匠真幸希の事件簿file:8 『女児誘拐未遂事件。犯人の正体は・・・。』(実行犯とは別の、真犯人とは?)

匠真幸希の事件簿file:8
『女児誘拐未遂事件。犯人の正体は・・・。』
(実行犯とは別の、真犯人とは?)

※ 実話を元にプライバシーを考慮した物語です。

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小学5年生の美紀さんは友達と学校を出たあと、
いつものように途中で別れ一人で英会話教室に向かって歩いていた。

週に3回通っている慣れた道だ。

あの角を曲がったら教室は目の前というとき、
突然、見知らぬ男が現れた。

「大和美紀ちゃんだね?

 突然ごめんね。
 おじさんはお父さんの剛さんの知合いで、田中といいます。

 実はお父さんが急に倒れられて、今病院に行ってるんだ。

 お母さんの千里さんと、弟の翔太くんは病院で待ってるから、
 一緒に来てくれる?」

突然のことに美紀さんは驚いたが、
とりあえず母親から教わっている通りに、携帯電話を取り出そうとした。

しかし、男は、病院では携帯がつながらないから、
両親に頼まれて自分が迎えに来たと言い、美紀さんを車へと促した。

美紀さんが、その男に従って歩き始めたそのとき、
偶然、同級生のお母さんが通りかかり声をかけた。

驚いた男はそのまま逃走。

同級生のお母さんは、置き去りにされた美紀さんに事情を聞いて、
お母さんの千里さんに連絡。

男の言っていたことは事実無根であることがわかり、即座に110番通報した。

通報から13分後、警察は、誘拐未遂事件として捜査を開始。

警察は実況見分後、犯人を見た2人からの聞き取り調査を元に、

その、

「左耳たぶにホクロのある男」

の似顔絵を作成し、聞き取り調査をした後、近隣学校に注意喚起の連絡をした。

しかし、田舎の細い路地で起きた事件であり、
周辺にも防犯カメラは少ないため、決め手となる映像はなく、
犯人特定は難しい状況だった。

警察では継続捜査となったが、家族全員の名前に加え、
美紀さんの英会話教室まで知られている以上、
いつ何が起きてもおかしくない。

事件以降、お母さんの千里さんが車で登下校や英会話教室の送迎をしていたが、遂に心労で寝込んでしまった。

この大和夫妻の友人というのが僕のクライアントで、
彼らの窮地を知って、僕を紹介したという流れだ。

大和夫妻から連絡をもらった時、即座に自宅訪問をし、
美紀さんにも会うべきと直感した。

メールに添付された美紀さんの写真から、
彼女に「色々と」危険が迫っていることを察知したからだ。


約束の日、大和夫妻の自宅前に立った僕は、観察をはじめた。

家の所在地や敷地面積をみるかぎり、資産家であることは一目瞭然。

塀や入り口には、真新しい防犯カメラが3つも可動している。

事件後すぐに設置したのだろう。


家の中に招かれたが、大和夫妻は、
心労から殆ど睡眠が取れていない様子で、
美紀さんも、弟の翔太君も、緊張した面持ちでソファに座っている。

依頼内容も、展開もすべて予測はできているが、
まずは話を聞き出すことが大切。

『お嬢さんが、誘拐未遂にあったということですが、
 ご依頼内容はどういったことでしょうか?』

お母さんの千里さんが、大きな封筒から資料を全て出して見せつつ、

「作成された似顔絵や背格好などから、誘拐犯を見つけられませんか?
 これが、目撃証言から作られた似顔絵と背格好です。」

そして 畳み掛けるように、

「それと・・・どうやって、家族の名前や、
 美紀の顔を知り得たのかも調べて下さいませんか!?」

と少しヒステリック気味の口調で依頼してきた。

目は血走り、瞳孔も開いている。

ひとまず、簡単な聞き取りで概略は掴めたので、僕は質問を始めた。

(質問の答えのあらかたは、既に把握しているが、
 質問をする過程を経ることで、
 クライアントに問題を確認してもらう目的が大きい)

『SNSはやっていますか?
 お子さんやご家族の写真をアップしたりしていませんか?』

「そういったものは・・・」

と、お父さんの剛さんが口を開こうとした途端、

千里さんがそれを遮って話しだした。

「SNSは誰もやっていません!
 私や主人はもちろんですが、子供たちが使うネット端末には、
 フィルタリングをかけております!」

(理由は割愛するが、予測通り。)

