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模範としての中居正広<弱さと魅了>

 前回は自分のカッコいいを形成してくれた木村拓哉について振り返ってみたが,ボクが年齢を重ねると同時に尊敬度合いが徐々に上がってきたのが,中居正広だ.彼の魅力は表の顔と裏の顔のギャップにあり.コミカルとシリアスの間をその場に応じて縦横無尽に駆け回る姿には,ギャップ好きなボクからすると,非常に惹きつけられるものがあると思っている.今回は,今までのジャニーズ人生のなかで中居正広とどのように向き合い,そして特に魅力だと思う点について書いていきたい.

小さいときから変わらない,変わり続ける中居くん

 幼稚園生の頃にSMAPと出会ったボクは,それと同時に中居正広とも出会ったと言うこともできる.歌唱する姿もコントをする姿も喋る姿もずっと見てきたボクからすると,彼に対して言われる「音痴」という評価がよく分からなかった.何せそういう感覚を養う期間に彼の歌を聴いて"しまった"のだから.そのため,ボクは普通に彼の歌声には(なじみもあったためか)安らぎを与える何かを感じ取れていた.ちなみに,ボクはたしか小学生くらいの時にピアノを始めたので,彼の音痴さに気づいたのはもっと後のことだった気がする.

 通例として,人生には波のような高低差が存在する.ずっと目標にしていたものを勝ち取った瞬間であったり,何か大切なものを失ってしまったり...... 少なからず,テレビに映る中居正広の姿にはそのような変化の波を感じられず,いつも安定した彼を享受することができた.トーク・ダンス・歌・時々,芝居等々彼は独自のスタイルを貫き,現状維持で活動してきたのだ.何かコントラストがあるのだとすれば,それはSMAPの歌手活動にあるのではないかと思う.平均として年に2回(あくまで感覚)のシングルを出していたSMAPは生バンドで映えるテイストの路線を守りつつ様々な楽曲を披露してきており,大人なミディアムバラードである「そっと、きゅっと。」や軽快なリズムとサウンドで当時アラフォーの彼らが歌って踊る「Joy!」など,多岐にわたる.そのなかでの中居正広はその曲に合わせて変幻自在に放つオーラのチャンネルを変える.そう,彼の魅力のひとつには不変と変化にあるのだ.

シリアスな中居正広

 彼は18歳の時から自分は三枚目路線でやっていくと決意し,バラエティ番組の司会を目指し人知れず研鑽を積み重ねてきた努力の人である.「三枚目路線」と称することもあり、彼のシリアスな場面を見れるのはそう多くはないが,彼のそのような様相を垣間見れるのは,ライブや番組出演の裏側,つまりメイキングのときだ.

 ボクが彼のシリアスな顔の中で最も影響を受けたのが,彼が密かに書いている「ノート」の存在である.遅ればせながら,ボクがこのノートの存在を知ったのはたしか中3か高1くらいだったと記憶しているのだが,どうやら彼はバラエティ番組を始めとした司会の座をモノにするため,18歳の頃からトークの際にいうフレーズや「笑っていいとも!」でタモリさんにふる質問を書き殴っていたようだ.

 彼の司会学は非常に参考になる.というのも,ボクはそれこそ18歳(大学1年生)のときから塾講師をやり始め,人前に立って何かを伝える仕事をしていたり,今は研究者のタマゴ(大学院入学前なので)だということもあり,これもまた人前で何かを発表する機会が多い.中居正広の司会は分け隔てなくゲストの人に振りまくり,あまり我を出さない.これは特に授業運営の面で役に立つ.こちらがベラベラ喋ったり黒板に何かを書いたとて,相手が理解していなければあまりそれは意味がなく,出来るだけその生徒と相互作用的なコミュニケーションを図り,その生徒のリズムで伴走したいものだ.

 中居正広の「ノート」の存在を知る前の僕は,彼の実力を伴った司会ぶりは類稀なる天性の才能であると思っていた.しかしそれには,ある種の誤解が混在している.

 そのノートに記載されている全貌は明らかにされていないため,それを詳らかに知ることはできないのだが,少ない彼からの言及によると—上記のトークで喋る内容もそうだが—読んだ小説から感動したフレーズであったり,自分が今まで知らなかった言葉,はたまた,今自分が何を思っているのか・考えているのかについてまとめているようだ.特にボクが印象に残っているのは,「情熱大陸」というドキュメンタリー番組で’08年に中居正広が取り上げられたとき,映画の公開記念イベントの直前,スタッフに何か指示をして1枚の紙を持って来させた場面である.それは,くしゃくしゃ状態の何かの裏紙で,そこにはびっしりと様々な言葉の羅列が書かれてあり,どうやら,そのイベントに際して「これを喋ろう」と思ったことを書いていたようだ.地味なシチュエーションではあるが,この地味な準備こそが,彼が活躍する大舞台の場へ挑む際の大きな武器になるのである.

弱さの告白

 彼は自身のラジオで自身の心境を正直に告白することが多い.昨日書いた木村拓哉と明らかに異なるのは,中居正広は正直に自身の弱いところを発するところである.この noteを書くにあたってボクは彼のラジオをザッピングしていたのだが,ある日の放送回で話されていたのは,彼がどこかへ出かける際に,携帯を家に忘れてしまった状態で10時間ほど外出し,家に帰ってきて携帯を見てみると,誰からも連絡がなかったというエピソードがあった.これを彼は「トホホ」と言わんばかりの虚しい声色で吐露していた.

 そのような告白が自身のラジオ内で多くある中でボクのなかで非常に印象的なのは,「ボクは逐一,辿った道を振り返らないと先を歩めない」という内容である.グループとして,個人としてさまざまな活動,そして自身のライフコースを歩むなかで,その歩んできた道を振り返らないと不安になるというものだ.このような考え方,そしてこれを告白するという彼のその行動は木村拓哉のもつヘゲモニックな男性性とだいぶ異なる.彼は芸能界の最前線を走る第一走者であるのにも関わらず,弱みを出せる」という強みを持っているのだ.

 ボクが彼に見出すカッコよさというのは,コミカルな様相とシリアスな様相を自在に駆け巡る中居正広の心意気だ.彼は「音痴」という通例ネガティブに捉えられる性質を武器にしたり,女の子と一緒にいれないと口々にすることである種の「童貞」気質をも武器にしたりもする.その反面,踊りというパフォーマンスの場面ではメンバーの誰よりもキレキレに踊り,ファンを魅了する.彼のこの「弱み」を出しつつもここぞという時に人を魅了させる力を発揮するというチャンネルの切り替えがまさに男性としての模範ではないか.そんなカッコ良さを持っていながら,ファンに向けて「お前らはオレの生活費だから」と言ってのける彼もまた,最低で最高の男なのである.

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