匠真幸希の事件簿file:9 『スタッフは使い捨ての駒じゃない!』(匠真流 ブラック企業撃退法)

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匠真幸希の事件簿file:9

『スタッフは使い捨ての駒じゃない!』

(匠真流 ブラック企業撃退法)

※ 実話を元にプライバシーを考慮した物語です。

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ある日のこと、
身体の声を聞ける気の匠、
宮成さん(FILE6参照)からクライアントの件で相談がきた。

宮成さんのセッションを月に一回は受けに来る、
ご常連の 近藤弓子 さんの件だ。

昨日、弓子さんの母親から連絡が来て、
弓子さんが意識を失い倒れてしまったらしく、
翌日に控えている予約をキャンセルしたいというのだ。

報告を受けた宮成さんは、
いつも疲れ切ってボロボロの状態で来る彼女の容態が気になり、
お母さんに電話をしたという。

お母さんは弓子さんに何回もメールをしたのに返信がないので、
電車で1時間ほどのところで一人暮らしをしている、
彼女のアパートを訪ねたそうだ。

呼び鈴を鳴らしても返事がないので
合鍵で入ると、なんと床に弓子さんが倒れていた。

驚いてすぐ救急車を呼び病院に搬送、
なんとか一命をとりとめたものの、意識が戻らない状態だ。

医師からは、

「極度の過労で身体が参っている状態です。
 意識がいつ戻るかはわからないので、しばらく様子を見ましょう」

とのことだった。

意識がいつ戻るかは分からないものの、
容体が落ち着いていることから、
少しだけホッとしたお母さんは、
当面の着替えなどの荷物をとりに弓子さんのアパートに戻った。

そして落ち着いて考えてみると、
「娘の勤務先などに連絡を取らなければ・・・」
と思い、鞄から手帳を見つけ確認してみたところ、
娘の口からよく聞かされていた、
宮成さんのトリートメント予約が今日入っているのを見て、
連絡をしないのは申し訳ないと思い、
慌てて連絡をしてきたというのだ。

娘が大変なときに、律儀なお母さんである。


弓子さんの仕事はシステムエンジニアで、
メールの返信がいつも深夜なことから、
帰りが遅く、休みの日も少ないのでは?と心配し、
「身体は大丈夫?」と度々尋ねていたが、
いつも「平気!」と気丈に返してきていたという。

宮成さんは、彼女から聞こえてくる「身体の声」から、
休みは一ヶ月に2回、あるかないかで、
過酷な労働を強いられていたことは把握していた。

先月、トリートメントをした時も、身体はボロボロの状態で、

「疲れた」

「休みたい」

「眠りたい」

「会社に行きたくない」

「でも、体が弱いのに、女手一つで育ててくれたお母さんに仕送りしなくちゃ」

という ”身体の声” を聞いていたので、
お母さんの話しは納得ができた。

会社のために毎日遅くまで必死に働いて体を壊し、
しかも未だ意識が戻らない娘が不憫で、
お母さんは会社に勤務状況などを問い合わせたのだが、
担当者は、
「合法的な勤務状態であった」
と返すだけだったそうだ。


お母さんとの電話をきった宮成さんは、
これは、
「匠真さんに託すべき案件!」
と感じ、即座に僕に連絡をしてきたのだった。

弓子さんの意識が戻らず、何も聞けない状況なので
ひとまず母親の清子さんと面談をすることにした。

と、同時に、僕は宮成さんに

”ある依頼”

をした。

問題解決の 

”鍵” 

を、気の匠の宮成さんなら
「聞ける」と察知したのだ。

弓子さんが倒れていたご自宅で、
母親の清子さんに会うことにした。

いつもの如く、殆どの内容は既に把握しているが、
話を引き出すのは重要なことだし、
宮成さんにお願いしている ”鍵” のこともある。

『会社が違法就業をさせていたことを、
 認めないということでしたが?』

と僕が切り出すと、
清子さんは怒りを露わに話しだした。

「私が知る限りでは、毎晩の様に終電で家に帰っていました。
 何度か心配で電話したとき、
 終電のアナウンス音が電話口から聞こえてきましたから。
 
 我慢強い子で弱音は吐きませんでしたが、
 たまに会っても顔色は悪いし、疲れ切っているし、
 いつも心配していました。

 病院から、会社に労災認定を伝えてみては?と勧められたので
 聞いてみたんですが、
 「通勤中でもなく自宅で倒れられていたのですし労災にはならない、
  そもそも残業はさせてない。」
 っていうんですよ。