となると、犯人に漏れた出処で有力なのは、

リビングに入った時から既に目についている、

 ”アレ” だ。

"アレ"をやってしまっている家庭は、アナログな個人情報を軽視しているから、ほぼ間違いない。

僕は話しを続けた。

『なるほど。SNSはやっていらっしゃらない・・・
 でも、”アレ” は、お宅でも毎年送られていますよね?』

 僕は、リビングのレターストックに入った、

 大和夫妻の友人からと思しき、

 ”写真付き年賀状”

 を指さした。

「あ、はい、それは・・・毎年・・・」

という剛さんの言葉を遮り千里さんは、

「え・・・?年賀状の写真が・・・?」

と、瞬時に青ざめた。

今年出した年賀状を見せて貰うと、案の定、
家族全員の名前と顔、背格好、住所と、
犯人が喜ぶ情報が満載だ。

『お子様の安全を守る上で、気をつけるべきことのひとつは、
 ”リスクの回避” です。

 SNSなどで、子供の名前や顔写真をあげるのは致命的です。
 
 そして、たとえ子供や自分達が写っていなくても、
 旅行の写真やレストランの写真をあげるのも危険です。

 住所の近隣地や、子供の学区、生活や行動パターンが筒抜けになります。

 表札に家族の名前を全部出すのもやめた方が良いですし、
 傘や自転車に名前や電話番号を入れるのも危険です。
 これらが玄関に置いてあれば、これも筒抜けになります。』

千里さんは、間(ま)を与えると、言い訳や感情をぶつけてくる筈なので、
あえて、間髪入れずに続けた。

『たしかに大和家では仰るとおりSNSはやっておられないし、
 こういった玄関や庭周りの問題も非該当です。

 ただし、年賀状に顔写真付きで名前を全員載せていたら、同じことです。

 このご様子ですと、美紀さん、翔太君、どちらの誕生の後も、
 ご出産の報告も郵送されたのではないですか?
 写真と生年月日、性別、命名にフリガナ付きで。』

大和夫妻は否定せず、引きつった顔をしている。

『であるなら、お子様の個人情報は、もう世の中に流出しています。

 郵便物の回収員、仕分け人、郵便配達員、
 送った相手に出入りする友人や知人、親戚、

 全てご存知ですか?

 スマホのカメラでその郵便物を撮られたら、
 その相手に送ったも同然となります。』

(顔写真からAIが勝手に人物判定が為されるようになる時代。
 不用意に顔をネットに晒すのはかなりのリスクを伴う。
 写真から、行動を読まれたり、経歴や自宅所在地、
 勤務先まで調べ上げられる可能性があるのだ。)

ここまで言えば、もはや反論する気力も失っている。

相手にもよるが、たたみ込む論調にして正解だった。

僕は更に続けた。

『年賀状を交換している人は何人居ますか?
 その人達の年賀状と送付先リストを見せて下さい。』

とお願いし、手渡された114枚の年賀状の情報をインプットしながら分析を開始した。

僕の予測では、
犯人は、この年賀状を受け取った人の家に、出入りしている人物だ。

論理的に考え、
近隣に似顔絵を配っても、警察に情報が入らないということは、
遠方に住んでいる友人・知人宅で、盗み見られた可能性が高い。


そしてその家庭は・・・

”片付けが苦手”

であるに違いない。

もらった年賀状を、他人が見えるところに放置していたわけだから・・・。

その条件に合う人達を年賀状から分析、探索していったところ、

”ある家族”

に行き当たった。

大和夫妻に確認すると、
年賀状の交換をする程度で、近年はほとんど会っていない、
剛さんの友人だという。

『このご家族に、犯人の似顔絵を送って、心当たりがあるかどうか?
 聞いて頂けませんか?』

「わかりました!!
 あなた、Aさんの連絡先知ってるでしょ!?
 早く写真送ってちょうだい!!」

千里さんが、命令口調で剛さんを急かす。

すぐに連絡はとれ、ある男が浮上した。

左耳たぶの特徴的なホクロ 

を、Aさんの奥さんが覚えていたのだ。

それは、Aさん宅に来た、

”エアコンクリーニング業者の男”

だった。

こういった業者は、作業の過程で、
床を汚したり傷を付けたりしないように、
大きなブルーシートなどを敷いて作業に入るのが定石。

必然的にその部屋に家主は不在になる。

男はその隙に、大和家の年賀状を発見し、それを持ち去ったのだろう。

剛さんが友人に確認したところ、やはり大和家の年賀状が無くなっていた。

合わせて、この業者の屋号を聞き、ネット検索してみたところ、

”左耳たぶにホクロのある男”

