匠真幸希の事件簿file:10『ギフテッド VS ギフテッド』(呪われた学校。天才高校生の仕掛けたトリックとは?)

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匠真幸希の事件簿file:10

『ギフテッド VS ギフテッド』

(呪われた学校。天才高校生の仕掛けたトリックとは?)

※ 実話を元にプライバシーを考慮した物語です。

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ある私立高校から、講演の依頼が舞い込んだ。

依頼人はその学校の教師をしている、大学時代の友人だ。

それは、夏休みに入る前のタイミングだった。

半年後に卒業を迎える3年生たちに、

「起業や商売の仕方、

 世の中の仕組みを学ぶための講演を

 2時間程度でやってもらえないか?」

という依頼だった。

この類の講演は、結構やっているから

突拍子もない依頼というわけではない。

(ただ・・・何かおかしい。)

常にタイトスケジュールの僕は、

急な話は基本断っているのだが

友人の

”真の依頼”

は、ソレではないと感じ、質問した。

『で、本当は何をしてほしいの?』

僕の能力を知っている友人は、電話の向こうで笑いながら、

「あ、やっぱりバレた?さすが匠真だね。

 実は、本当に頼みたいことは、講演じゃないんだよ。

 それはカモフラージュで、

 実はちょっと学校で不思議な事故が続いていてね・・・」

と、彼が勤める私立高校での不思議な出来事を話し始めた。

友人の説明によると、

3年生のあるクラスだけ、

校内での事故で怪我人が相次いでいる というのだ。


事の発端は、

そのクラスの担任教師が、

体育館の壇上に掛ける、取り外し可能な掛け階段が外れて落ち、

左腕を骨折した。

次に、そのクラスの女子生徒が

学校から帰宅しようと自転車をこぎ始めたところ、

急に自転車のブレーキが壊れ、駐輪場出入口の門に激突、

右膝の靭帯を損傷したという。

さらに、金属加工の授業中に、

機械で男子生徒が手を5針縫う大怪我をするなど、

これ以外にも大小の事故が頻繁に、

そのクラスにだけに起きているというのだ。

生徒たちの間では、

「あのクラスおかしいよね。なんか呪われてる?」

などと、まことしやかに噂されているらしい。

学校側としては、偶然だろう・・・ということで

本格的な調査をしていないのだが、

友人は、どうにも釈然としないので、

原因を知りたいとのことだ。

彼自身もこのクラスの授業を受け持っていて、

怪我をした教師が仲のよい同僚であることもあり、

なんとか秘密裏に調査をすすめられないか?

と思ってのことらしい。

出来ることならそのクラスに直接僕を送り込みたかったが、

学校側に理由を説明するのは不可能だし、

ましてや特定のクラスに警察でもない人間を調査員として

連れて行くわけにもいかない。

そこで、「講演会」というカモフラージュを思いついたのだそうだ。

講演会ということにすれば、

3年生全員を体育館に集めることが出来るし、

講師として壇上にあがる僕は、

怪しまれることなく、全員の顔や様子をチェックできるというわけだ。

さすがに僕の友人だけあって悪知恵が働く(笑)。


ただ友人が思っているほど

”浅い事件”

ではないことが予測できていたから、

それなりの覚悟を持って、この依頼を受けることにした。


講演会当日、

3年生と各担任教師たちが体育館に集まってきた。

僕は、舞台の袖にいて、入場してくる人たちを観察していた。

一番気になるのは、

腕を骨折したという例のクラスの担任教師だ。

最初の被害者ではあるが、

彼がすべての元凶であると僕は察知していた。

かといって、彼の属性をみる限り、

犯人である可能性は非常に少ない。

この事件がヨミどおり、偶然でないとするなら、

仕掛けをしている人間は、必ず、

"別にいる"

