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「副業は、本業より手を抜けない」 副業した人の言葉をきいた経営者の驚き

副業・兼業プロ人材の活用を検討する地方の企業にとって、実際に副業・兼業プロ人材を導入している会社の事例は気になるところではないでしょうか。2月下旬、長野県内で開かれたセミナーでは、2019年9月から副業・兼業プロ人材を活用する長野県長野市の製本・印刷会社のダンクセキ株式会社の関武士社長が、JOINS株式会社の猪尾愛隆代表取締役と対談しました。関社長は、副業・兼業プロ人材を検討したきっかけや成果を語りました。会場からの質問も交えたやりとりを詳報します。

猪尾愛隆代表取締役(以下 猪尾) 本日はご登壇いただき、ありがとうございます。貴社は2人の副業・兼業プロ人材と契約していらっしゃいます。まずは会社概要と副業・兼業プロ人材を活用しようと考えたきっかけを話していただけますか。
関武士社長(以下 関) 当社は今年で創業74年目になる従業員50人ほどの製本・印刷会社で、私は3代目です。主に2つの事業を行っており、一つは出版物の製本・印刷、もう一つは新規事業として2006年にスタートしたフォトブック事業です。フォトブック事業では自社の電子商取引(EC)サイトを使い、フォトブックを制作しています。現在、製本・印刷事業とフォトブック事業の売り上げ比率は6対4ですが、フォトブック事業を強化し、2年後には売り上げの比率を半々にしたいと考えています。フォトブック事業を伸ばすために、顧客ニーズやアクセス数のデータ分析などを行うWebマーケティング、Webデザイナーを募集しました。面談を経て、東京在住の大手IT企業の副業プロ人材*の方にWebマーケティングを、兼業プロ人材(フリーランス)のWebデザイナーの方2人と契約しています。

ダンクセキ詳報写真2

【ダンクセキのフォトブック事業「フォトレボ」のWebサイト https://www.photorevo.net


(※)主に都市部などの企業と雇用契約で働きながら、地域の企業とは業務委託契約で働く人材を副業プロ人材、雇用契約で働く企業がなく、全ての企業と業務委託契約で働く人材を兼業プロ人材とJOINSでは呼んでいます。


猪尾 会社に通勤し、フルタイムで働いてほしいという経営者が多い中、副業・兼業プロ人材を活用したきっかけ、理由はなんだったのでしょう。
 2018年に働き方改革の一環で副業が解禁され、当社でも活用できるのではないかと関心を持っていました。2019年5月に長野県プロフェッショナル人材戦略拠点が主催するセミナーに出て、県内の企業でも既に副業・兼業プロ人材を活用しているところがあることに驚き、すぐに当社でも試したいと考えました。セミナーの後にJOINSにコンタクトを取り、人材の募集を始めたのは19年6月。面談を経て9月から業務をスタートしました。
猪尾 副業・兼業で働かれている方は2人とも首都圏在住です。Web会議の頻度を教えてください。
 Webマーケティングの方とはメールでのやり取りがほとんどです。一方、デザイナーの方とは1カ月に1度のペースでWeb会議で進捗を確認し合っています。
猪尾 Web会議の良い点は、画面を共有できるというところです。「この部分はこうなっています」などと、マウスの位置まで分かるようになっていて、Webデザインなど、ビジュアルを示す必要があるものはとても使い勝手が良いです。実際に契約している方が長野市にある本社に来るのはどのぐらいありますか。