 それで、
「ではタイムカードを見せて欲しい」
 と頼んだのですが、会社は、
「タイムカード制ではなくて、
 勤務表に本人が時間を記入するだけです」
 っていうんです。

 しかも、毎日定時で仕事を終えているって言うんです…。」

『なるほど、典型的なブラック企業で、
 そう書かせているパターンですね。
 つまり残業している証拠は、
 今のところないということですね?』

「そうなんです。
 もう悔しくて悔しくて…

 それで娘の机をひっかきまわして、
 なにか会社との契約書みたいなものがないか探したんです。

 そうしたら、こんなものが・・・。」


清子さんは、
会社の ”就業規則” と、昇進した際の ”辞令” を鞄から取り出した。

書類には、

・役職手当 月額3万円(残業代を含む)と書かれている

→ 当然だが、役職手当は残業代にはならないので違法。
 
 
・36(サブロク)協定も結んでいない。

 ※正式名称は、”時間外・休日労働に関する協定届。”
  法定労働時間以上の残業をさせるためにはこれを結ぶことが必須。
  ただし、36協定を結んでいたとしても、
  月45時間を超える残業は違法であり(事件当時)、
  毎日の様に終電まで働いていたことが事実なら、明らかに超過している。
  

ブラック企業であり、違法就業させていたことは、
ほぼ明確だが、証拠がないのが問題だ。

さて、そろそろ…

♪ ♪ ♪~


僕の依頼で、弓子さんのお見舞いに行って頂いていた宮成さんから電話が入った。

清子さんの了承を得て、
まだ意識の戻らない弓子さんの ”身体の声” を聞いてもらっていたのだ。

「匠真さん!
 
 弓子さんの強い思いを聞けました。

 それは、彼女の部屋の本棚の一番上に向かっています。

 その辺りになにかありませんか?」

見てみると、そこには弓子さんの ”日記” が隠されていた。 

僕の予測どおり宮成さんは、
この問題の ”鍵” を見つけだしてくれた!

清子さんの承諾を得て日記をチェックしていくと

勤務時間、休みがないこと。

身体の弱い母親を想うと辞められないこと。

パワハラ、上司のセクハラ及び、

しつこくメールで誘われていることなどが記されていた。

忙しい生活の中なので文章は、
ほとんどが殴り書き、箇条書きで
日記というよりは「おぼえ書き」に近い。

頑張り屋で弱音を吐けない弓子さんは、
どこかに自分の気持ちを書かずにはいられなかったのだろう。

読みながら、清子さんの目からは大粒の涙がとめどなく流れていた。

宮成さんの活躍で、明らかに過重労働させられていたということが分かったが、
問題は、これをどうやって会社に認めさせるかだ。

「これを見せれば、会社も認めざるを得ませんよね?」

と嗚咽をあげながら訴える清子さん。

『日記は有力な証拠にはなりますけれど、
 相手はかなりブラックな会社ですし、
 社長の顔をHPで拝見しましたが、
 これを見せた程度で態度を変える人とは思えません。』

「じゃあ、会社に違法性を認めて頂くのは無理なんでしょうか?」


『方法がないわけではありません。
 ちょっと準備が必要なんですが…やってみますか?』


まずはネットの賢者(file5、8など参照)に、会社の調査を依頼。

システムエンジニアリングという同業であるため
調査自体は短時間で終了したとのこと。

報告によれば、
それほど規模は大きくない会社で、少数精鋭で運営している。

薄利多売で相当な数の案件を請負い、
スタッフにかなりの無理を強いているのは間違いない。

あくまで統計上ではあるが、
IT業界は、趣味と実益を兼ねて仕事をしている人も多く、
サービス残業を「仕方がない」とする傾向がある。

また、納期に間に合わせるため、
もしくは予期せぬプログラムの不具合や
顧客のクレームに対処するために、
会社に泊まり込みなどということも
それほど抵抗なく行われるため、
従業員のそうした姿勢を、
当たり前のように悪用している会社が多い。