はずである。


ひとまず、全員が集まったところで、講演会をスタートした。

僕は話しながら、生徒たちの顔をさり気なくチェックしていった。


そのとき、

右端の方から凄まじく強い視線を感じた。

「邪魔だ・・・うるさい・・・消えろ!!」

というネガティブエネルギーに加え、

嫉妬も感じる。

とにかく負の感情のレーザーとでもいうような

邪気をはらんだ視線である。

『この視線・・・覚えがある。

 というか懐かしさすら感じる・・・

 これは・・・昔の僕自身だ・・・。』

邪気をはらんだ視線は、

線の細い、ある男子生徒から放たれていた。

彼の目は、まさに学生時代の僕と同じだった。

教師や親はもとより、ほぼ全ての大人たちに、

自分の能力を理解してもらえず、

「態度が悪い」と、ひたすらに言葉と体への暴力を受け続け、

学校にも教師にも、教育体制にも、

すべてに愛想を尽かしていた頃の自分の目と同じなのだ。

一瞬にして、彼が僕と同じ ”ギフテッド” であること、

そして一連の事件の犯人であることを察知した。

このレベルの人間不信になっていれば

僕に対して冷酷な視線を送るのも頷ける。

彼の考えや想いが手に取るように分かり、

まるで昔の自分を観ているかのようだった。

ただ僕と決定的に違うのは、

彼の思想や行動が、陰湿で悪質なものに向けられていることだ。

恐らく、僕が受けた様々な屈辱以上の

「ナニか」

を体験している。

でなければ、この規模の憎悪を抱いていることに説明がつかない。

そして、彼が

”してきたこと” を観ていくうちに(もちろん講演しながらだが)

”とんでもないこと”

を察知した。

緊急かつ重要案件であるため、

講演会のあと、すぐに友人と話す時間を設けた。

期待と不安を織り交ぜ待ちきれない友人が切り出した。

「で、どうだった?なにかわかった?」

『これは、一筋縄ではいかない。

 かなり問題が深刻なんだ。

 これまでの事件は決して偶然じゃない。

 仕組んだ犯人がいる!』

「えっ?犯人がいるの?

 あのクラスのことは、ただの事故じゃないってこと?」

『そう、事故じゃない。

 これまでの事故は、犯人によって仕組まれた巧妙な罠だったんだ。

 事故に見せかけた”仕掛け”がある。

 そして皆が騙されている。

 これは事故ではなく、事件だ!』

「でも匠真・・・

 例えば、体育館の階段の事故にしても、

 あの階段は取外し可能なもので、

 事故のあと、俺も含めた職員たちで調べたけど、

 ”仕掛け” なんて無かったし、壊れてもなかったんだよ。

 だから今もそのまま使っているし。

 腕を折った教師は、階段を降りる時に、

 “足を乗せたら急に階段が前に動いて外れた”

 って言ってたから、

 試しにもう一度掛けてみたけど、ビクともしなかったし。

 それに事故が起きたときも

 少し離れたところで、生徒たちが授業開始の挨拶を待って、

 整列していただけで 階段を動かせる距離には誰もいなかったんだよ。

 一体どうやって?」

『この犯人はものすごく頭がいいんだ。

 しかも、もっと恐ろしいことを計画している。

 だから、早急に対処しなければならないんだ』

「もっと恐ろしいこと?」

『担任教師の殺害計画さ』


「えっ!!?殺害???

 はっ? まさか、冗談だろ!!!」

『残念だけど冗談じゃない。

 僕がこれまで冗談なんて言ったことないだろ。

 骨折させたのなんて、序章に過ぎない。

 犯人の本当の目的は殺害すること。

 そのぐらい、あの担任を憎んでいる。

 恐ろしいくらいの冷徹さで、着実に計画を進めているんだ。

 それをやめさせないと・・・』

「犯人・・・わかってるんだな?」

友人は、唾を飲み込み尋ねた。

『うん、あのクラスの男子生徒。』

「え!?生徒なのか?

 しかも匠真が頭いいっていうなんて

 よっぽどの子だよな?」

『あのクラスには僕と同じ

  ”ギフテッド” が居る。

 昔の僕にそっくりで、目付きの鋭い・・・』

「成績が良くて、目つきが鋭いって言ったら・・・

 もしかして野口君!?

