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現代文Bの授業ではじめのうちに話すこと(評論文ができるようになる10のコツ)

 国語総合や現代文Bの授業で評論文を扱っていく際、はじめのうちに話すことをまとめました。また、教員が国語を教えるときに気をつけることにも触れています。高校生の方にも読んで欲しい記事です。
 厳密に言えば、私は初回の授業で自己紹介と簡単なゲームをしますので、これは2回目以降の授業で、本格的に内容に入っていく段階での話です。

 おそらくどの教員も、初回の授業では自分のやりたいことや話したいことを準備していると思います。それは一年間の授業を通してその教員が伝えたいことをもっとも象徴している回になろうかと思います。しかし、実際にその後授業に入ると、教員が示した(つもりの)スローガンやポリシーといったもの(抽象)と実際の教材(具体)とがかけ離れすぎていて、生徒はただ漠然と授業を受けてしまうということが少なくありません(というか、私の初年度の経験です)。

 どうしてこのようなことが起こるかは、暗黙知という言葉で説明できると思います。

暗黙知(あんもくち、英: Tacit knowledge)とは、経験的に使っている知識だが簡単に言葉で説明できない知識のことで、経験知と身体知の中に含まれている概念。 例えば微細な音の聞き分け方、覚えた顔を見分ける時に何をしているかなど。 マイケル・ポランニーが命名。 経験知とも。
                      (Wikipedia「暗黙知」)

 よく引き合いに出される例は、自転車です。私たちが自転車で走ったり、曲がったりするとき、それをどうやっているのかを言葉で説明することができません。同じように、私たち教員が現代文を苦労せず読めるのは、これまでの人生で積み重ねてきた様々な暗黙知を駆使しているからです。「読めばわかる。理由なんてない(理由を説明しようとすると面倒くさい)」というのは、それが暗黙知だからに他なりません

 しかし生徒である高校生は、これから自転車に乗ろうとしている「初学者」であり、それらの暗黙知をまだ私たち教員と共有していないということを見落としてはいけません。

 突き詰めて言ってしまえば、「国語を教える」とは、「言葉を使って話す・聞く、読む、書くといったときに駆使している暗黙知を言語化して伝える」ということだと、私は考えています。

 しかし、これは簡単ではありません。なぜなら、暗黙知をどのように説明するのが効果的かは、人によって違うからです。良い例かわかりませんが、例えば「友達を作る方法」を伝えようとしたとき、人懐っこい人には「とりあえず笑顔で話しかけてみよう」と提案して良いかもしれませんが、人見知りだとそうはいきません。あるいは、「『消しゴムを忘れちゃったから貸してくれない?』って言ってごらん」と提案したほうが無難かもしれません。また提案してもらった通りに実践しても上手くいかない場合もあります。なぜできなかったのか?を振り返ってリトライしたり、別の方法を試す必要もあるかもしれません。このように、誰にでも共通する形式的な一つのマニュアルが存在しないのが、暗黙知の特徴だと言えます。

 暗黙知の習得には、練習を繰り返し、試行錯誤することが欠かせません

 授業においては、評論文ひいては「国語」で扱う教材を漠然と読み解こうとしてしまう生徒に対し、ある程度具体的な指示を先に示してから本文に入るのが効果的です。もちろん、それは絶対唯一の解法ではありません(そんなもの存在しません)。最初から答えを示すことではなく、試行錯誤ためのきっかけを与えることに意味があるのです。

 ちなみに、国語教育において「解法」とか「暗記」といった文句が「そんなものダメだ!」忌み嫌われるのは、おそらくこうしたことが理由です。ところが、なぜ「解法」や「暗記法」が駄目なのかは、説明するのが簡単ではない。だから論争が始まると進展も終わりも見えなくなる、仲違いするしか無い、ということになってしまいます。
 国語科の教員がとるべきは、「そういう方法もあるかもしれない」という留保の姿勢です。いろんな角度から見て、真摯に向き合う姿勢です。

 初回のレクリエーションも終わって、さあいよいよ授業!……とその前に、まずは試行錯誤のためのきっかけを、新学期の最初のうちに示しておこうというのがこの記事のテーマです。今回は特に2年生の現代文Bの最初の授業のガイダンスを想定したプリントを作成しました。おそらく、ある単元の導入としてならばどのタイミングでも使えるかと思います。プリントを配布する際に私が話すことを、以下にまとめておきました。ファイルだけダウンロードできればいいという方は飛ばして頂いて結構です。

導入

 高校の評論文は、本文を限られた時間で読み、話題を掴み、問い・主張に関わる箇所を的確におさえなければなりません(「時間制限」という条件が、学校以外で国語に触れるときとの絶対的な差です)。これができることをセンス(才能)論で終わらせず、練習によって確実に力をつけるために、文章を読むときに意識することを確認しておきましょう。

〈1〉目を通す順番

 いきなり本文を読み始めるのではなく、次の順で目を通す癖をつけましょう。本文を読む前に、テーマや注意点を先取りできることがあります。

①出典・・・ここを見れば、その本文が収められている書物が、何について書かれているかがわかります。ただ、本題とは違う話題の箇所を抜粋した問題文もあります。

②設問・・・設問数や記述字数などが先に確認できます。おおよそですが、一つの文章に対する問いの数は10問以内であることが多いです。できれば、それぞれの設問の指示を先にチェックしてしまうと良いでしょう(特に国立二次)。

・「――とあるが、どういうことか」
・「――とあるが、それはなぜか」
・「言い換えた表現を」
・「表現に関する説明として」
・「表現と構成について」
・「○○文字以内(程度)で」
・「抜き出しなさい」など

