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1年で約500店舗が減少。街の書店は本当に世の中に必要とされなくなっているのか?

今年4月。東京・赤坂の某書店にこんな貼り紙が掲示された。

赤坂駅周辺の書店が無くなる・・・

○2021年3月31日 金松堂書店閉店
○2022年1月31日 TSUTAYA赤坂店閉店
○2022年6月17日 文教堂赤坂店閉店

赤坂駅周辺の書店が1年ちょっとの間に全て無くなってしまいます。
約90年続いた老舗の金松堂書店さんが閉店。
TSUTAYA赤坂店さんの閉店も寝耳に水でした。
当店も地区再開発で閉店となります。

書店という業態は世の中に街に必要とされなくなっているのだろうか?
皆様に愛される書店を目指した文教堂赤坂店。
志半ばで去らなくてはいけなくなりました。
またこの地に戻って来る。
この気持ちを胸に日々精進いたします。

文教堂赤坂店 従業員一同


書店員の悲痛な叫びが記されている。文教堂赤坂店の開店は1995年。一等地のオフィス街でビジネスマンによく利用され、27年間続いてきたが、今年6月17日をもって閉店となった。

一方、東京・上野にあった明正堂アトレ上野店の創業は、1912年。老舗書店として今年創業110年を迎えたが、GW明けの5月10日をもって閉店となった。

いずれも地区の再開発だけでなく、インターネット通販の拡大や電子書籍の普及、さらに、長引くコロナ禍による追い打ちがとどめを刺してしまった形だ。2003年度に2万店舗以上あった書店の数は、この20年で半減し、2021年度は1万1,959店舗(一般社団法人 日本出版インフラセンター調べ)。平均すると、1年で約500店舗が減少し続けている計算になる。

冒頭の書店員が記したように、書店という業態は、世の中に、街に、本当に必要とされなくなっているのだろうか――。そんな思いを胸に巡らせていた時、一通のメールが弊社に届いた。

      * *

手紙の主は、47歳の女性。若い頃、飲食関係の仕事をしていたが、二人の子を連れてオーストラリアへ親子留学をした際、オパールの宝石の美しさに魅了され、石の卸からジュエリーを販売する会社を立ち上げたのだという。

何の経験もコネも、導く人もなく、すべてが手探り状態のゼロからのスタートで、数え切れないほどの苦悩があった。何年もの苦労を重ねた結果、なんとか百貨店で常設店を構えることができたものの、店を運営するだけで精いっぱい。主婦業も仕事もハチャメチャな忙しさに翻弄されながら、同時に売上を伸ばしていかなくてはならないという日々の中、体調も崩しがちになっていたという。

そして、そんな頃、彼女は街の書店で一冊の本と出合う。2020年に弊社から発刊された『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』だ。各界で活躍する365人の心が熱くなる実話が1日1頁で収録されており、現在までに30万部を超えるベストセラーになっている。出典の大半は、月刊『致知』に掲載されたインタビューや対談記事である。

(略)ビジネスにおいて素人の私は、モヤモヤを感じる余裕もなく、激務が続いて体調も崩していた頃、ある書店で、『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』という本に出逢いました。そして、本書に挟まれていた折込ハガキで、人間学が学べる月刊誌『致知』の存在を知り、定期購読をさせていただいたのが2021年6月のことです。

そしてある日、顧客様が来店されて、乳がんになったという報告を受け、手術と抗がん剤治療が始まることで、もうなかなか店頭には来られない。そんな知らせを受け、元々、食に興味のあった私は、どうにかこのガンという病気に立ち向かう方法はないのかと思いを巡らせているときに、『致知』に掲載されていた成田和子さんの『食こそ最高の薬になる』(飛鳥新社)という本に出合い、がんや不調も食で治せることを知り、その顧客様にもぜひ元気になってほしいと本をプレゼントしました。