ネットの賢者からの情報と、
僕の予測を組み合わせ、様々な事前準備をしながらも、
弓子さんの状況を伺っていたが、
依然意識は戻っておらず、未だ入院中とのことだった。

弓子さんのケアは、宮成さんに任せることにして、
清子さんと僕は会社にアポイントをとり訪問することにした。


訴訟も辞さないという清子さんの態度が功を奏したのか、
弓子さんの直属の上司だけでなく、
社長までもが応接室で待ち構えていた。

(予測通り)

役者が揃ったところで僕が切り出した。

『近藤弓子さんは未だ意識が戻りませんので、
 お母様の清子さんのご依頼の元、僕は付き添いとして参りました。

 今回の件は、状況的に過重労働になりますので、
 労災認定されるべきと思いますが、いかがお考えですか?』

「その前に、匠真さん、貴方は弁護士さんですか?
 でないとするなら、第三者の貴方に何も話す義務はない筈です。」

(これまた予測どおりの発言)


『お言葉ですが・・・
 僕は、非弁活動にあたらない範囲を
 複数の顧問弁護士に確認をとった上で厳守し、
 専門知識をお持ちでない、
 弓子さんの母親である清子さんから、
 心配だから一緒に来てほしい。
 と、頼まれて同席している人間です。

 それのどこが不服なのか?
 逆に疑問ですが、どうしてもお厭なようでしたら、
 顧問弁護士に連絡をとって、
 共に労働基準監督署に伺い、
 保全している明確な証拠を提示するまでですが、
 逆に御社はそれでよろしいのでしょうか?』


”労働基準監督署”

”証拠”

という単語が耳に入った途端に、社長も上司も表情が引きつった。

緊張の度合いが急に増ましたことで、
かすれた声の社長が話しだした。

「わ、わかりました。
 同席頂いて結構です。」

(労基署と証拠を耳にした途端OKって、
 違法労働を認めてるのと同じだが…)


次いで上司も口を開いた。

「でも、うちでは残業はさせてないんですよ。
 この勤務表を見てもらえればお分かり頂けると思いますが、
 定時で帰宅していますよ。」

『ただですね・・・
 僕の友人にネットにとても強い人間がおりまして…。

 手書きの勤務表を盾にされるのであれば、
 本格的に調べ、電子定期の利用時間から、
 会社と自宅の改札通過時間が分かりますが、
 お出ししてもよろしいですかね?』

少し感情的になった上司は続けた。


「そんなの、この辺で飲んでたのかもしれないし、
 友達と会ってたのかもしれないし、
 改札を通った時間イコール会社を出た時間とは
 限らないじゃないですか?」

(やはり頭が悪い。
 否定すればするほど、この後の展開を悪くさせることに気づいていない)

『ではこちらの、弓子さんの日記はどうでしょう?

 ここには残業していた事実と、
 仕事内容がちゃんと書かれていますよ。

 これは証拠として提出することが出来ます。』

証拠という言葉をまた使われ、過敏に反応した社長は、
 

「それは…

 普通は証拠になるでしょうが、それは彼女の被害妄想ですよ!
 彼女が書いたことが本当だとどうやって証明するんですか?」

(証拠の能力の高い日記ですら、妄想で片付けようとする社長たち。
 勿論これも予測のうちであり、この後の展開を自分で不利にしている。)

心の底からの悔しさを拳に込めて耐えている清子さん。

その想いを受け、僕は計画の本丸へと入った。


『それではお聞きしますが・・・

 お客様や今いるスタッフにも、
 同じことが言えますか?聞かせられますか?』

と切り出した。
 
 
すると社長は、

「もちろん!会社は何もやましいことはしてないですから!」

『そうですか、それはよかった!