ダンクセキ写真3

【Web会議で画面共有しているPC画面。自分のPC画面とマウスの動きを相手の画面に映しながら、説明やディスカッションができる。】

 2カ月に1回ぐらいです。Web会議は社長である私を入れて1~2人ぐらいしか参加しないので、普段会っていない社員と話す必要がある時は来てもらっています。

●採用を決める面談は一緒に働く人が入るとベター

猪尾 これは一つのポイントで、社長や経営陣が面談を行っても、いざ業務がスタートすると、現場の人たちとチームを組んで仕事が進むケースが多い。副業・兼業プロ人材に来てもらう上で、社長として会社で働く社員の方に気を使った部分はありますか。また、社員の方からネガティブな反応はなかったのでしょうか。
 面談の場に社員は参加しませんでしたが、早い段階から「こういう時代だから(副業プロ人材は必要)」と社員には説明してきました。副業・兼業プロ人材の2人は専門的なスキルを持っていて、当社のスタッフにはない技術的な領域も持っているので、ネガティブな反応はありませんでしたね。
猪尾 以前、別の当社を利用した企業では、社員の方から「社長はどのようなつもりで雇ったのだろうか」という警戒感を持たれたケースがありました。関社長のところでは、そのような反応はありませんでしたか。
 当社の社員も人手が足りていないということを認識していたので、アレルギー的なものはありませんでしたね。
猪尾 関社長は現場に入られているので問題はないと思うのですが、いざ業務が始まると、社長はほぼ入ってこないというケースもあります。このため、面談の段階から業務のリーダーの方に入っていただいて、その方と話し合いながら採用していただくことを勧めています。面談を行う時の当社のマッチングプロダクト(Webシステム)は社内の複数メンバーを招待して、応募者のプロフィールをみたり、面談の希望を連絡したりなど複数人で同時に利用できるようになっています。
2019年9月から副業・兼業プロ人材を雇用されて約半年がたちました。良かったことや課題を教えていただけますか。
 Webデザイナーの方が兼業として入っていただいたことについては、デザイナーの人手が不足していたので非常に助かっています。大手IT企業に勤められているWebマーケティングの方は、さまざまなマーケティングの手法を提案してくださるので、当社だけではできなかったことができるようになりました。
猪尾 困ったこと、想定外だったことはありますか。
 副業・兼業ということで稼働時間が限られているので、スピード感を持って仕事をお願いすることでしょうか。例えばデザイナーの方に依頼する時は、今、進行中の仕事を確認し合いながら進めています。
猪尾 業務の時間の全てを管理できている正社員とはその点が異なりますね。他社の例でも、重要度は高いけど緊急度の高い業務を高い質で実行する時に利用していただいているケースが多いように思います。ここで会場の方からの質問を受け付けようと思います。


●報酬は自己申告制、不安はないのか


会場 業務委託契約ということですが、報酬はどう決めていますか。
猪尾 当社の方で検証を繰り返して、契約をしやすく、成果も出しやすいことがわかっている基本条件を募集段階で提示するようにしています。具体的には、以下のようなポイントです。

(1)企業と人材の直接の業務委託契約
(2)納品物とその対価を定める請負契約でなく、稼働した業務に対して対価を払う準委任契約
(3)人材の報酬金額=時給単価×実稼働時間/月(人材からの自己申告)
(4)時給は最初の契約では上限5,000円として、その範囲で人材側から希望時給単価を提示。企業側がその条件を踏まえて契約するかを判断。
(5)目安とする月の上限稼働時間も企業と人材側で相談のもと合意
(6)人材は毎月実際の稼働時間に基づき、請求書を企業に提出し、企業が直接人材に支払う。

(7)契約期間は3ヶ月間の自動更新で、期間中の途中解約もお互い可能

(6)については、特に企業側が最初は稼働時間が自己申告というところで不安に思う場合もあるのですが、実際、関社長はどうでしたでしょうか?
 契約なので、副業・兼業をする方にも「成果をあげなければならない」という気持ちがあるようです。話を聞いてみると「副業のほうが手を抜けませんね」と言っています。請求書を見ても「これしか稼働していないのだろうか。実際はもっと働いているのでは」と思うこともあります。
猪尾 ここは面白いところで、報酬については当社も何パターンか試しました。最初は固定の報酬でしたが、採用する企業側からは「業務に波があるので、変動型が良い」という声が多かったので、現在の時給×実稼働時間の変動型にしています。
会場 会社側の感覚で、これぐらいの報酬でできるのでは、というすり合わせはやりましたか。
 基本お任せで原則していません。ただ、副業・兼業で働いているWebマーケティングとWebデザインの方にお願いしている仕事を企業に依頼したら、おそらく費用は数倍かかります。企業にお願いする何分の一かの報酬でやっていただいている感覚はあります。
猪尾 業務委託には二つの契約形態があります。請負契約と準委任契約です。請負契約は、ロゴやサイトの作成など、成果物に対して報酬を支払う契約形態です。一方、準委任契約は労働期間に対して、報酬が支払われます。それぞれメリット、デメリットがあり、請負契約はご質問にあったように成果物に対する事前の見積もりなどが重要となります。先ほどお伝えした通り、当社は準委任契約で時給制という形態をベースにしています。
その理由は、準委任契約では、依頼業務内容の急な変更や業務の追加など、業務内容の変更が臨機応変に柔軟にできるので、中小企業の業務の頼み方としてはこちらの方が向いていると思っています。その代わり、結果として仕事の成果と報酬のギャップが大きい場合は随時解約できるようにすることでバランスをとっている感じです。