 たしかに…彼ちょっと変わってるけど・・・

 でもなんで彼が!?」

『この担任から、かなりの身体的暴行を受けている筈だ。』

「体罰?でも成績が悪いわけでもないし、彼は部活にも入ってないし・・・」

『口を挟んで申し訳ないけど、

 ”体罰” という言葉を使うのは止めてほしい。

 君たち教師がよく使う悪い癖だ。

 体罰 は権力をもった人間が、弱い立場の人間への暴行を、

 カモフラージュするために、

 都合よく置き換えられた極めて卑怯な単語だ。

 体罰は、刑法第208条 暴行罪。

 それにより傷害が生じれば刑法第204条 傷害罪。

 犯罪以外の何物でもない。』

「す、すまない・・・。」

『・・・いや、いいんだ。

 力で敵わない者からの暴行が、どれほどの恐怖かは、

 受けた人間にしか分からない。

 体罰や、躾などと称して、それを受け続けてきた僕には、

 到底許すことができない言葉なんでね。

 彼は、野口君というのか・・・。

 野口君を観てみたけど、

 高確率で、クラスにも溶け込めず、陰湿なイジメにもあっている。

 最も憎んでいる担任教師だけをターゲットにすると疑われるから、

 自分をイジメの ”獲物” とした他の生徒にも

 同じように事故や偶然に見せかけて、怪我をさせているんだ。

 彼なりの制裁なんだろうね。』

「そんな!!すぐに、野口君をとめないと!」

『無理だよ。

 彼はそんな静止を受けとめられるギフテッドではないし、

 そうさせたのはこれまで関わった人たちだ。

 問い詰めて、すんなり白状するわけがない。

 用意周到に証拠集めをして、

 絶対に言い逃れができないようにしないと、

 不用意にとめたらお前だって標的になるぞ?

 そんな簡単な相手じゃないんだ!』

「・・・匠真やってくれるのか?」

『彼ほどの能力を持つ人間をとめられる人間は殆どいない。

 なんとかする。

 乗りかかった船だし・・・

 それに、今回は本当に時間がないんだ!』

こうして僕は事件解決に乗り出した。


証拠収集の準備を大急ぎで進めている最中に、

調査を依頼していたネットの賢者から連絡が入った。

野口君が、あの担任を呼び出し、会う約束をしたというのだ。

ほぼ予測どおりの展開。

そしてこのタイミングでしか野口君をとめることはできない。


大急ぎで揃えた証拠を持って、

僕は友人を連れて、その場に立ち会うことにした。

その場所は、、、

夏休みに入った夜の体育館だった。


当日、早めに体育館裏で待ち合せた友人と、

予め用意してもらっていたスペアキーで体育館に入り、

中から鍵をかけ、壇上の袖で待機していた。

やがて、担任教師が鍵を開け、壇上前まで来ると、

月明りと常夜灯だけのまま、灯りを点けずに、

しきりと時計を気にしながら野口君を待ち始めた。

数分後、野口君が現れた。

彼が体育館に入るなり、体育館の空間全ての容積が、

彼の邪気で埋め尽くされた。

僕はむせて咳き込みそうになるのを必死で堪え、

二人が対峙したところで、すかさず僕と友人は壇上に姿を現した。


担任は突然の出来事に驚き、

「なんで君たちが??」

とでも言いたげな顔をしている。

さすがの野口君も、僕たちの登場は想定外だったようで、

(気付かれないように細心の注意をしていたんだから当たり前だが)

折角のチャンスを潰されそうになっていることに、苛立ちはじめている。

『お取り込み中のところ申し訳ないのですが、

 このままですと野口君の人生が台無しになる惨事が起きてしまうので

 仲裁にきました。』

(こっちの問題なんだからほっといてくれ!)

と、野口君の険のある目が語っている。

担任は、

「あの・・・いったいどうして今晩ここで会うことを・・・?

 ・・・野口、君が知らせたのか?」

担任は、引きつった顔をしながら、野口君の顔を見ていた。

そこで僕が口を開いた。

『いいえ、野口君からお訊きしたのではありませんよ。

 野口君が、先生に危害を加えようと企んでいることが観えたので、

 それを止めるために、勝手に参上したんです。』

「私に危害を?」

と、担任は目を見開いた。

僕は続けた。

『先生のその骨折、偶然の事故じゃないんですよ。

 それは、野口君が、巧妙に事故に見せかけたんです。』

野口君は、瞬時に表情に殺気を漂わせ、

「何の証拠があってそんなことを仰ってるんですか?