 イヤ~ちょっとウッカリしてしまいまして…
 こんなところにマイクをつけていたもので…』

社長と上司は、ジャケットの内側のマイクを見せる僕を、怪訝そうにみている。

『実は、今のお話、先日、社内中に配布させて頂きました、
 スピーカーで社内の皆さんに聴こえてしまっていました。』

まさかの事態に、

驚きを隠せない顔とはこういう顔という顔 

をした、社長と上司。

僕は涼しい顔でマイクに向かってこう続けた。

『皆さん、先日はスピーカーの設置にご協力頂きありがとうございました。
 ついでに恐縮ですが、続けて僕の話を聞いて頂けますでしょうか?

 今お聴きになられて、
 この会社を離れたい!と思われた方、
 応接室までお越しください。

 先日お話しした、僕の友人であるネットの賢者が、
 皆さんの能力を高く評価しています。

 先日お伝えさせて頂きましたとおり、
 ホワイトな労働条件と環境で、適切な報酬をお支払いさせて頂きます。

 ご希望の方は、ご足労をおかけしますが、
 退職届をもって応接室までお越しください。』

社長と上司は、現実から逃れたいがため、
にわかには信じたくないという表情を浮かべていたが、
しばらくして本当にスタッフたちが応接室に現れたので、
僕のやっていたことがハッタリではないと理解したようだ。

「これは、社員を引き抜くための悪質な詐欺だ!
 君たち、こんな手に引っかかってはだめだよ!!」


と怒り心頭で、社長は説教を始めた。

(これも予測の範囲内)


『詐欺という単語を使うなら…社長…
 貴方がおやりになっていることの方が、よっぽど詐欺でしょう?

 法律に無知であることに漬け込んで、
 自分たちに都合の良い過酷な労働をスタッフに強いて、
 倒れたらそれを認めない、労災も申請できないよう追い込む、
 見舞いにすら行かない。

 スタッフは使い捨てですか?

 そんな社長に、いつまでも人がついてくると思いますか?』

ぐうの音も出ない社長…


『ここにいるスタッフの方々だって、
 やりかけの仕事を放り出していくほど無責任ではありません。

 そもそも、責任感が強いからこそ、このような劣悪な環境でも
 必死に働いてくれていたのです。

 もし、このまま皆さんに働いてほしいなら、
 この誓約書にサインをして弓子さんの過重労働を認めること、
 そして、社内の労働環境を整えること、
 ここに来たスタッフと、来なかったスタッフを差別しないことを、
 約束してくださればいいんです。

 口約束じゃ困りますよ。

 もし、実行されない場合は、
 こちらも本気でスタッフの救済に取り組ませて頂きます。

 ネットの賢者にかかればPCのログイン時間の検証など簡単ですから。
 タイムカードなどなくても、残業が明らかにできるそうです。』


うなだれる社長と上司…

スタッフたちの前で誓約書にサインをした社長は

「お母さん、みんなにも・・・
 大変申し訳ありませんでした!
 
 ちゃんと近藤弓子さんの見舞いにもいくし、
 労働条件を変えて、こういう不幸な事件が起きないようにするから。
 だから、頼むから仕事にもどってくれ・・・」

とスタッフたちに懇願した。

スタッフたちは、
俄かには信じないという姿勢を崩さない人から、
「やった!」という感じで僕に目配せをする人まで、
反応は色々であったが、
清子さんには全員、敬意を込めた会釈をしながら、応接室を出ていった。



さて…

労働条件についてはこれで解決だが、
直属の上司にも、

”あるコト”

で、お灸をすえねばならない。


『さて、弓子さんの上司である貴方にも
 誓約して頂かないといけないことがあるんですが…』

「わ、私は彼女に残業を強要したことはないですよ!」


『残業のことではありません。
 弓子さんに対する、

 セクハラ と パワハラ

 です。


 彼女がそれでどれだけ心を痛めていたか…
 あなたには想像もつかないでしょう。
 この日記に書いてありました。』

「そんなこと…それこそ彼女の妄想ですよ!
 
