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小説|君に贈る棒

 涙は見せずに、二人の侍は筆を走らせます。書いているのは同じ文。和を乱す敵あらば我ら互いに身を二度切らん。病に倒れた主君の後を継ぐ二人の誓いの文でした。彼らは兄弟です。国のきみ たる父親を尊敬していました。

 かつて父親は息子らに語りました。我が一族の者は胸に「人」の字の形をした痣がある。これは我らの人並み外れた力が人を守るためにある証なり。その言葉を胸に、兄弟は領地を守るべく誓いの文をしたためたのです。

 領内へ敵が攻め込んできた時。兄弟は誓いを果たしました。刀を抜いて、互いを横一文字に斬り合います。「人」の字は斬り傷により「大」の字に。兄弟の身体は化け物のように大きくなり、その巨体で敵軍を一掃します。

 敵兵は追い返したものの、兄弟は大き過ぎる力を御しきれません。二人は再び互いを斬ります。民を傷つける前に。人を守るために兄弟は倒れます。「大」の字は傷ので「天」の字に変わり、二人の侍を天へと導きました。






ショートショート No.244

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