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「わたしは、青が好きだった。」

果てのない青。わたしの足はもう随分前から膝くらいまでこの青に浸かっている。波のない湖のようにも思えるし、流れの少ない川のようにも思える場所だった。
誰に指示されるわけでもなく、ただあてもなく、ゆらゆらとその水の中を歩いている。

「わたし、青色が好きだった。海も空も、青いものはみんな自由だから。」

果てのない自由なものが羨ましく思えたし、同じくらいにちっぽけな自分がとてつもなく無意味に思えた。

「青色が好きだった。でも今になって気がついたの、わたしの青い時期、大切にしなきゃいけなかったのに、どの私よりも自由だったはずなのに、抱きしめてあげられなかった。」

あたりは濃い霧に包まれていて、なんだか青白いような灰色のような、その霧のせいで寸分先も見えない。この青はどこまで続いていてるのだろう、わたしの思い描いていた自由な青は、本当にこんな場所だったのだろうか。
急に不安に駆られてポロポロと涙が落ちた。涙を拭う気持ちにはならなかった。

「僕から見れば君はまだまだ青いさ。」
誰かが後ろからそう笑って、私の肩を優しく、力強く包んだ。肩に乗ったシワシワの手が生きてきた軌跡を物語っているみたいだった。

ふと自分の両手を見てみる。
こんなところまで来たっていうのに、人差し指の爪、剥げたネイルの青を塗り直したいだなんて。

「ありがとう、わたしはまだ青が好き。」

相変わらずのんきな自分にすこしだけ笑えた。

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