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「実録・不妊治療の始まり方」

まず最初に、すっかり奥の方へしまい込んだままにしていた自分の記憶を掘り起こす意味も含め、当時の診療明細書を元に「不妊治療の始まり方」を書き起こしてみる。
ここでは基本的に実体験に沿いつつ、身近な相談相手がなかなか見つけにくいという不妊治療特有の事情から、当時の自分が事前に知っておきたかったであろうことも重ねて記しておきたい。



<不妊治療の始まり方>

2021年、5000人の女性を対象に行われたインターネット調査で、婦人科に関して「実際に相談できるかかりつけ医をもっている人は1割に留まる」という結果が出ていたことがある。
当事者の女性であっても、それまでに妊娠か婦人科系疾患の強い症状を経験していなければ、実はなかなか縁遠いのが婦人科だったりするのだ。
しかも受診を意識した理由が不妊であった場合、病院選びの時点からしてすでに心理的ハードルはとんでもなく高い。
私自身も、正直ネットの検索結果の取捨選択ひとつから苦心していた覚えがある。

不妊治療に対応している病院は、実際には大きく2つの種類に分かれる。

  • 「タイミング法」~「人工授精」までをカバーしている病院(いわゆる”一般不妊治療”)

  • 「体外受精」もしくは「顕微授精」までをカバーしている病院(いわゆる”高度不妊治療”)

その違いをすごく簡単に説明すると、一般不妊治療は婦人科の一般的な内診台でもできる治療法なのだが、高度不妊治療は専用の手術室がある病院でしか対応できない。
こういった事情を踏まえると、不妊治療の開始年齢が30歳~だったり、夫婦どちらかに気になる既往歴・基礎疾患があった場合は、初めから「体外受精」「顕微授精」までできる病院に通った方が、治療のステップアップを要する際に転院の手間が発生しないというメリットがある。
あとは個人の事情によって、こういった点もチェックしておくとなお良いと思う。

  • 女性医師の有無(女性医師の診察を希望する場合。初診予約時には必ずその旨を伝える)

  • 院内での男性不妊への対応(男性側に気になる既往歴や性機能障害の疑いがある場合)

ちなみに私自身はというと、たまたま数か月前まで家族の入院の付き添いで通っていた病院が、不妊治療にも対応していることを知り、すでに病院の雰囲気をなんとなく理解できていることが選択のひと押しとなって、初診を予約できた。
後にサプリを購入する関係で別の不妊治療専門クリニックにも行く機会があったのだが、その際に感じたのは「病院と自分の相性は待合室にいるとなんとなく勘づく」、ということである。
なのでこれから病院の候補を絞る場合は、詳しい治療内容の他にホームページなどで待合室の内装を確認しておくこともぜひおすすめしたい。

<不妊治療に対応している病院を選ぶ際に使いやすい/参考になるサイト>

  • 不妊治療情報センター(病院検索システムが使いやすく、情報も充実)https://www.funin.info/

  • 厚生労働省:不妊に悩む方への特定治療支援事業 指定医療機関一覧(都道府県、もしくは市ごとの高度不妊治療・対応病院の一覧が閲覧可能なほか、個別の治療実績や自費負担時の参考金額も確認できる)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047346.html

<不妊治療の初診>

さて、予約ができたらいよいよ病院に足を踏み入れる。
初診なのでまずは受付で問診票を記入し、順番が来れば診察室に入る、ここまでは他の科と大体同じだ。
ただし診察室に一度入って、医師からの説明や確認などのやりとりをした後、ここからが婦人科特有の内容になっていく。

  1. 着替え室代わりのカーテンの向こうで下着を脱いで内診台に座り

  2. 用意ができたら足の部分が電動で持ち上がって

  3. 間仕切りカーテン越しに内診&超音波(エコー)検査
    ※病院の方針によっては間仕切りカーテンなしのところもあり

(いらすとや より)

「子宮・卵巣を産婦人科的に診察しておして痛いところがあるかどうかを見るとともに、細い(直径約1.5-2 cm)超音波プローブを腟から挿入して子宮筋腫・卵巣のう腫・子宮内膜症などの異常がないかを確認します」

『Q7.不妊症の検査はどこで、どんなことをするのですか?』日本生殖医学会http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa07.html

この説明を患者視点で翻訳してみると、

「ヘソから指7~8本分くらい下のあたりを軽く押されて「痛くないですか」と聞かれた後、多少の異物感はあれど痛みはない超音波プローブで、自分の子宮や卵巣の状態をモニターにて確認」

という流れである。
特段の異常がないケースだとヘソの下を押されるのは5秒程度、超音波プローブでの検査もせいぜい数分といったところだ。
そして内診と着替えを経て再度診察室に戻り、医師の説明をもう少し受けた後にいくつかの検査(だいたい血液検査・尿検査まで)を済ましたところで、不妊治療の初診は終わりになる。

私の場合はこの後、受診3回目までは前回の検査結果の確認/内診/採血くらいしかやることがなかった。
しかしここまでに大きな異常がなかった場合、受診4回目くらいに、“あの検査”の順番がやってくる。

<不妊治療最初の関門・子宮卵管造影検査>

「子宮卵管造影検査」は子宮と卵管を対象とした、いわゆる放射線検査(エックス線検査・レントゲン検査)のひとつである。

「子宮卵管造影検査は、X線による透視をしながら子宮口から子宮内へ造影剤を注入し、子宮の形や卵管が閉塞していないかを見る検査です」

『Q7.不妊症の検査はどこで、どんなことをするのですか?』日本生殖医学会
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa07.html