『致知』はあらゆる分野の方の創業秘話、苦悩、壁を乗り越えたきっかけ、心の在り方など、ビジネスをする上で、立ち止まってしまうところをどう乗り越えてこられたのか、そんな秘話と名言に触れることができ、自分を奮い立たせてくれるページには付箋を貼って何度も読み返しています。『致知』は深い感化を受ける人間行動学、そして心の栄養学でもあります。

『致知』に代わる本はどこを探しても間違いなく見つからず、これに出逢えて私の人生は心と共に大きく進化しております。

書店で偶然出逢った一冊の本を通して、一人の人間の人生が大きく転換していったことが分かる。

そんな機会をつくり出してくださった書店員さんにもぜひこのことを伝えたいと思い、メールを転送したところ、こんな返事をいただいた。

当店で『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』と出会い、その後の人生の支えになったとのお言葉に感無量です。書店員としてこれに勝る喜びがあるでしょうか。

お客様に自信を持ってお勧めできる本を見極めることが永遠のテーマですが、御社との出会いによって理解は浅いながら「人間学」が時代を超えた普遍的な本質であると信じ、信頼を寄せる機会をいただきました。一書店員としてこれからもそのような機会を生み出していけるよう精進して参ります。

もう一つ紹介したいのが、50代ビジネスマンからいただいた、こんなメールである。

私は定年に近い50代後半の中間管理職です。若い上司に使われるシニアになりました。新入社員として社会人、企業人をスタートしてから、今日までがむしゃらに仕事をしてきました。

失敗しながらも成績を上げて、出世街道を登らせて頂いた時期もあります。Againstになり、それでもなんとか辞めずに諦めないでやってきましたが、ポストや業績につき、これまでのような若い頃の情熱が冷めてきている自分を再度鼓舞しようと、正直言ってしんどかったですが、何気なく書店で『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』を購入してページを開きました。

電車で読み始めるうちに涙が出て止まらなくなってしまいました。忘れていたこと、知らないうちに毎日を惰性でものを考える習慣がつき、すぐに楽な方に流され言い訳する自分がいるのがわかりました。

まだまだ人生100年時代生涯現役。分かっていても、早々と人生を諦めている自分が居ました。そう、その忘れていたこと……幾つになっても真剣に人生と仕事に取り組む事、前を向いて戦う事。人として企業人として。

再び熱いものが自分に甦りました。本当にありがとうございます。この本に出会えたこと、感謝致します。今まで読んだ本の中で間違いなく最高峰の一つです。今なんとか頑張れるのはこの本のおかげです。

何故か自分がこの本を引き寄せた気がします。今は感謝の気持ちしかありません。超一流の方々の考え方と行動と経験、そこから導き出された教訓や知恵、まさに教科書です。平易でまるで詩を読むが如き無駄の全くない珠玉の文章の数々。中身は凝縮された経験から導き出された知恵。本物の人間から学べます。同じ経験をするのはその人以外に無いです。

しかしながらその心構え、真剣に向き合う生き方、謙虚さ。今からでも行動に移せます。座学では無く、迷い悩める人を行動させる力があるのです。

いくらお金を払っても惜しくないです。一生座右に置いて読み返し、忘れないように、流され道を踏み外さないように自分がここに掲載出来るぐらいの生き方をこれから示して、人生を磨いていきます。ありがとうございました。

前述の女性と同じく、一冊の本との出合いにより、自分自身と深く向き合う機会を得て、50代後半からの人生を大きく転換していこうと強い決意を示している。

そしてその二人の、本との出合いのきっかけは、他でもない街の書店の中にこそあった。

人は人生の中で、予期せず人と出会うように、偶然、一冊の本と巡り合うことがある。そして予期せず出逢ったその本が、人生を大きく変えることもある。書店が創り出してくれるのは、そんな、本と人との偶然の出逢いである。

書店という業態は、世の中に、街に、本当に必要とされなくなっているのだろうか――。1年で約500もの店舗が減少し続けているという現実。今後も非常に厳しい状態が続くことになるだろう。しかしそこに街がある限り、人間が生きる限り、書店員さんたちの熱い思いがある限り、書店は世の中になくてはならないものとして存在し続けるはずだと、心から願わずにはいられない。