『マチズモを削り取れ』感想

・武田砂鉄氏は柔らかい。だけど退かない。

 武田砂鉄氏『マチズモを削り取れ』読了。
 マチズモは、本書ではこう定義されている。「この社会で男性が優位でいられる構図や、それを守り、強制するための言動」(武田砂鉄『マチズモを削り取れ』集英社、2021年より引用)。
 ライターの武田砂鉄氏(シスジェンダー男性)が、編集のKさん(シスジェンダー?女性)からマチズモへの怒りの檄文を受け取り、マチズモ、構造や言動を考察したり実際に体験して検証する。全12章に異なる事象が扱われるが、その根幹は全てマチズモだ。
 読み口として柔らかく訥々とした語り口で頭にゆったりと入ってくるが、そのスタンスは決して「柔」ではない。連載中に本連載を揶揄した文書にキッチリ反論し、マチズモを発揮しまくる各種著名人を名指しする。文体は柔らかいけど硬派。

・ゲップが出そうな量の「街のマチズモ」

 それにしても全12章、全て異なる話題なわけだが、よくもこれだけマチズモが転がっているとゲップが出そうになる。
 わたし自身女性なので、大半の感覚を強く理解する。ただし、高級寿司や満員電車の章は生活が異なりすぎて実体験に引き寄せることができなかった。逆に言えば、当事者であるわたしですら未知のマチズモが横たわっているということである。
 都心の会社員であるKさんの気づきを起点としているので、これは街のマチズモだ。マチズモっていうかもう街ズモだ。街で生きることの前提にマチズモが組み込まれている。マチズモを消し去ったら街全体が歯抜けのジェンガのように崩れ落ちるんじゃないか。崩れ落ちてしまえ。
 なお、ムラ社会のマチズモ検証ではなかったが、ムラにはムラのマチズモ、村ズモがあることも当然想定される。学校の学ズモや家庭内の家ズモなど多数存在するだろう。ただそこにあるズモ(語尾)。

・丸めない、背伸びしない。誰かに媚びない自己(属性)批判でとても良きでした。

 「おわりに」でも武田砂鉄氏が書いているのだけど、男性という属性が発揮しがちなマチズモを注目する時、別にマチズモにマッチしていないノンマッチズモな男性が怒り狂うことがあるという。
 その感覚もなんとなくわかる。特に痴漢の話になるとその辺りがバグる人が存在することは体験したことがある。アンタのこと言ってないけどなんで怒ってんの?アンタやってんの?痴漢してないなら痴漢撲滅で問題ないよね?アンタやってないんだよね?痴漢冤罪って言うけど、アンタそもそも痴漢やってないんだよね?大丈夫?やってないよね?
 「ある属性に多い批判」を展開する時、「属性の批判を個人への批判として受け止める個人」に媚びてしまう本がある。
 好みの問題はあるけど、わたしはそれは好きじゃない。
 『マチズモを削り取れ』は、そういった媚びがなくて良かった。媚びていたら、削り取れないものがあるズモ(語尾)。

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