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佐藤先生に教わったこと-#01

このnoteは、星功基が2003年〜2007年に慶應義塾大学佐藤雅彦研究室に在籍していたころに佐藤先生に教わったことを思い出しながら書いているものです。

【目が離せなくなる。現場のもうワンテイク。】

小泉今日子さんが、
「チャチャチャチャンチャチャチャンチャチャチャーン、チャチャチャチャンチャチャチャンチャチャチャーン、ホー、ヤッホー、ホー、ヤッホー」と歌いながら、スキーの振り付けダンスをするJR SKIのCM撮影の現場にて。

入念に準備をしてくる小泉今日子さん。
歌も振り付けも完璧で、撮影も滞りなく終わり、
現場スタッフ一同、あー、よかったよかった、スムーズに終わりましたね! さあ、撤収!撤収!
という空気になって、クライアントも笑顔満面、みんなが動き出そうとしているとき。
確認用のビジョンの前で、一人ディレクターズチェアに座り、微動だにしない佐藤先生。

「あれ、佐藤さん、どうしたんですか?」

ディレクターに声をかけられる。

そのとき、さっと右手をあげて。
「みなさん、ちょっと待ってください。今の、普通じゃなかったですか?」
「え!?」
「いや、踊りも完璧、コンテ通り、いやそれ以上のいい絵でしたよ!」
「いえ、完璧は完璧なんですが、完成されすぎていて、目がいかないんです。」
「はあ。。」
「すみません、もうワンテイク撮ります。」
「小泉さん、みなさん、今の歌、振り付けを、2倍の速度でやってください。」

現場がざわつく。

そんな中、小泉さんは、即座にはい!と練習に入ろうとする。
「いや、練習はいりません。本番一発テイクです。」
「え!。。わかりました!」

そして、最後のワンテイク。
「チャチャチャチャンチャチャチャンチャチャチャーン、チャチャチャチャンチャチャチャンチャチャチャーン、ホー、ヤッホー、ホー、ヤッホー」
見事に2倍の速度で展開される。

今までの慣れ親しんだ速度から急に速度があがったので、若干のつたなさと一生懸命さが画面から伝わる。
テンポもあがって耳にも心地いい。
「OKです!」


編集工程にて。
2倍の
「チャチャチャチャンチャチャチャンチャチャチャーン」
をCMの最後にいれこむ。
そのとき、周辺のスタッフにこう説明する佐藤先生。
「視聴者は、画面の中に、危なっかしいな、一生懸命だな、大丈夫かな、という要素があるとき、目が離せなくなります。
 完成された踊りはそれはそれで素晴らしいですが、この2倍の、しかも本番一発テイクの映像が入ることで、
 グッとこのCMはよくなります。逆にないとダメですよね。あのとき、あの現場で、もうワンテイク撮ってよかった。」


「段取りよくつくられた完成された現場でも、最後は視聴者の目にならないと。流されず粘らないとダメです。」
研究室で、身振り手振りを交えながら、僕らに話してくれました。

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