 階段には何も問題が無かったから、

 今もそうして壇に掛けてあるんでしょうし、

 あの事故があったときは、階段の周りには誰もいなかったんですよ?

 動かすことはできなかったはずです。」

僕は野口君の反応を観ながら、

問題の階段をゆっくり降りつつ話しはじめた。

『君は、体育教師でもある担任の森田先生が、

 体育の授業開始前に、

 この階段を使って壇上に登り、

 壇上から授業開始の挨拶をし、

 挨拶が終わると直ぐにまた、

 階段を使って下りる癖があるのに目をつけたんだね。

画像1


そして階段を登るときは問題が生じないが、

降りるときには、それが滑って外れるような仕掛けをしたんだ。』

ここまで言い終わると同時に僕は階段を降りきって、

そのまま続けた。

『君は本当に頭がいいね、感心したよ。

 ”純氷” を使うなんて・・・』

「・・・純氷?ってなんだ?」

僕に付いて階段を降りてきた友人が、

僕の横から小声で尋ねた。

彼には全く推理を話してなかったので(そんなヒマもなかった)

初めて聞く話に興味津々の様子。

『純氷というのは、不純物を取り除いた 純水 でつくった、

 とても溶けにくく、透明度が高く、何より

 ”硬い” 特性をもつ氷のこと。

 この氷を、階段の脚の下4カ所に置いておけば、

 登るときは、舞台の壁面が“閊(つか)え”となって階段は滑らないが、

 下に降りるときは、それがなくなる。

 だから、足をのせた途端に、階段がツルっと前方に滑って、

 壇上から外れてしまう。

画像2


 野口君の計画通りそれはうまくいき、

 森田先生は落下、そして骨折。

 野口君は、倒れた森田先生に皆の視線が集中する間に、

 素知らぬ顔をして純氷を回収したというわけさ。

 この体育館はエアコン完備だから純氷が短時間で溶けることはないし、

 森田先生の体形から推測される体重からして、

 純氷の硬度であれば、まず割れることはない。

 多少欠けたとしても、

 溶けてしまえばただの水で、乾いてしまえば殆ど形跡は残らない。

 そして何より、自分は離れたところに居て、

 ”何もしていなかった”

 ことを、クラス全員に証人になってもらえるからね。

 

 更に、その後に起こそうとしていた、

 自転車の事件も、金属加工の事件も、

 ”この学校の呪い” といった噂話に転換していく,

 ”キッカケ” にもできる。

 こういった話は、この年頃には昔から受けが良いしね。

 人に危害を加える要素さえなければ、素晴らしい計画だよ。』

森田先生は、骨折した腕を呆然と見つめながら、

これが単なる事故ではなく、

仕組まれたものだったことを知り、青い顔になっていた。

しかし野口君は余裕の表情を浮かべている。

「バカバカしい・・・。

 推理小説じゃあるまいし・・・。

 だいたい何で俺が先生を怪我させなきゃいけないわけ?

 証拠もないのに、憶測で下らないこと言わないでよ!」

余裕?イヤ、傲慢から、敬語を使うことを放棄し始めた。

このあたりはまだ18歳の若さがでている。

つまりは、まだ純粋な心が壊死しきっていない証拠!

望みはある!

『残念ながら、僕は憶測では物事を言わないタチでね。

 階段への傷のつき方、森田先生の骨折の状況からみて、

 このトリックを使った可能性は極めて高く、

 それを決定づける証拠はこれからお見せするよ。』

僕は一枚の写真を取りだし続けた。

『これは、森田先生が骨折をした当日の朝、

 全校朝会をしたときの写真だ。

 卒業アルバム用に、この日撮影されていたそうだ。

 この時も問題の掛け階段はかかっているが、

 階段を壇上に掛ける、柄の部分に傷は見当たらないのが分かる。

 そしてここにもう1枚の写真がある。

 これは全校朝会の直後の1時間目開始直後、

 即ち、森田先生が怪我をされた後に、

 用務員の佐伯さんが、

 「階段を買い替える必要があるかもしれない」と、

 階段の品番を控えるために、

 掛け階段を外して、床で裏返しにして撮った写真だ。』

(なんでそんな写真があるんだ!)

