人種および遺伝とスポーツに関する読書2冊


最近、人種とスポーツ、遺伝とスポーツに関する2冊の本を読んだので個人的メモも兼ねて。

1冊目:人種とスポーツ - 黒人は本当に「速く」「強い」のか (中公新書)

こちらは近年スポーツで特に存在感の大きい「黒人」についてまとめたもの。スポーツにおける黒人の受容され方、という人文科学的な面が主で、遺伝学的記述は従という感じ。黒人の扱われ方の事例は興味深く、全体的な概論よりもこのような特定の事例からの切り口の方がかえって全体を明らかにしてくれる好例だと思います。ただ、アメリカの事例が大半であり、遺伝学的な記述はちょっと物足りない印象。

2冊目:スポーツ遺伝子は勝者を決めるか? アスリートの科学 (ハヤカワ文庫NF)

こちらは遺伝とスポーツに関する直近の研究事例を、関係者へのインタビューも含めてまとめた一冊。本当に圧巻というべき出来栄え。黒人に限らず、スポーツに有利となる要素の遺伝学的研究成果がこれでもかと並べられています。
遺伝と並列して、トレーニング量と時期についての議論、いわゆる「一万時間の法則」についてが本書のもう一つの軸でもあります。結論としては、身もふたもない「遺伝的要素と適切な練習の両方が伴うとトップアスリートになれる」ということになるのだけど、幼少期の練習量に関する調査結果は興味深い(トップアスリートとそれに準じるグループで比較すると、トップアスリートの幼少期の練習時間は平均して「短い」というもの). 多競技に親しんで自分の遺伝的特徴に合った競技を見つけることの重要性も指摘されている。
 こういった遺伝学的知見って、体育学系大学とかスポーツクラブとかでどの程度知られているものなんでしょうか…

その他雑感など

・双方ともに東アフリカ一部地域の住人が持つ長距離走に有利な遺伝的特徴について述べていますが、その結論やトーンは若干異なるように思える。読み比べでわかるのも興味深かったです。

・最近の陸上競技って,記録の更新よりも勝敗を主眼に置き始めたように(私からは)見えているんですよね.これは,近現代社会でスポーツが組織化される過程で行われてきた「遺伝子プールの中から記録更新に適した遺伝特性を発掘する」作業が,全世界の人類を巻き込むことでほぼ収束を迎えていて,記録の更新とかそう簡単でないよねー,という現状を反映しているのではないか,という私見(仮説).

・あと,「スポーツ遺伝子は~」の方で,経済的な側面に言及されていたのも興味深かったです.ケニアやジャマイカは陸上長短距離界を席巻していますが,陸上よりもより「稼げる」競技が現れた時や,そもそもの生活水準が向上して陸上で稼げる額が相対的に低下したとき,果たして現在ほど陸上競技が若者を引き付けるのか?という観点.

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