読書備忘録_2

【読書備忘録】アレフから石蹴り遊びまで

アレフ
*岩波文庫(2017)
*ホルヘ・ルイス・ボルヘス 著
*鼓直 訳
 ボルヘス作品は虚構と現実の境界線が不透明というか、物語が生まれるまでの思考内容が物語に換えられるような印象がある。本作でも空想や思索の痕跡がうかがえてどこまで小説・随筆として読めるかわからなくなる。その不思議さが面白い。
https://www.iwanami.co.jp/book/b280254.html


天使の恥部
*白水Uブックス(2017)
*マヌエル・プイグ 著
*安藤哲行 訳
 過去と現在と未来。アナと女優とW218。各時代も各人物の物語が入れ替わる中、プイグの得意技である会話や文書に徹する表現法で物語群は呼応する。この小説では会話と日記と三人称描写で進行し、パートの面白味を伝えてくれる。地の文にこだわる小生でもプイグの文体には愛着がわく。
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b269907.html


入門 国境学 領土、主権、イデオロギー
*中公新書(電子書籍版 2016)
*岩下昭裕 著
 北方領土、竹島、尖閣諸島を始めとする各領土問題をボーダースタディーズ(境界研究)の観点から解釈。長年の実地調査に裏付けられた国境・境界の仕組みが具体的に記述されており、諸問題に向かう上で大きな助けになる。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/03/102366.html


スウィム・トゥー・バーズにて
*白水Uブックス(2014)
*フラン・オブライエン 著
*大澤正佳 訳
 まさに実験小説。語り手・架空人物・架空人物の架空人物による3層の世界。加えて架空人物の架空人物が書き手である架空人物に干渉する構造が凄い。ときおり展開されるプロット的描写や詩的表現も味がある。
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b272818.html


病短編小説集
*平凡社ライブラリー(2016)
*アーネスト・ヘミングウェイ サマセット・モーム(他) 著
 ワシントン・アーヴィングより始まりジョン・アップダイクに終わる、各時代に活躍した作家たちが紡いだ「病」の物語。ハンセン病・梅毒・神経衰弱、他多数を含めるデリケートな「病」の作品がおさめられており、多様性のある医学小説作品集となっている。
http://www.heibonsha.co.jp/book/b243365.html


医学の歴史
*講談社学術文庫(電子書籍版 2003)
*梶田昭 著
 人類における医学史を振り返ると、必然的に世界史も生物学も人類学も哲学も含む古今東西の文化を通過する。本書では古代の治癒神やヒポクラテスに始まり、2度の世界大戦を経て近現代史に迫る。歴史に根付いている医学の変遷を概観するよき1冊。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784061596146


批評理論入門『フランケンシュタイン』解剖講義
*中公新書(電子書籍版 2005)
*廣野由美子 著
 メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』を題材に、小説技法と批評理論の手法が解説される。決め手は各理論に則った解釈が例示される点だ。具体的で実用性に富んでおり、文章力と読解力の向上に繋がる。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2005/03/101790.html


大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争
*幻冬舎新書(電子書籍版 2016)
*辻田真佐憲 著
 デタラメな公式発表の代名詞たる大本営発表の内実が丁寧に解説されている。陸海軍報道部の対立、誤認と虚飾だらけの戦果、そうした稚拙な構造は早い段階で破綻。組織としての腐り具合が厖大な資料をもとに記述されており、参考になる。後半部では現代にも息づく政治と報道の関係・問題に言及、ここで鳴らされる警鐘は「今」を考える上で重要な鍵になりそう。
http://www.gentosha.co.jp/book/b10169.html


炸裂志
*河出書房新社(2016)
*閻連科 著
*泉京鹿 訳
 内なる因果に基づく神実主義。超リアリズムとも称される独自の手法に則り、盗賊と娼婦による神話とも、村の変遷を辿る年代記とも、ディストピアを語るSFとも言える世界を体現した快作。マジックリアリズムを採り入れた表現力豊かな筆致に加え、ポストモダン文学を彷彿させる独創性に彩られている。閻連科氏の勢いはとまらない。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309207216/


石蹴り遊び
*水声社(2016)
*フリオ・コルタサル 著
*土岐恒二 訳
 1冊にして2冊の書物。第1の書物は第1章から第56章まで。第2の書物は各章末の番号順に読み進めることで成立する。既読の章を異なる順序で読み、隠れた主題を見付ける構造は人間業ではない。圧倒的な構成の美しさ。哲学的でありゲーム的な主題。コルタサルには短編の名手という印象を抱いていたが、この大長編を読んで評価を改める必要を感じた。
http://www.suiseisha.net/blog/?p=6176


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 読書備忘録ではお気に入りの本をピックアップし、感想と紹介を兼ねて短評的な文章を記述しています。翻訳書籍・小説の割合が多いのは国内外を問わず良書を読みたいという小生の気持ち、物語が好きで自分自身も書いている小生の趣味嗜好が顔を覘かせているためです。読書家を自称できるほどの読書量ではありませんし、また、そうした肩書きにも興味はなく、とにかく「面白い本をたくさん読みたい」の一心で本探しの旅を続けています。その過程で出会った良書を少しでも広められたら、一人でも多くの人と共有できたら、という願いを込めて当マガジンを作成しました。

 このマガジンは評論でも批評でもなく、ひたすら好きな書籍をあげていくというテーマで書いています。短評や推薦と称するのはおこがましいかも知れませんが一〇〇~五〇〇字を目安に紹介文を付記しています。誠に身勝手な文章で恐縮ですけれども。

 番号は便宜的に付けているだけなので、順番通りに読む必要はありません。もしも当ノートが切っ掛けで各書籍をご購入し、関係者の皆さまにご協力できれば望外の喜びです。


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