は、その会社のスタッフ紹介ページに載っていた。

瞬時に僕は、男の観相鑑定を終え、本性を炙り出した。

千里さんは訝しげに、

「でも、どうしてうちの年賀状を?
 身代金が取れそうだと思ったのでしょうか?
 どうして年賀状だけでそんなことが分かるんでしょう?」

『住所が分かれば、ストリートビューで検索し、
 どんな家に住んでいるか?は一目瞭然です。

 同時に近隣の利便性や、地価も検索ですぐに出てきます。
 経済状態の想像はつくでしょう。

 ですが、今回のこの男は、僕の観相鑑定では、
 身代金目的ではありません。

 

 美紀さん です。

 彼女の容姿を気に入ったのです。

 この犯人は、ペドフィリア(小児性愛者)ですから。』

場の空気が一段と重苦しく固まり、張りつめた。

『ネット上では、ペドフィリア向けに、
 写真付きで、子どもの身体的特徴や、
 どこに住み、どこの学校で・・・といった情報が売買されていると、
 僕の仲間のネットの賢者は言っています。

 もちろんその情報を載せているのは、
 載っている子供たちとは無関係の第三者です。

 

 他人に自分の子供の情報を勝手に売られていることに、
 親は気付いていないのです。

 もし身代金目的なら、多少お金がありそうな家の子であれば、
 誰でもいいわけです。

 でも犯人は、美紀さんを狙った。

 こういった犯人は、目的を遂げるまで、
 その欲求を持ち続ける傾向が強い。
 故に厄介です。』

剛さんが、絶望した表情で

「つまり・・・たった年賀状1枚のことで、
 美紀はずっと狙われ続けるということですか!?」


『可能性は高いです。

 だからこそ、二度と狙われないようにする必要があるのですが、
 これを警察に伝えても、証拠が弱く、犯人逮捕までは難しいでしょう。

 現に、美紀さんと友人のお母さんは犯人の顔を目撃していますが、
 HPに出ている犯人の顔と、似顔絵は若干異なりますし、
 先ほど犯人の顔が出てきた時も、

 「この人だ!」

 という反応を美紀さんはされていません。

 
 犯行時に、主に美紀さんの顔を見て声をかけた友人のお母さんも、
 犯人の面通しをしてもらったところで同じでしょう。

 緊張状態にある人間の咄嗟の記憶力などその程度です。

 
 更に言えば、万が一逮捕に至ったとしても、
 刑法224条 未成年者略取及び誘拐罪 で、
 3月以上7年以下の懲役にしかなりません。

 今回は未遂ですから、数カ月がいいところです。

 ヘタをすれば、心身衰弱や思いつきによる犯行で、
 計画的では無いとされる可能性が高く、
 早々に出所となる可能性もあるんです。

 そうなれば、報復される可能性だってあります。』

「じゃあ、警察に行ってもどうにもならないんですか?
 犯人は野放しなんですか!?
 私達はいつまで美紀を守ればいいんですか!!?」

 ヒステリックに叫びながら涙を流す千里さん。

『いや、方法がないわけではありません。
 ただし、自己責任で!とはなりますが・・・。』

僕はアイデアの全体像を大和夫妻に説明、
自己責任を承知し、書面で誓約して頂いた上で依頼を受けた。


手始めに、ネットの賢者に調査を依頼。

犯人がSNSで私生活を晒していることは、僕でもすぐに探れていたため、
彼にしかできないことを、

”色々と”

探ってもらい、その上で作戦を練った。

準備が整ったところで、犯人にメッセージを送り呼び出した。

相手にネットの賢者の凄さを見せつけるべく、犯人の使用している、
全てのSNS、メールなどに同じ文面を同時に送った。

”全て掌握の上、監視済み”

というメッセージだ。

(犯人がこの後、何を考えどう動くかも計算済みだ)

メッセージの最後に、

「心当たりがあれば〇日に〇〇へ」


念のために人が多いファミレスを指定し、
ガタイの良い人間3人を従えて向かった。

既に犯人は来て座っており、冷めきったコーヒーに浮かぶ埃を見つめ、
その顔は青ざめ、唇は乾ききっていた。

(怖いならやめろよ。人を襲うなら返り血を浴びる覚悟をするべき。
 と、思ったが、言っても理解できないだろう。)

こんな人間には挨拶も要らない。

座って開口一番、

『認めなくてもいいけど、こちらで全て調べがついています。

 シークレットなので詳しくは言えませんけど、
 IT業界では「ネットの賢者」と呼ばれる人が、
 君を探し当てました。数分でね。

 君の ”全て” を把握してます。

 19〇〇年〇月〇日、〇〇県〇〇市生まれ、

 現住所〇〇〇・・・。』

震えが止まらない犯人を無視し、
徐々に周囲にも聞こえるように声のボリュームを上げながら、
僕は続けた。

『父〇〇、母〇〇〇、兄〇。

 私立〇〇高校中退、中退の理由は〇〇〇〇。

 今、狙いをつけている小児は主に4人。

 最近観たアダルトビデオのタイトルは・・・

「もっ!もう勘弁してください!!」

『それは、

 ・自白

 ・反省

 ・二度としない誓約の言葉

 と、とっていいのかな?

