今年4月。東京・赤坂の某書店にこんな貼り紙が掲示された。
書店員の悲痛な叫びが記されている。文教堂赤坂店の開店は1995年。一等地のオフィス街でビジネスマンによく利用され、27年間続いてきたが、今年6月17日をもって閉店となった。
一方、東京・上野にあった明正堂アトレ上野店の創業は、1912年。老舗書店として今年創業110年を迎えたが、GW明けの5月10日をもって閉店となった。
いずれも地区の再開発だけでなく、インターネット通販の拡大や電子書籍の普及、さらに、長引くコロナ禍による追い打ちがとどめを刺してしまった形だ。2003年度に2万店舗以上あった書店の数は、この20年で半減し、2021年度は1万1,959店舗(一般社団法人 日本出版インフラセンター調べ)。平均すると、1年で約500店舗が減少し続けている計算になる。
冒頭の書店員が記したように、書店という業態は、世の中に、街に、本当に必要とされなくなっているのだろうか――。そんな思いを胸に巡らせていた時、一通のメールが弊社に届いた。
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手紙の主は、47歳の女性。若い頃、飲食関係の仕事をしていたが、二人の子を連れてオーストラリアへ親子留学をした際、オパールの宝石の美しさに魅了され、石の卸からジュエリーを販売する会社を立ち上げたのだという。
何の経験もコネも、導く人もなく、すべてが手探り状態のゼロからのスタートで、数え切れないほどの苦悩があった。何年もの苦労を重ねた結果、なんとか百貨店で常設店を構えることができたものの、店を運営するだけで精いっぱい。主婦業も仕事もハチャメチャな忙しさに翻弄されながら、同時に売上を伸ばしていかなくてはならないという日々の中、体調も崩しがちになっていたという。
そして、そんな頃、彼女は街の書店で一冊の本と出合う。2020年に弊社から発刊された『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』だ。各界で活躍する365人の心が熱くなる実話が1日1頁で収録されており、現在までに30万部を超えるベストセラーになっている。出典の大半は、月刊『致知』に掲載されたインタビューや対談記事である。
書店で偶然出逢った一冊の本を通して、一人の人間の人生が大きく転換していったことが分かる。
そんな機会をつくり出してくださった書店員さんにもぜひこのことを伝えたいと思い、メールを転送したところ、こんな返事をいただいた。
もう一つ紹介したいのが、50代ビジネスマンからいただいた、こんなメールである。
前述の女性と同じく、一冊の本との出合いにより、自分自身と深く向き合う機会を得て、50代後半からの人生を大きく転換していこうと強い決意を示している。
そしてその二人の、本との出合いのきっかけは、他でもない街の書店の中にこそあった。
人は人生の中で、予期せず人と出会うように、偶然、一冊の本と巡り合うことがある。そして予期せず出逢ったその本が、人生を大きく変えることもある。書店が創り出してくれるのは、そんな、本と人との偶然の出逢いである。
書店という業態は、世の中に、街に、本当に必要とされなくなっているのだろうか――。1年で約500もの店舗が減少し続けているという現実。今後も非常に厳しい状態が続くことになるだろう。しかしそこに街がある限り、人間が生きる限り、書店員さんたちの熱い思いがある限り、書店は世の中になくてはならないものとして存在し続けるはずだと、心から願わずにはいられない。