と、野口君の目に微かな狼狽が観てとれた。

『この写真にはしっかり柄の部分に傷があり、

 明らかに脚の四箇所が湿っている。

 全校朝会終了から、1時間目まで僅か20分間に、

 階段に新たな傷がつき、

 脚の四箇所が濡れる理由など、

 森田先生が、

 「足をのせた途端、階段が滑る様に外れた」

 と証言していることを論理的に考察すれば、

 ”氷が仕掛けられていた”

 と考えるのが自然だ。

 当日も前日も、天候は快晴だったし、

 何より、全校朝会で4人の教職員が、

 階段を登り降りしているのに階段は外れていない。

 と、いうことは、

 僅か20分の間に階段の脚は濡れたことになり、

 その間に、体育館に、

 ”最初に入ることができた人間” 

 が、

 "階段を濡らすことができた" 

 ことになる。

 防犯上、体育館を含む全ての教室は、無人になる際に鍵をかけ、

 職員室の担当の先生が保管。

 次に使うクラスの日直が鍵を持ちだすサインをし、

 鍵担当の先生から受け取るルールらしいね?』

友人が隣で頷く。

『この日の日直は、野口君、君だ。

 鍵担当の先生も覚えていたし、サインも君の筆跡と一致する。

 因みに鍵担当の先生は全校朝会の間も含め事件発生まで、

 数人の先生がいる職員室から出ていないのでアリバイがある。

 論理的に考え、犯行が可能なのは、野口君、君だけだ。』

「そ、そんなの、じょ、状況証拠ってのにすぎないじゃん!僕じゃない!」

緊張と動揺で乾ききった喉から発する声は擦れ始めている。

これまでとは一変、語気を強めて力で押し通そうとする心理状態も明白。

『では、これはどう説明するのかな?』

僕は一枚の紙を取り出した。

『これは最寄りの製氷業者さんが、事件当日の朝、

 偽名をつかった君に純氷を売った記録だ。

 業者さんは君のことをちゃんと覚えていて、

 君の写真で確認もとった。

「部活の練習試合で使う」

と説明したそうだけど、

帰宅部の君は、どこの学校となんの試合をしたんだい?』

さすがの野口君も焦りが滲み出て目が泳ぎ始めた。

『君が森田先生だけじゃなくて、他の生徒たちにも

 いろいろ細工をして怪我をさせていたのも分かっている。

 自転車で怪我をした女子生徒の件も、

 学校前の商店の入口に取付けられた防犯カメラをみせてもらったら、

 駐輪場に停めていた彼女の自転車に細工をしている君が映ってたよ。

 駐輪場に防犯カメラはなかったけど、

 ”駐輪場が映る防犯カメラ” までは、確認不足だったね。

 君が陰湿なイジメにあっていて、

 その報復にこれらを仕組んでいたことも分かった。

 そして・・・

 今日、君が森田先生を殺害し、

 これまでの森田先生とのやり取りの録音や映像のデータを、

 マスコミ各社、教育委員会に送信した後で、

 自分も死のうとしていたのも知ってるよ。』

僕がこう話すうちに、野口君の顔は怒りでみるみる赤くそまっていった。

友人と森田先生は、野口君が自殺も考えていたことを耳にした瞬間、

口を半開きにし、呆然とし身体を硬直させはじめたが、

両足だけはガクガクと震えている。


「うるさいっ!!!

 もう黙れ!お前に俺のナニがわかるってんだっ!!!」

心の内のリアルを、細く小さな身体全体のエネルギーを使い、

”叫び” に変換する野口君。

『確かにナニも分かっていないのかもしれない。

 だけど、何をされてきたか?