 もし、今後も付きまとうなら、
 ネットの賢者が地球の果てでも君を追い続けますよ。』

「やりません!!
 あ、あの・・・け、け、警察に届けるんですか?」

喉がカラカラで声が上ずっている。

『あのお嬢さんのご両親はそのつもりでいますよ。
 証拠も揃えてありますしね。』

「それだけは勘弁してください!
 ほんの出来心だったんです。何でも言うこと聞きます!」

『では警察に届けない代わりに、二度と付きまとわないと誓約してください。

 もし次やったら、どこまでも追いかけるし、
 君の情報を、何処でどのように扱うかも考えさせて頂きますからね。

 はっきり言って、ネットの賢者は、警察より怖いですよ。

 これはそのネットの賢者からの伝言です。』

僕は彼からの一枚の紙を渡した。

そこには、、、

「君のような外見が大好きな”男性”も、

 ネットの世界には沢山いらっしゃいます。

 君があの子を好きになったように、

 君が、そのような男性に、好きになってもらえる

 お手伝いをすることも、僕には可能です。

 いえいえ!これは脅しなどではなく、親切心です。

 あなたのような男性が好きな男性に、

 あなたをご紹介するだけですから。

 ネットの仲人より。」

青かった顔が、灰色に変わった。

歯ごたえが無さ過ぎだが、チェックメイトだ。


犯人は誓約書にサインし、二度と付きまとわないことを約束してレストランをあとにした。

これで誘拐未遂の方は一件落着したわけだが

実は ”あと2つ” 

美紀さんには「危険」が存在している。

これは、依頼されたことではないが、
この2つを解決しなければ、この事件は本当の意味で終わらない。

・・・

その日の夕刻、大和家に出向いて、

家族全員に集まってもらい、犯人にサインをさせた誓約書を見せて僕は口を開いた。

『安心して下さい。犯人は99%何もしてくることはないでしょう。』

大和夫妻の顔からは恐怖が消え、安堵のため息が漏れた・・・

が・・・

子供たちの顔は曇ったままだ。

(予測どおり)

僕は続けて、

『この犯人は心配ありませんが、リスクの回避は必要不可欠です。
 写真入りのハガキなどは、金輪際やめてくださいね。』

大和夫妻は大きく頷き、

「本当に軽率でした。今後はしっかり気をつけていきます。」


『ここからはサービスの助言ですが、もうお分かりとは思いますが、
 こういったミスを、

 「私たちは気をつけているから大丈夫!」

 といった固定概念で、
 やってしまいがちとお見受けするので言わせて頂きます。


 家族で海外旅行に来ています。

 という写真をアップしたら、

 空き巣に遭う可能性は格段に上がります。

 また、お手持ちの高価な品物や室内を写し込めば、
 窃盗や強盗を呼び込むことにも成りかねません。

 やるなら、僕が敷いているようなレベルのセキュリティーが必要でしょう。

 
 顔写真や名前だけではなく、

 身の周りのもの、家、旅行先、行きつけのレストラン・・・

 そういったものも、公開しないようにしてください。』

「もともと公開しているつもりはありませんでしたが、
 そんな危険があるとは思いませんでした。

 家族を守るためにも気をつけます!
 ありがとうご・・・」

剛さんが言い終える前に、千里さんは美紀さんに向かって、

「美紀ちゃん!
 あなたも知らない人にもう勝手に付いていったりしないのよ!

 いつも言い聞かせてるのに、どうして言うことが聞けないのかしら?

 そもそも美紀ちゃんがあんな男に付いて行こうとしなかったら、
 こんなことにはならなかったんだから!」

安心したからか、千里さんは急に素の自分に戻り、
ヒステリックに美紀さんを責め始めた。

僕が観相で観ていた千里さんの人格通りだ。

本来は、既に仕事は終わっているのだが、
観てしまったものを、観なかったことには出来ないので、
話を続けることにした。

千里さんのマシンガントークを遮り、僕は口を開いた。

『美紀さん、英会話教室に通うのイヤでしょ?』

「・・・うん。」

返事をするまで6秒も考え絞り出すような返事が聞こえた。

『何故こんなもの習うんだろうって思ってない?』

「・・・思います。」

「ちょっと待ってください、習い事が、今なんの関係があるんですか?」

僕の予測どおり千里さんが口を挟んできた。

『千里さん、今回の事件と関係があるから話しています。

 美紀さんはとても聡明で、知らない人に付いていくような子ではありません。

 千里さんもそのことはご存知でしょう?