猪尾 関社長のお話の中で「副業のほうが手を抜けない」というお話がありましたが、その通りだと思います。私自身も長野県白馬村のスキー場運営会社で兼業していて、毎月請求書を送っていますが、送るたびにドキドキします。業務内容にかかった時間を聞くので、企業にどう思われるか気になります。あの1時間は確かに働いていたけれど、あまり良い仕事に結びついていなかったから請求することはやめようという発想にもなります。企業側から「この報酬でこれぐらいの仕事をやってもらえるんだ」と思っていただいたほうが、長く働けると考えています。
会場 秘密保持契約はどう結んでいますか。
猪尾 秘密保持や情報漏洩については企業側が気にされる部分だと思います。企業が人材と締結する業務委託契約書はJOINSが代わりに用意しています。その中に基本的な秘密保持の条項は含まれていますので、その契約を結んでいただければ、秘密保持が契約で担保される状態となります。
ただ、対組織と契約することと、個人と契約することは感覚が異なるという方もいると思います。ダンクセキ社で契約するWebマーケティングでも顧客データが見える部分があり、心配はありませんでしたか。
 当社ではJOINSが用意してくれた契約に加えて、当社が通常用意している秘密保持契約を追加で結ぶようにしました。でも前提としては、今回の副業・兼業の人材の方が信頼できると思えるかどうかが大事だと思います。
猪尾 当社ではそのような信頼できる人物か、情報漏洩などリスクを判断する材料を確保するために、Webでの一次面談、対面での二次面談を経て、契約後1カ月間は当社の手数料がかからないお試し期間としていて、その段階を経て本格的な業務がスタートできるようにさせていただいています。

●面談前のアンケート、信頼深めるきっかけに


 もう一点、信頼を深めたという面で大きかったことがあります。面談する前にJOINSから提供されるアンケートがあり、お互いの自己紹介や個人的な趣味などの質問に答えて、その結果を相手とやり取りをしました。それによって、相手を知ることができ、信頼につながったと思います。
猪尾 それは当社が大事にしていることの一つです。2年半やってきて分かったことですが、企業側がやってほしい業務と、人材のスキルが一致すれば良い仕事につながるわけではありません。私たちはロボットではないので、お互いの価値観を認め合ったり、信頼し合うということがすごく大事になります。
アンケートは社長と、副業・兼業プロ人材の双方に答えていただいています。お互いに好きなことを10個挙げたり、仕事で120%頑張ってしまうこと、周りからされて嫌なこと、周囲から助けてもらったと感じたこと、自分の考え方を変えた最近のエピソードなどを答えてもらっています。これは米国にあるピーター・ドラッカーが創業したドラッカースクールのMBAでセルフマネジメントの研究をされているジェレミー・ハンター博士にアドバイザーになっていただき、開発したものです。

ダンクセキ写真4

【JOINSが面談時に行ってもらう心理的安全性プログラム】

 アンケートの質問項目は、こんなきっかけがないとなかなか話さないことでした。当社の社員ともやったほうがいいかなと思ったぐらいです。
猪尾 当社もメンバーを雇う時は、必ずこのアンケートをします。アンケートの項目について、話し合えた仲間とはうまくやっていけると考えています。二次面談になるとさらに深いことを話し合えるようになっています。自分の内面をさらけ出すことで、安心感が生まれるのだと思います。
人材を募集するまでの段階では、料金はかかりません。委託したい業務をまとめていただき、当社でブラッシュアップします。どんな方から応募があるかが分かるので、ぜひ試していただきたいと思っています。

【編集後記】セミナーでは私、国分もZoomで関社長のお話を聞きました。気になっていたのが、社員の方と副業・兼業プロ人材が意思疎通を図りながら、うまく仕事を進めていけるのか、という点です。ダンクセキ株式会社では、人材を募集する前に、関社長が社員の方に副業・兼業プロ人材がなぜ今必要なのか、どのような業務に当たってもらうのかなどを丁寧に説明したそうです。また、契約後も、関社長が現場に入ってフォローを続けているとのことでした。社員と副業・兼業プロ人材の双方が気持ちよく働くことができる環境づくりのためには、現場への丁寧な説明とフォロー体制がポイントの一つになる、と感じました。今後も副業・兼業プロ人材と契約する、地方企業の経営者の方の生の声を紹介していきたいと思います。


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ライター。北海道美瑛町出身。北海道新聞社、繊維専門紙の記者を経て、2019年6月に独立。「税理士ドットコム」「東洋経済」などで執筆しています。大都市と地方の人材シェアリングサービス、JOINS株式会社でオウンドメディアを担当。

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