 そんなつもりで接したことはありませんし…

 …セクハラとかパワハラとかで訴えられるほど
 しつこくやったわけではないですよ。
 軽く飲みに誘ったぐらいで…

 私はやりとりはすぐに消してしまうので、
 証明できなくて残念ですが…。」

(やましさがあるだけに聞いてもいないことまで饒舌だ)

『あのですね…

 メールなどの電子的やりとりは、
 手元のデバイスで削除したところで、
 その道のプロにかかれば復元できますし、
 「復元できない」という人は、その程度の人です。

 それに、ここまできてまだ「妄想」と仰いますか?

 弓子さんの意識が戻ってから携帯をチェックすれば
 すぐに分かることですし、
 意識が戻られる前であっても、ネットの賢者からすれば、
 メッセージを全てチェックするなど朝飯前です。』

「そんなこと…それこそ違法行為だろ!」


社長もいる手前、
何としてでも否定したいのだろうが、
「見られても何の問題もない!」
と言えてない時点で、認めているも同然。

『そう言い張る人が多い 
 と、よくネットの賢者は言っています。

 ですが、彼はなんの痕跡も残さずに、
 透明人間になってそれが可能なのだとか。

 透明人間はさすがに誰も捕まえられないし、裁くこともできない。
 更に、それを合法的にすることも可能だとか…

 まあこの先は、僕の守備範囲でないのでよく分かりませんが、
 彼が本気を出した時の ”エグさ” を僕は見ているので、
 この辺で素直にお認めになられてはいかがでしょうか?

 まあ、ここまで言って認めないのであれば、

 それなりの対処をさせて頂くのが僕の流儀なので、
 先ほどの様に ”色々と” 考えさせて頂きますけど…』

「え、いや、その・・・

 何をしたらいいんですか?」


『こちらに誓約書を用意してきました。

 内容は、これまでのセクハラ、パワハラを認める。

 もし、今後も弓子さんにこれ以上ストレスを与えるようでしたら
 こちらも然るべき手段をとることに承諾するという内容です。』

上司は震えながら誓約書にサインをした。

これですべて完了。



僕と清子さんは、会社を出て、
そのまま、弓子さんが入院している病院に向かった。

宮成さんは今日も既に来ていて、
トリートメントをされていた。

「いつ目を覚ましてもおかしくない状況ではあるんですが、
 弓子さん、あまりにも辛い目にあったので、
 現実に戻ってくるのがイヤみたいなんですよね…

 またあんなふうに働くのはイヤ、
 あそこに戻るのはイヤ…って
 そう身体の声が聞こえてくるんです。」


と宮成さんが現状を報告してくれた。


僕は清子さんに、

・会社に行ったこと

・労災申請ができそうだということ

・パワハラ上司からも一筆取ってきたこと

などを弓子さんの意識に向かって話すようにお願いした。

実際のところ、意識がないように見えても、
ちゃんと聞こえていることもある。

聞こえているが、反応ができないというケースもある。

だから、「もう大丈夫」ということが、
きちんと伝われば、弓子さんが目を覚ます可能性は大きい。


清子さんは、涙を浮かべ、
何度も言葉に詰まりながら、
今日の会社訪問の報告をし、
弓子さんの手をとり、顔をなで、
「戻っておいで・・・」と声をかけた。

すると、弓子さんのまぶたが微かに動き次第に目が開いた。
その目には、涙が光っていた。

弓子さんの顔をみて安心し、ベッドの脇で泣き崩れる清子さん。

宮成さんと顔を見合わせ、そっと部屋を退出した。


後日。


退院した弓子さんと、
労災申請などの件で打ち合わせするべく面談した。

宮成さんのトリートメントを集中的に受けたらしく
頬は桃色に染まり、健康的な顔色になっていた。

当時、僕がチェックしていた彼女の疲労度からして、
短期間休養しただけでは、ここまでの回復は見込めないので、
気の匠による「気を体全体にめぐらせる」トリートメントが
功を奏したとしか言いようがない。

