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2021年8月30日 小松庵総本家 銀座 ≡ 森の時間 ≡ 講師 小松庵蕎麦粉ブレンダー 黒澤昌宏

2021年8月30日の「森の時間」トークイベントは、小松庵総本家蕎学舎所長の黒澤昌宏による蕎麦の栄養の話でした。黒澤は、小松庵の全店舗で使用する蕎麦粉を製粉する技術者で、蕎麦粉のブレンダーです。その蕎麦粉ブレンダーが語る、蕎麦の栄養のお話です。

■蕎麦は健康食、はホント?

黒澤
今回は蕎麦の栄養のお話をします。
このテーマにした理由は、周りに「蕎麦で聞きたいことは何かある?」と質問したところ、「蕎麦の栄養について知りたい」という声があったためです。
これまで長年蕎麦の仕事に携わっていましたが、栄養については詳しくありませんでした。そこで調べてみると、今更ながら、知らないことがたくさんありました。

蕎麦は栄養価が高いと言われています。
ご飯ものにしろ、うどんにしろ、魚介、肉、野菜などにはそれぞれにいろいろな成分が入っています。
その中で、蕎麦と聞くと、すぐに「健康食」と連想されます。なぜ、そう言われるのか、調べてみました。
元禄10年、西暦1697年、今から320年も前に人見必大(ひとみ・ひつだい)という人が書いた「本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)」という本草書があります。これは、当時の食べ物やレシピ、効能などが書いてある本で、蕎麦についても書かれています。

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それによると、
1つ「蕎麦を食べると気分が穏やかになり、食欲が湧く」、
2つ「蕎麦は胃の働きを活発にし、腸をしっかりさせて便通をよくする」、
3つ「そば湯を飲むと良い効果がある」
ということです。
当時は、蕎麦の栄養は分析されていませんでしたが、そのような効果があると言われていました。
現代では科学的に分析されて、様々な健康効果が実証されています。それによると、その3つの効果が当てはまっています。昔の人はすごいのです。

■蕎麦は穀物の中でも栄養価が高い

黒澤
なぜ蕎麦はそんなに栄養があるのかを考えてみます。
蕎麦の実は、三角形で殻をかぶっていて、剥くと緑色になります。
蕎麦の実を縦に切ると、断面の形は三角形。真ん中にS字の形が入っているのが特徴です。

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蕎麦の実は、胚芽、胚乳、中皮、甘皮、種皮で成り立っています。真ん中のS字の部分が胚芽です。米の場合、胚芽は上の方にちょこっとくっついていて、精米すると落ちてしまうことが多いです。だから胚芽米という、胚芽成分をあえて残したお米があります。
蕎麦の場合は胚芽は中心にありますので、蕎麦を粉に挽くと、必ず一緒に挽くことになります。胚芽を絶対に逃すことはありません。丸ごと挽くことで、蕎麦の実の栄養を全て粉にすることができます。
麦は殻を外してもとても硬いので、エイジングというやり方をします。水に浸して柔らかくしてから皮を外して、切るような形で粉砕する方法です。

■蕎麦にはルチンが豊富!

黒澤
この後のお話しの中で、米、麦、蕎麦の栄養を比較するときは、米は精白米で比較しています。蕎麦の方が断然栄養価が高いのですが、米も玄米の状態だと栄養価が高くなります。そのことを頭に入れていてください。
蕎麦の栄養は、最初から捨てることなく全部を食べることができるので栄養価が高いのです。

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では、具体的にどんな栄養があるのでしょうか。
まずはルチン。抗酸化作用のあるポリフェノールの一種で、水溶性のビタミン様物質のビタミンPです。
日常的に食べているのは、甘そばと呼ばれています。それ以外に苦そばと呼ばれる韃靼蕎麦があります。ルチンの量が普通の量の50−100倍を含んでいると言われています。食べるとすごく苦いから苦そばです。なぜルチンの含有量が多いのでしょうか?
韃靼蕎麦は、標高の高い高地で生えます。紫外線の量が多いので、自分を守るためにルチンを多く生成するのではないかと言われています。日焼けしないように、自分の中から日焼け止めを出します。それがルチンの元になるのではないか、ということです。
一般的な蕎麦も低地で栽培しません。標高が高い方が、よく実ると言われています。そして朝晩の気温の差がある方がおいしくなります。
ルチンはビタミンCと一緒に食べると吸収が良いそうです。これは、先日(2021年7月26日の回で)ほしさんがお話しされたように、蕎麦の薬味にも関係します。薬味は、単に味をプラスするものではなく、蕎麦や他のものの栄養の吸収をよくする役割があります。
詳しくは、ほしさんにお任せするとして、ルチンの効果というのは、5つあります。
まずは毛細血管の強化と安定。
2つ目、血行の促進。
3つ目、生活習慣病の予防効果。
4つ目、血糖値の低下、膵臓機能を活性化させる。
5つ目、脳の記憶細胞の活性化。
良いことばかりです。

