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ロボットを作る会社に投資した結果

私の知り合いがロボットのある部分に特化したベンチャーを立ち上げたのは今から10年前。当時私と彼は、ある集まりで意気投合しました仲でした。

何している人ですか?

介護用のロボットを開発してるんだよ、一人会社。ずっと開発で会社真っ赤だけどね

とそんな説明をしてくれました。

そこから数年後に会った時、状況が変わっていました。
どうやら介護領域でお金を出してくれる投資家もおらず、また介護ビジネスそのものが国の補助金で成り立っているため、ビジネス的な土壌があるとはいいづらく、ピボットして産業用のロボットを作ることにしたのです。

これが転機でした。

介護から産業用ロボットへ。時代の波もとらえたのか、彼の特許や技術は、ビジネスの領域を変えた事で一気に花が開きました。
銀行系のベンチャーキャピタルや事業会社から投資がつき、上場への階段を歩み始めたのです。完全に赤字で、完全に売り上げもゼロでしたが、技術がありました。そこで一気に上場案件と化したのでした。

僕は世界を変えるよ。できると思ってる。

10年前、あった時、そんな言葉を言っていた彼を思い出しました。
威勢のいい彼の発言に「言うだけでもすごいな」と思いつつ、新しいものを作るスキルすらない自分を恨めしく感じました。完全に文系の私は、高校の時代に教科選択、間違えたかなあと。

話を戻します。

そんなタイミング、正確にはシリーズAの終わりの頃、資金調達しエンジニアを募り、一気に会社を拡大させようとする彼に再会したのでした。気が付けば、僕はこう口にしていました。

僕にも投資をさせてくれないか?

「うーんいいけど、もうメイン株主の意向もあるから個人レベルとか、変な言い方だけど1000万とかレベルではいれられないんだよ」

「いくらからならいけるの?」

「最低でも5000万以上じゃない?」

誰が聞いてもわかるような、名だたる会社からの出資を受けている彼は颯爽と答えました。

私は彼にいちいち詳しく自分の事業規模やお金に関して話をしてきていませんでしたから、最初から難しいと判断したようでした。

個人投資家NG
5000万以上は必須

という条件か、なるほど。
ということで、後輩経営者と二人で匿名組合を組成して、そこで二人で合計1.4億円を入れて、シリーズBで投資しました。

これくらい(の額を)投資するよ、と言った時の驚いた彼の顔が今でも忘れられません。

ベンチャー投資なんて、無くなるかもしれないお金です。しかし私は大胆に勝負をしました。もちろん上場した暁には10倍やそれ以上の期待値です。
行くしかないと思い投資を実行したのでした。賭けていました。

実際、様々な企業へ彼の会社が製造したロボットのテスト導入が決まりました。また人員としても、プレステを作った人なんかも会社にジョインしてきて、ロボット博士やロボット工学の先生など、優秀なエンジニアがどんどん入ってきました。


私は浮足立って、絶対に上場できる、もう仕事とはおさらばだ、と思うようになってもいました。


しかし現実はそうではありませんでした。



この企業はソフト開発ではなく、ハードも自社で作っていました。
つまりそれだけ金がかかるというわけです。
ベンチャー企業にとっては最もコスト高な構造です。
資金はどんどん使われていき、内紛(部下の裏切り)みたいなものも相まって、会社の体力はみるみるうちに減り、社内の空気はどんよりと暗い感じになっていきました。

経営者の彼の表情は暗く、売り上げの計画は達成できず資金ショートが懸念される、まさにベンチャーの正念場を迎えていました。

そこに中国企業が51%の株式シェアを条件に、巨額の資金提供をすると名乗り出たのです。

日本企業でも彼の会社のポテンシャルを認め、投資をしようという声もあがりましたが、中国企業とのバリエーションがまるで違いました。

ただしその中国企業は上場企業でとんでもない売上のある会社でしたので、買収され傘下に収まってしまうと、彼の会社が上場するような、ダイナミックな話は無くなることが予測できました。完全にその会社の子会社としてシナジーを生む役割を担わされることは目に見えていました。

つまり上場ではなくセルオフ(売却)です。

記憶が定かではないのですが、中国企業は今の株価の倍で買う、みたいな話だったと思います、投資して1年半くらいでしたので、もしその通りにいけばグッドリターンとも言えたでしょう。

ただ私は上場を夢見ていたし、何十倍になることを願っていました。
が、状況的にそんな夢を見ていられるわけもなく、、かといって現状が決して悪くない方向でもありました。

しかし代表の彼は、日本で育まれた自分の才能や特許を、外国に取られてしまうのは避けたいという明確な意思がありました。

そこで助け船が出てきました。日本の上場企業で、ロボットの最大手、知る人ぞ知るF社です。
紆余曲折を経、F社が彼の会社を買収することになりました。

評価は中国企業ほど高くはないが、彼がF社の中で、自由にやらせてもらえるという事、あくまで彼の会社を彼の支配下で大きくさせるということを容認する意向だった点、この2点で彼はF社へ売却を決めました。


それから数か月後、銀行に匿名組合の通帳を記帳しにいく私がいました。

通帳には金額と、あのF社の文字。

こうして私と後輩の二人の持ち分は、F社に、あっさり買い取られました。15%程度割り増しで、買われたのでした。

投資としては、少し増えて戻ってきたという結果です。
しかしそのころには私も、当初の野心は消えていて、これから彼と、彼の会社(実体はもう存在しない)がF社の内部で新しく息を吹き返し再生することを願っていました。

しかし、そんなに甘くありませんでした。

数か月後、彼は、F社から解任されました。
それと同時に、テスト導入していたロボットが全て回収され、プロジェクトの中止げ宣言されました。F社から言えば、そのレベルに達していない、ということのようでした。

うまく理解できない私でしたが、経済新聞やいろんなところで論評がありました。内容はこうです。

日本を代表するロボット会社Fは、圧倒的な資金力と、唯一と言っていいほどのポジションを日本はもとより世界的にも、確立しています。

その牙城を少しでも荒らしてくる目は摘んでおきたいという判断が働いたようでした。もちろん、当初は全うに社内ベンチャーを支援するというような意図もゼロではなかったでしょう。しかし、結果的に彼の会社は完全に解体され、しかし彼の国際特許はF社に帰属することとなり、実質跡形もなく消えたのです。

これが私が投資をしたロボットベンチャーの顛末でした。

ただ一方でマーケットでは、ロボットの研究者が研究だけでなく実際に事業をおこし、大手企業に売却までもっていったということで、彼の実績は世界的な企業から注目を浴びるようになりました。
彼は今、世界最大手の企業から破格の条件でヘッドハンティングされ、海外で仕事をしています。

10年前に言っていた、僕は世界を変えるよ、変えられると思っている。という言葉、今も彼の中で、脈々と息づいています。


ということで、私の投資話は以上です。




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