見出し画像

似顔絵で眼鏡を描かれない人

 白いチョークによって書かれた文字は、蛇行を繰り返しながら向かってくる。歪んだ光は、目を細めた僕にさえ、なにも届けてくれない。せっかく来る明日も、濁って、滲んでいるんだろうと目をつぶる。朝起きて、まず眼鏡を探すようになったのはいつからだろう。

 「眼鏡って、オタクみたいで、カースト上位にいるための『運動神経』を否定する象徴みたいでダサい。」そう思っていた自分は、中学に上がると眼鏡をかけるようになった。卒業文集の似顔絵には、しっかりと眼鏡が描かれた。眼鏡キャラ...自分の思い描く理想の「強い自分」ってやつと、外から見える自分は全く違うものらしい。

 高校生になってコンタクトレンズを作ることにした。「これで、思い描く自分になれる。」そう思ったが、思い描く自分を見せる相手はいなかった。あの小汚い男子高で、なぜオシャレをするのか。目に異物感を感じながら、誰のために、かっこよくいるのか。僕はコンタクトをするのをやめた。ボサボサの頭で、メガネをかけて、毎日を過ごした。

 なにもしない自分でいる時間が長くなると、何かをする自分への期待が膨らむ。実際には何かをしても、ほとんど変わらないのに。自尊心は、痩せればかわいいと言い続けた腹のように、膨らんでいく。努力をしなければいつかの自分に希望が持てるのに、目一杯努力をしたら、自分の限界が見えて失望するのだ。それなら、いっそ、見えない方が、見ない方が、幸せなのだろうか。


 ICLしました。こうして目が見える世界は素晴らしいのだと再認識するわけです。うん、見えた方がいい。

 視力回復と聞いて真っ先に思いつくのはレーシックです。レーシックは角膜を削ります。けどICLは眼内にコンタクトレンズ挿入してしまうってものです。異常があれば、レンズを取り出せばいい。可逆性があるってのがレーシックとの大きな違いです。値段は46万円。コンタクトレンズを使用すると考えたら、あとあとこちらのが経済的である。時間はお金とはよくいったもの。先払いなだけなのです。

 まずは、電話で検査の予約です。手術の前に検査が必要で、検査にあたっては、1週間弱コンタクトをつけてはいけないとのこと。僕はそのときコンタクトをつけない生活をしていたので、すぐに検査が可能で、3日後に病院へ行くことになりました。角膜の厚さとかの関係で、適応なしで手術不可のこともあるようです。

 午前10時から検査開始。詳細な検査を覚えていないけど、いつもの気球みるやつとか、風をぼんって目にかけられるやつなどなど、機械を覗き込む系のやつを10個くらいやります。正直何やってるのかよくわかりませんが、目の形とか、角膜の厚さとかの検査らしいです。
機械覗く以外だと、目に細い棒を当てられるってのもありました。点眼麻酔してからなので、痛みとかはないけど、めちゃめちゃ怖かった。手術無理かもなって思いました。
あとは入れるレンズ決めるための視力検査。久々に裸眼の視力を測ったら0.07。あらためて視力の悪さに驚きました。
さあそんなこんなで検査を終えると、手術適応あり、しかもレンズの在庫があるから、その日の手術が可能とのことでした。またくるのめんどいから、今日やろう!ってことでその日にやることに。リスクの説明も受けました。白内障とか緑内障とか、まあほとんどないらしいけどリスクがない手術などないわけで、その点で怯えることはありません。ただ、目になにかされる、その恐怖だけ。

 10時に来院してここまでで14時。15時から15分毎に麻酔の点眼をして待ちます。結構待ち時間が長い。瞳孔開く点眼もされているので、近くが見えなくてスマホとか本とか読めません。そのため、本当に待つだけ。今生きていて無の状態で待つことってほとんどないですよね。結構待ち時間は苦痛でした。

 そんなこんなで16時半に手術室へ呼ばれます。手術台に寝ると、目の部分だけ開いたシートを被され、3つの光が眼前に来ます。うわーこれからやるのか、どんどん湧いてくる恐怖心。なんでこれやるんだ?やらなくても生きてはいけるのに。しかもめっちゃ前見えるやん。怖すぎる。考えていたことはそんな感じ。

 さあ始まります。まずはおそらく目の洗浄。上見てと言われて液体を投入。下見て、横見て。大量の液体を両目に注がれます。赤く濁った感じ?痛みは一切ない。ちょっと冷たかった気がします。

そして右目から施術開始。まつげにテープを貼られます。上見て下まつげにテープ。下見て上まつげにテープ。そのあと目を開けたままに固定する器具の装着。「目の前の3つの光見ててねー。」いよいよ本当に始まる。