 なぜ君がそこまで追いつめられたのか?は知ってるよ。』

僕は視線を野口君から、森田先生に移しはじめた。

そのとき、

僕は 純粋な少年 を見つめる目 から、

汚く、ドス黒いモノ を見る目 に変化させた。

これは ”あえて” である。

『ね、森田先生。

 あなたがこの一連の事件を彼に起こさせた張本人ですよね?

 あっ、言い訳はやめてください。

 調べはついています。

 僕にはネット業界では神様と呼ばれている人がついていましてね、

 森田先生の性癖など、色々と調べさせてもらいました。』

森田先生は恐怖のあまり、足元の床の一点をただ見つめ、

両足だけでなく身体全体が小刻みに震えだした。

『森田先生、

 あなたは同性愛者で、しかも少年専門。

 野口君は、好みのストライクゾーンですよね。

 否定しても無駄ですよ。

 あなたが閲覧したり、隠し撮りしてた写真などは

 チェック済みですから・・・』

森田先生がこの追い込みにショックを隠せず、

震えの幅が拡大していったのは言うまでもないが、

一番驚いていたのは友人だった。

森田先生の ”正体” には全く気づいていなかったらしい。

『森田先生・・・

 あなたは教師の立場を利用して

 野口君に交際を強要しようとした。

 でも、野口君は拒み、このことを暴露すると脅した。

 だが、あなたは、いかに生徒の立場が無力であるかを、

 体力のない野口君に、暴力で知らしめ脅しで抑え込んだ。

 それでも思い通りにならない野口君に苛立ち、

 陰湿な暴力をしつこく続けていましたね。

 野口君の心と身体がどれだけズタズタになったかわかりますか?

 誰も守ってくれないと悟った野口君は、

 自分であなたを消す準備を始めたのです。

 そうだね、野口君?』

野口君は、俯き口を尖らせているが、目尻に微かに光るものがみえる。

『まあ、これだけの証拠がありますから

 学校に提出すれば、森田先生が教員でいられなくなるのは必至ですね。

 教育委員会で取り上げてもらいましょう。』

「そ、それだけは勘弁してください。

 本当に申し訳ないことをした。

 野口、いや野口君、この通りだ。」

森田先生は急に土下座を始めたが

野口君はそっぽを向き、無反応を貫く姿勢をとっている。

突然友人が、土下座をしている森田先生に歩み寄り、

腰を屈めて森田先生の胸倉を掴むと、

右拳を森田先生の左頬に打ち付けた。

肉体の反射で涙が滲む森田先生同様に、

友人の目にも涙が浮かんでいたが、

2人の涙は、まったく異質の涙だ。

野口君は友人の行為にはまったく動じず、

あともう少しで自分の計画がうまくいきそうだったのに、

それを邪魔されたことに、ただただ酷く不機嫌になっていた。

しかし、彼のもう一つの純粋な人格が、

彼の中で ”まだ生きている”  ことを、

彼の頬を伝う涙が証明していた。


何とも言えない静寂を僕は破ることにした。

『謝って済むなら警察は要りませんよ。森田先生。

 あなたは野口君の類稀な才能を黒く染めてしまったのだから・・・

 あなたのような人を教師にしておいたら今後何が起きるかわからない。

 すぐに辞表を提出して、教師をお辞めになってください。

 あなたの情報は全部ネットの賢者が握っていますから、

 もし、また教職に戻ったり

 教育の現場に関わっていることがわかったら、

 すべてを表に出します。

 それによって起こるコトを、よく考え、

 十字架を背負って生きていってください。』

森田先生は、こちらが提示した弁護士作成の書類にサインをし、

野口君のしたことの責任は問わず、また口外しないという示談にも応じた。

野口君はもう帰りたそうな顔をしていたが、

酌量の余地があるとはいえ、

このまま彼を野放しにする訳にもいかない。

『野口君、君は素晴らしい才能があるのに、

 それをこんなコトに使うなんてもってのほかだよ。

 もったいない。』

野口君はつまらなそうな表情で、

「せっかくいいチャンスだったのに、余計なことして・・・

 俺は示談なんか望んでなかったよ。

 ただコイツと自分の存在を消したかっただけなのに・・・。」

『気持はよく分かるよ。

 だけどそんな終わり方を選択して何になる?