 どうして、その彼女があんなことをしたのか?

 きちんと理解してあげなければ、この事件は終わりません。

 千里さんは、子供の為と思って英会話に通わせていますが、
 彼女にとって本当に必要なことでしょうか?

 子供の目線で、子供の気持ちを考えていますか?』

「それは・・・」

『ハッキリ言わせて頂きます。

 美紀さんはお母さんの教育熱にウンザリされています。

 そのことで起きるお子さんの抵抗や反発が、
 将来どんな結果を招くか、考えてあげて下さい。』

「そんな・・・。

 じゃあ美紀は、私への反抗心で、わざと付いて行こうとしたって言うんですか?」

『耳が痛いかもしれませんが、どうか聞いて下さい。

 子供と言えども、親とは別人格です。まずはそこを認識して下さい。
 貴女は、話し方ひとつとっても一方的過ぎです。

 ご主人にさえ話を最後までさせず、話も聞かず、
 ご自分が100%正しいと思っています。

 そして、自分の考えを人に強制している事に気がついていません。

 誘拐も大きな危険ですが、千里さんの教育方法や、家族との接し方は、
 それと同じように大きな危険をはらんでいるんです。

 あの日、美紀さんは英会話に行きたくなかった。

 そこへあの男が現れた。

 サボれるかもしれない・・・

 という想いが一瞬だけ脳裏をかすめた。

 いつもガミガミいうお母さんを、少し困らせてやろうという気持ちもあったでしょう。

 その、ほんの一瞬の心の隙を犯人に突かれたのです。

 ご自身の言い分を通すだけじゃなく、

 子供からのシグナルをきちんとキャッチしてあげてください。

 自分がいいと思ったことが、子供にもいいとは限りません。』

いつもの勢いを失った千里さんはがっくりと項垂れ、ハラハラと泣きはじめた。

美紀さんは、泣きながら千里さんに抱きついた。

剛さんは翔太君を抱きかかえながら、千里さんの頭をなでていた。

そして、家族を慰めながら僕に向かって一礼した。

剛さん自身も、千里さんの問題に気づいてはいたものの、
仕事に追われ子育てを任せている負い目から、何も言えなかったのだ。

誘拐未遂とは高い授業料だったかもしれないが、
そのお蔭で、家族が危険から救われたのだから、
ある意味、安い買い物だったといえるかもしれない。


(さて、残す危険はあと1つ・・・)

挨拶を終え、大和家をあとにしようとすると、
美紀さんは一人、家の外まで見送りに来てくれた。

(計算どおりだが)

僕は彼女にだけ聞こえる適度な声量で、

『あんな感じで良かったかな?』

と美紀さんに尋ねた。

まだ  ”いい子の仮面”  を外さないので続けた。

『ご覧頂いた通り、僕は顔を見ればお見通し。

 それは君に対しても同じだよ。

 騙しきれると思ったかな?

 犯人の会社のHPで顔が出てきた時も、
 本当は犯人と気付きながら、君は分からない演技をしていた。』

美紀さんの眉間が微かにピクッと動き、仮面に亀裂が入った。

『君は、ネットのフィルタリングを解除して、
 出会い系のサイトを頻繁にみているね。

 君にとって、お母さんの設定したパスワードを解くなんて簡単だったよね。

 それにはすぐ気づかせて頂いたので、
 ネットの賢者に調べてもらって、君のネット上の痕跡は全てみさせて頂いたよ。

 すでに、何人かの男性とメッセージのやりとりをしている。

 そうだね?』

みるみる先ほどまでの顔とは別人の顔となり、

「それが何なのっ!?戻って親に告げ口でもするの!?」

仮面が剥がれ落ち、彼女はいきり立っていた。


僕は鞄からネットの賢者から預かった資料を彼女に手渡した。

『君が、4日後に会おうとしている男の正体だ。ご参考までに。』

それだけ言うと、僕はその場を去った。

彼女が資料の3枚目をめくった音がしたところで、
彼女は低い悲鳴をあげた。

The End

Special Thanks: T.A  A.S

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IQ181のギフテッド 生まれもった写真記憶で10万人超の生涯を記憶。統計学、心理学、占星術、観相学等も記憶しそれを元に確実性を極限に高めた鑑定料1分1万円の占いや各能力の数値化を提供。 コンサルタントとしての生涯利益29.2億円←更新中起業からのノウハウをTwitterで公開