 ただし、このときはまだ選択肢を読んではいけません。内容の理解をする前に選択肢を読んでしまうと、まずその正誤を判断する作業が必要になってしまい、混乱しか招きません。

③本文全体の長さ・・・どのくらいの長さなのかは、時間を見積もる際に大事です。改行や段落の存在も、話題がどのあたりで区切れるのかを先に知ることができるため、参考になります。

〈2〉文章を読む速度(教科書)

 読むスピードは、日常学習では意外と意識し忘れがちです。用紙によりますが、A5サイズの教科書であれば、1ページあたり1~2分程度が目安です。ただし、ずっと同じ速度ではなく、表現の重さによって速度を変えます。

〈3〉話題を掴む

 どうしても、読んでいてチンプンカンになるということはあります。そのとき、難しいと感じても、「何について書かれているか(話題)」だけは、最低限おさえるようにしましょう。例えば、「細かい所はよくわからないけど、この文章が江戸時代の物流について褒めていることだけはわかる」といった具合です。まずは、それで十分です。

〈4〉先に進む

 難解な表現に出会ったとき、そこで立ち止まって考え込む生徒がいます。わからなくなっても、立ち止まって考え込まない。時間はどんどん過ぎていきます。後ろに具体例や言い換え表現があるかもしれません。先に進んでみましょう。

〈5〉書き込む(線を引く)

 例えば定期考査でも、問題文に何も書き込まれていないものをかなり頻繁に見かけます。数学でも途中式は書きますし、英語でも本文に線や括弧を付している。それなのに現代文は、選択肢を消去法で検討したらしき形跡くらいしか見当たらない。これは大変残念なことです。

 何も書き入れずに問題を解くのは、暗算で解こうとするようなもの。教科書や問題文をきれいに保とうとしなくていい。遠慮なく線を引いて書き込みましょう。
 ※それでも、さすがに教科書に書き込むのには抵抗がある生徒が少なくないようです。私の授業では、本文テキストをB4に印刷したものを「欲しい人は取りにおいで」と指示するようにしています(さすがに『こころ』などの長文だと準備できませんが)。

 線の引き方の例を、例文と共にファイルの中で示してあります。ぜひ一度ご覧ください。

〈6〉答えを考えてから選択肢を読む

 これは〈1〉の内容とも関わりますが、当たり前のことですが、選択肢の誤答は、理解していない生徒を誘い込むために作ってあるものです。自分で考える前に選択肢を読むと、誤った選択肢で迷子になります。まさに出題者の思うツボです。まずは自分で考える。「こういうことが書かれているやつが答えだろう」と想定できてから選択肢を吟味するのが理想です。

〈7〉長い分は骨格をおさえる

 一文が長くて修飾関係が複雑な場合は、文の骨格をおさえましょう。主語と述語です。日本語は、述語を先に見る方が簡単です。

学校教育には,子供たちが様々な変化に積極的に向き合い,他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め,知識の概念的な理解を実現し,情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと,複雑な状況変化の中で目的を再構築することができるようにすることが求められている。
                  『高等学校学習指導要領』総説より

 こ~んな読みにくい文章でも、述語は簡単に「求められている」だととれます。次に、「何が」求められているのかをたどっていけばよい。

学校教育には、
 子どもたちが
 A 他者と協働して課題を解決していくこと
 B-1 様々な情報を見極め、
 B-2 知識の概念的な理解を実現し、
 B-3 情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと
 C 複雑な状況変化の中で目的を再構築すること 
 の、A~Cをできるようにすること
が求められている。

というふうに整理できます。たまたま手元にあった資料を持ってきたので触れますが、学習指導要領を読むときはこのように整理すると読みやすいです(私はそうしないと眠くなります)。

〈8〉最後までやりきる

 特に記述問題は白紙のまま放置しないようにしましょう。どこまでわかっているのかが見えなくなる。点数が取れるかは一旦いいので、何か書きましょう。そうすれば、何がわかっていないのかわかるようになります。
 また、記号の問題を空欄のまま飛ばす生徒がいます(クラスに1,2名ほど)。書かなければ当たるものも当たりません。絶対に埋めましょう。

〈9〉調べ物はあとで

 知らない語句を調べるのは結構なことですが、読んでいる途中ですぐ調べるというのは、当然入試や考査ではできません。むしろそれは、知らない語句がある中でなんとか読み解く技術を身につけるチャンスです。読み終えた(解き終えた)後で調べるようにしましょう。途中では調べない(カンニングしない)。解き終えた後で確認。

〈10〉じっくり学べるのは今だけ

 暗記問題でも出してもらえない限り、考査前に頑張って間に合うわけがありません。何より焦ってからだと、楽しくない。基本姿勢(フォーム)は今のうちに身につけましょう。

あくまで、試行錯誤のきっかけ

 最後の1つはただのお説教ですが、10ほどのポイントを提示しました。〈3〉〈4〉〈7〉などは、私のオリジナルではなくて、ある予備校の先生に教わったことの受け売りです。他についても、概ねどこかで言われていることと大差ないはずです。

 しかし驚くことに、予備校や塾に通ったことのない生徒からは「こんなの初めて知った」とよく言われます。中にはこれだけで「そういうことか」と劇的に飛躍する生徒もいます。

 最初にも述べましたが、これらは試行錯誤のきっかけです。妄信する絶対唯一の解法などではありませんので、ご注意下さい(そんなものは存在しません)。

授業では、最後に次のように締めくくります。

「生徒の皆さんは、最初は教授者である私の言うことをいったん信じて、実践してみて欲しいと思います。問題を解くうちに、たくさんの例外に出会うことになります。それぞれの場合に持っている知識(武器)をどう応用すれば対処できるかを試行錯誤してみて下さい。その過程こそが、国語が上達する方法です。」

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