上記の引用にもある通り、基本的には子宮内に造影剤を注入し、レントゲン撮影をして、子宮の形状や卵管の詰まりの有無を確認するのがこの「子宮卵管造影検査」の内容だ。
しかしまぁ、この検査が、不妊治療界隈ではとにかく「痛い」で有名なのである。
痛みを感じるポイントはだいたい共通していて、特に ①子宮の中に造影剤注入用の管を入れるとき ②卵管に造影剤を流すとき という感想が多い。

「痛みを感じるポイントは2つあります。1つ目は膣から子宮の中にチューブを挿入するときです。出産時以外は狭くなっている内子宮口にチューブを入れるため、内子宮口を広げる際の痛みが生じます」
「2つ目はチューブを通して造影剤を子宮や卵管に注入していくときです。このとき卵管が狭くなっていたり詰まっていると痛みが強くなります」

『不妊治療の検査は痛い?検査内容や少しでも痛みを和らげる方法について:卵管造影検査の痛み
』はらメディカルクリニック
https://www.haramedical.or.jp/content/infertility/pain

結果から先に言ってしまうと、私自身はこの検査で子宮・卵管ともに異常は見つからなかったのだが、たとえ異常のない状態であったとしても、①は軽い~中程度の生理痛に似た痛さ、②は(ギリギリ我慢できたレベルではあるものの)重い生理痛くらいの痛さがあった。
先の解説でも触れられているように、もしも卵管の閉塞や詰まりがあった場合、②はさらに強い痛みが出るのだろうと想像するが、ここで難しいのは「この子宮卵管造影検査をやらないと卵管閉塞や詰まりの正確な判断は難しい」という、不妊治療の逃げようのない現実なのである。

「卵管は精子が卵子に向かい、受精した卵(胚)が再び子宮に戻るための道です。卵管が炎症などによって詰まっていると、妊娠は起こりません。卵管炎や骨盤腹膜炎の原因となるクラミジア感染症にかかったことがある方で、ほとんど無症状のうちに卵管が詰まっていることもあります。また、強い月経痛がある女性の場合、子宮内膜症が潜在していることがありますが、この子宮内膜症の病変によって卵管周囲の癒着が起こり、卵管が詰まっている場合もあります」

『不妊症』日本産科婦人科学会
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15

痛みはあっても、妊娠を希望する場合に「子宮卵管造影検査」を受けることが重要なのはまず間違いない。
(ちなみに個人的な感想としては、この子宮卵管造影検査を乗り越えられた場合、一般不妊治療までの処置は全部乗り越えられる自信を持って良いと思う)

<そして、検査の果てに>

とにかく子宮卵管造影検査のインパクトが強烈すぎて、やたら長々と書いてしまったのだが、実際には初診から子宮卵管造影検査までの通院回数は計4回、日数にするとここまでは、大体1ヶ月以内に収まる話なのである。
そして1~2か月くらいのスパンで検査+基礎体温の記録を進めていくことで、その間に女性側は生理不順(月経不順)や排卵障害があるかどうかもなんとなく判明してくるだろう。

私は受診5回目に子宮鏡検査(子宮の中の内視鏡検査、これは数年経った今では記憶からサッパリ消えている程度の感想しかない)も行い、幸いなことに、ここまでの全ての検査で異常は発見されなかった。
そうなると、医師も女性患者側も「次は旦那さん」となるのは、ごく自然である。

当時の診療明細書を振り返ると、夫が初めて検査を受けたのは、私の初診から約3か月後になっていた。
夫は最初からこういった通院・検査にとても協力的な人で、当事者の実感としても、これはかなり早いタイミングだったように思う。
不妊治療は女性側の検査項目の方がどうしても多いし、まずその一連のはっきりした結果が出るまでに1~2ヶ月ほどの時間は要する。
しかも、夫は私より一歳年下だったのだ。
35歳になった私のはっきりした診断結果が出てから、34歳になったばかりの夫にも検査を受けてもらおう。
当時はまだ、それくらいの気持ちの余裕を持てる年齢だったのである。

次に私が病院へ行けたのは、仕事と生理周期の関係で、夫が検査を受けてからまもなく3週間になろうとしていた頃だった。
私の主治医は物腰柔らかな人で、初診時もその後もいつもにこにこと、「35歳はまだ若いです」「大丈夫ですよ」と私に励ます言葉をかけてくれていた。
その日も、診察室の扉を開けた瞬間はいつものように、微笑み交じりだったと思う。
ただそんな主治医の表情が、看護師から受け取った夫の検査結果の用紙に目を落としたときに、初めて曇ったことが、今でもずっと忘れられない。


参考文献
・ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社『女性ならではの健康の悩み・重症化リスクの高い婦人科系疾患 かかりつけ医に相談できている女性は1割に留まる』PR TIMES
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000050509.html
・『不妊に悩む方への特定治療支援事業 指定医療機関一覧』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000047346.html
・『不妊に悩む方への特定治療支援事業の実施医療機関における設備・人員等の指定要件に関する指針』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14960.html
・『Q7.不妊症の検査はどこで、どんなことをするのですか?』日本生殖医学会
http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa07.html
・『不妊治療の検査は痛い? 検査内容や少しでも痛みを和らげる方法について』はらメディカルクリニック
https://www.haramedical.or.jp/content/infertility/pain
・『子宮卵管造影・卵管検査と治療』扇町レディースクリニック
https://olc.ne.jp/hsg
・『不妊症』日本産科婦人科学会
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=15

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