 君の人生は、もっとその才能を生かして、有意義に使うべきだ。

 君ほどの頭脳で、この意味がわからないわけがない。

 君は、他の子とは違う。ギフテッドなんだよ。

 知ってたかい?』

「・・・ギフテッド?」

『そう、他の人にはない特出した能力を持っている人のことだよ。

 僕は自分がギフテッドだから、君のことが分かるんだ。

 平均に比べてかなりIQが高い。

 それに僕同様に、未来予測の目も持ってるし、

 磨けば僕以上にその目は先の未来を映し出せる筈だ。

 そんな恵まれたものを持っているのに、

 犯罪なんかに手を染めたらいけない。

 もっと自分の人生を楽しむために使わないと・・・。』

半信半疑だが、興味が勝ってき始めている表情の彼に僕は続けた。

『君の場合は学校の勉強なんか無理にしなくていい。

 この間の講演会のときも少し話したけど、

 社会に出て具体的に役立つ知識なんて殆どないんだから。

 君が、 オモシロイ と思ったことを、

 とことん突き詰めてみたらいい。

 他の人とはぜんぜん違う人生になると思うけど

 そんなこと、気にすることはない。

 他の人と同じようにする必要なんか全然ないんだ。

 君らしく生きてごらん。』

鋭い目つきは相変わらずだったが、

憎しみや怒り、諦めといった、尋常ではない負のエネルギーは下降し、

まだ18歳のあどけなさからくる、好奇心が滲み出ていた。

彼の属性上、素直にはなりきれないようだったが

とりあえず、自殺はもう考えない、

クラスメイトへの嫌がらせで憂さ晴らしをするのはもうやめる、

もっと生産性のあることをやると約束してくれた。

後日談だが、イジメを受けた腹いせに、
怪我をさせた他の生徒たちとは、友人主導で和解となったそうだ。


色んな人を観てきたけれど、

野口君のようなギフテッドには、なかなかお目にかかれるものではない。

ただ、僕が小さい頃から経済的成功にフォーカスして

能力を酷使してきたのとは違い、

彼の場合は能力を持て余していて、

何に向けたらいいのかわかっていなのかったのは明らかだ。

「学校で学ばなければ・・・どこかに我慢して属さなければいけない・・・」

といった呪縛から解き放たれれば、

きっと彼に合った素晴らしいナニかに巡り会えるだろう。


別れ際、

『またいつか会おう』

と、彼の背中にぶつけたが、

横顔を見せ頷いたきり、

現在に至るまで、まだ彼とは再会できていない・・・。



僕はいつも思う。

世に表面化している事件などは氷山の一角でしかない。

道行く人を見ていても、

・強い殺意をもっている子供

・強力な社会の闇に脅されている人

・DVで支配されている女性

・親に雁字搦めにされ、いずれ事件を起こす時限爆弾を抱える中学生

・・・

こういった人たちと毎日すれ違うということは、

起きている事、目に見えている事、耳にする事、

これらはほんの断片にしか過ぎないコトを意味している。

観える僕は、それを炙り出し、未然に防いだり、人を守ったりすることを

仕事にしているが、世の中全体のほんの一部にしか関われない。

この苦しみからは一生逃れられないが、

逃げずにきたことで、感謝をされたり、必要とされる喜びを知り、

そして、自分のことを、生涯で最も認めてくれる師にも出逢えた。 

野口君にもそんな未来が訪れることを切に願う。

当然ながら、この事件簿の登場人物の名は替えているが、

彼がこれを見れば、自分のことだと気づくはずだ。

いつでも待っているよ。

The End.

Special Thanks: T.A  A.S

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IQ181のギフテッド 生まれもった写真記憶で10万人超の生涯を記憶。統計学、心理学、占星術、観相学等も記憶しそれを元に確実性を極限に高めた鑑定料1分1万円の占いや各能力の数値化を提供。 コンサルタントとしての生涯利益29.2億円←更新中起業からのノウハウをTwitterで公開