弓子さんは結果的に退職する道を選択しだが、
会社側は、全ての書類を揃えてくれることになり万事円満に進んでいた。

(これも予測どおり)

ただ彼女の場合、生まれ持った属性から、
また同じようなパターンに陥ってしまう可能性がある。

だからこそ、どうしても直接本人に話す必要があるのだ。

『なんでもかんでも自分さえ我慢すれば…
 と思うのは間違いです。

 結果的に、人に迷惑をかけてしまう事になりますから、
 もう我慢するのはやめてください。』

「本当に今回は申し訳なかったと思っています・・・。
 
 一番迷惑をかけたくなかった母に、辛い体験をさせてしまいました…
 これからは気をつけます。」

と、弓子さん。


僕は続けた。

『今後、新しいところに就職されるのであれば
 労働条件をきちんと検討して、最低限の法律は学んで、
 被雇用者としての権利を理解してください。

 うるさい従業員と思われ、上司には疎まれるかもしれませんが、
 なんでも会社の言いなりになって受け入れてしまったら、
 周りの人にもそれを強要することになるんです。

 弓子さんだけが我慢すればいいと思っていたかもしれませんが
 結果的には、周りの人全員に同じことを押し付けることになるのです。

 これからは気をつけてくださいね。』

弓子さんは深く頷いた。

その目はしっかりしていて、
彼女が今回のことで、仕事の仕方はもちろん、
自分を大切にすることを学んだということがうかがえた。

もう彼女は大丈夫だ。

労災というのは、勤務中の怪我といった、
分かりやすいものでれば認定されやすいが、
弓子さんのように過労で倒れたとか、
もしくは、うつ病を発症したような場合は、
仕事との関連性を証明しなければならず、かなり厄介である。

当然だが、会社が協力的であることは少なく、
今回のようにブラック企業が相手となると、泣き寝入りするしかない。

そういう被害に遭わないためにも、
自分がどんな条件で働いているのか?
どんな権利と義務があるのか?
しっかり理解しておくことが大切である。


数日後、
彼女から御礼のメールが届いた。


そこには、

「退社してから、セクハラ上司に、こう送りつけてやりました!」

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 私は、貴方がしたことを一生忘れません。

 あなたが送ってきた不快な文章、卑猥な言葉、
 全て保存、画面コピーして、
 信頼出来る複数の人に保存してもらっています。

 その中には、
 ネット関係に強い弁護士さんや、
 ネットの賢者さんも含まれます。

 貴方がもし、また他の誰かに同じ過ちを犯したり、
 やった事実を捻じ曲げて、
 自分に都合の良いことを流布した場合、
 ネットの賢者さんに、

 ”あるスイッチ”

 を押してもらうことにしました。

 このスイッチを押すと、何が起きるか?を、
 貴方に教えることは一生ありません。

 貴方はこのスイッチの正体を、
 一生脳裏に焼き付け、気にし続けながら、
 生きていってください。

 色々と!!お世話になりました!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この他にも、
彼女が新しいステージのビジネス街を、
ヒールで 闊歩する音が聞こえてくるような、
強く逞しい内容が記されていたが、そこは伏せさせて頂きます。

有名なアメリカ体操界のセクハラ事件のように、
セクハラは件数や質、国によっては、
175年の禁固にも値する、重罪である。

日本でも、これらの動きを受け、
セクハラへの訴えが急増し続けている。


この上司は、この十字架を一生背負って生きていくことであろう。

因果応報である。

The End.

Special Thanks: T.A  A.S

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IQ181のギフテッド 生まれもった写真記憶で10万人超の生涯を記憶。統計学、心理学、占星術、観相学等も記憶しそれを元に確実性を極限に高めた鑑定料1分1万円の占いや各能力の数値化を提供。 コンサルタントとしての生涯利益29.2億円←更新中起業からのノウハウをTwitterで公開