また蕎麦は食物繊維も豊富です。
食物繊維は、含まれている食べ物が少ないので貴重です。近年では、食物繊維には生活習慣病の予防や改善効果が見込まれてます。

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■蕎麦に含まれる五大栄養素

黒澤
蕎麦の五大栄養素の話をします。
五大栄養素とは、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラルです。
タンパク質は体を作るもの。糖質や脂質は、力や熱になるもの。ビタミンやミネラルは、体の調子を整えるもの。
では、それぞれの栄養について考えてみます。

アミノ酸はタンパク質を構成する物質で、20種類があり、1つでも欠けるとタンパク質を合成できません。20種類の内、11種類は体内で合成できるけど、9種類は合成できません。この人間の体内で合成できない9種類を「必須アミノ酸」といいます。食物から摂取するしか方法がないアミノ酸です。
必須アミノ酸は、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、リジン、メチオニン。
覚え方は、「フロバイスヒトリジメ」です。
蕎麦のタンパク質は必須アミノ酸が豊富な“良い”タンパク質です。
また、アミノ酸スコアというタンパク質の栄養価の指標があります。牛乳を100とすると、米68、小麦粉44、蕎麦92。蕎麦はアミノ酸スコアが非常に高いのです。
タンパク質で比較すると、可食部100グラムの内、米のタンパク質は6.1グラムで、蕎麦は12.0グラムと米の倍もあります。脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルは米や麦の2〜8倍も多く含まれています。
必須アミノ酸のリジンは、米や麦には少ない成分ですが、蕎麦には入っています。疲労回復や集中力を高める働きがあり、コレステロールの抑制効果があると言われています。
先ほど話した「本朝食鑑」には、「蕎麦を食べると気分が穏やかになる」と言いましたが、まさにその働きです。

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ビタミンの話に移ります。
蕎麦にはB1、B2、B6が含まれています。疲労回復に良いとか、荒れた皮膚の改善に働くといわれています。血液をサラサラにするというルチンの効果も連動しているのではないかと思います。
ミネラルは、骨や歯の成分、血液やホルモン、酵素の構成成分、血液や体液の正常化を保持、神経や筋肉の機能に働きかけるなど、健康維持、増進に大きく関わる要素が含まれているものです。
穀類の領域を超えるほどの多彩なミネラルが多く含まれているそうです。

ミネラルの中では、カリウムが蕎麦に非常に多く含まれています。カリウムは体の中の塩分を排出する働きがあります。ただし、水に溶け出しやすい成分です。
カリウム以外にも水溶性の栄養素は複数あり、蕎麦を食べた後は蕎麦湯を飲む習慣はそこから来ています。流れ出てしまった成分を飲み直すのです。
最近は、糖質を気にする人が増えました。
蕎麦に含まれる澱粉は消化されにくいのが特徴です。澱粉は糖質で、エネルギーになりやすい物質です。
GI値という言葉をよく聞きますが、野菜を先に食べることでGI値が下がって血糖値の急上昇が抑えられます。
消化が悪いのは、血糖値の急上昇を抑えられるということになります。
GI値はご飯100とすると、パンが92、お餅が101、蕎麦は56です。GI値が低いのは血糖値が上がりにくいので、健康に良いのです。

最後に、脂質についてお話しします。
蕎麦には不飽和脂肪酸のオレイン酸やリノール酸などが含まれています。
蕎麦のメニューに鴨南蛮や鴨せいろなどがあり、鴨をよく食べます。鴨の油も、不飽和脂肪酸です。この脂肪は良質な油で、血液をサラサラにしたり、血中コレステロールを低下させたり、血栓を防いだり、美容にも効果的といわれています。蕎麦と鴨の組み合わせはとても相性が良いのです。これにネギを加えることで、蕎麦の栄養の吸収を早めるといわれています。

このように、今回は蕎麦の栄養に関わる話をしました。
本日はありがとうございました。

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