「AIでよみがえる美空ひばり」が僕達に気づかせてくれた二つのこと

先日放送されたNHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」を観た。

先ず、テクノロジーの進化について、ああここまで来てしまったのかという思いを抱いた。番組で流れた歌声を事前知識なしで聴いたら何人の人がAIによって創られたものであると判別できただろうか。既にチューリングテストをパスしてしまったと考えて良いと思う。

この楽曲と歌声が美空ひばりさんを再現したものだというキャプチャーがつくから、様々な意見が出るのであって、それを抜きにしたら、機械は人を感動させる芸術の分野にまでその適用範囲が広がっているとの認識を持つ必要がある。

この段階になるといい悪いの問題ではなく、間違いなく人間社会に機械は侵襲浸潤してしまうのであって、生物と無生物の間の境界も見えなくなるだろう。いままで多くのSF作品が問いかけてきた、人間とは何か人間らしさとは何か機械と共存する社会とは何かという問いを現実の問題として考えなくてはならない時がやってきたのだ。

人は機械ではない。機械も人ではない。しかし、機械は大抵の人と同等のことを行えるようになるとしたら、人は多くのことを機械に託すようになる。それならば人は人にしかできないことをすればよいという話をする人がいるが、実は人にしかできないことはそう多くはない。

あえていえば、機械にできないことは人と同じように生きることぐらいだ。

人は生きる為にお金が要る。大半の人がお金のために働いている。でもその仕事は人にしかできない仕事ではない。多くの仕事が機械によって代替される。人は仕事を失い。お金も稼げず生きることができなくなる。その流れは止められないだろう。そうなると、人は仕事をしなくても生きていくことができるようにする仕組みを設けなくてはならなくなるはずだ。

ベーシックインカムや保証所得など制度導入が提言されているが、地球温暖化対策以上に今の段階で手を打たないと人間社会そのものが崩壊に向かうのではないか。そんな危機感を抱くのに十分インパクトのある番組だった。

次に思ったのが、テクノロジーの利用のあり方というかアプローチが、東洋的というか日本人らしいなと感じたのだ。過去のものを再現あるいは再生しようとすることに最先端のテクノロジーを投入し心血を注ぐというマインド自体非常に日本的ではないかと思う。

常に新しいものや進化するという点を合理的に突き詰めるマインドセットの持ち主では今回の試みそのものに価値を見出せないので、そもそも試みようとはしないだろう。

例えば、ロボットを進化させるアプローチとして、大阪大学の石黒先生が如何に自分の分身を作ることができるか、如何に不気味の壁を超えるかという観点で研究を進めているのに対し、ボストンダイナミックスのロボットは人間や動物などと同様あるいはそれを上回る身体能力を見せることができることを第一義にしているのを見てもまるでアプローチが異なっている。

平たく言えば、日本の場合、人にやさしい人に寛容であり、人の心に寄り添うためにAI等のテクノロジーを利用しようというマインドが基本的に備わっているのではないか。それは何故かといえば、日本の万物に神が宿るという日本人の宗教観からくるのではないかと思う。

ここで宗教を持ち出すと何か怪しげな話になりかねないと訝る人もいるかもしれない。ただ、日本人は森山には神がいる。その辺の石ころにだって神が宿っているかもしれないと、自然界に存在するもの全てに神が宿るかもしれないという考えを抵抗感なく受容してしまう土壌がある。

このような日本的な、無生物である物にも魂や神様がいるかもしれないという考え方は、凡そ合理的に言語化やアルゴリズム化でしか物事を理解しようとしない、あるいはそのような方法でしか物事は理解出来ないと考える人からするとある意味クレイジーと思われても仕方がないが、そのような思想が日本人の中には存在したからこそ、AIで美空ひばりはよみがえることができたのだ。

よみがえるといえば、黄泉から戻ってくる。つまり仏教でいうリインカネーションであるから、このようなものにAIを利用するというのは、やっぱり日本的だなとつくづく思う。

で、このような人に優しい、人に寛容な、もっというと人に合わせて適当に緩く、それでいて人の心を動かすためにAIを利用するという方向性は、人間と機械が共存するためにはとても必要なことであり、この分野で日本は世界をリードできるのではないか。

日本が今後も国家として生き延びるためにも、この分野で人間臭いアプローチによる取り組みをどんどんやっていくのが良いのではないかと個人的には思う。

『ターミネーター2』では、サイボーグが涙を流す意味がわかったという有名なラストシーンがあるが、あれを現実のものにすることができるのは実は日本のエンジニアではないかと、僕は密かに思っている。

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