくれたらそれでいい。コマンドは人と犬の安全のためのものだけを、一歳くらいまでに確実にできるようになればいい。人間を楽しませるために三回回ってワンみたいなことする必要はとくにない。
 私は、ハウスのときやリビングでのトイレトレーニングのときくらいしかおやつを使っていない。「まて」も「おすわり」もフード前などにできたら褒めていただけだし、ケージ内でのトイレに至っては自主的にマスターした(トイレを済ませると褒められようと思って私を呼ぶので、褒めてはいる)。こなつはそういう個体なのだ。こなつにとってフードは何のご褒美でもなく毎日好きなだけ食べるもの、おやつはときどきわけもなく来客や公園で会う人がくれたりするものだ。それでいいのだと私は思っている。

 そんなわけで少し遠方の「犬の保育園」的なところに相談に行った。こなつにとっては私の家に来たとき以来の電車である。しかし自動車での遠征に比べたら余裕だったようだ。どちらかというと大きくなったこなつが入ったクレートを運ぶ私のほうがしんどかった。
 相談してみると、犬同士でたくさん遊べて方針も私に合う。ちょうど柴犬の子犬三頭がいて、こなつもとても楽しそうだったから、そのまま一週間の預かり保育(?)をお願いした。どんな経験をして帰ってくるか楽しみだ。しかしすでにさみしい。一週間耐えられるかな、私が。
 

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