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「images sans nom-名前のない風景」 セルフライナーノーツ

みなさまこんにちは。

さて、12月15日にリリースしたニューアルバムの収録曲全曲の解説を公開します。
読んでから聴くか、聴いてから読むか、いずれにしても、記したことはあくまで作者の創作に向かうきっかけや過程に過ぎないので、あとは聴かれる皆さんの想像で楽しんでいただければ幸いです。

01/ Prélude – 前奏曲
 「鳥のさえずりを合図に、静かに朝がやってくる。」
ショパンの8小節のプレリュードを念頭においた、短いプロローグ的なナンバー。
 鳥のさえずりのエフェクトは、2018年11月頃に法然院の境内にて録音したものです。
 ちなみに、今回のアルバムではさまざまな音をフィールド録音しているのですが、iPhoneとShureのコンデンスマイクを組み合わせて使用しています。

02/ La boîte à jouets – おもちゃ箱
 下降形の4度進行を組み合わせた、ケルト音楽の要素を含めた曲調の楽曲です。
 この曲では、こどもの喃語をサンプリングしたものを素材として用いています。特に意味をなさない言葉の羅列なのだが、流し聞きすると、どこか他の国の言葉のように聞こえなくもないと思うのですが、どうでしょう。
前の作品集を踏まえて、このアルバムを聴かれた方からすると、すこし意外に思われたかもしれません。ピアノ以外はほぼ打ち込みで制作しているのですが、よく聴くと、リズムを補完する役割として、ノートパソコンのタイピング音や、鳩時計、ストローで水をぶくぶくする音や手拍子をサンプリングして重ね録りした音たちが聞こえてきます。まさに「おもちゃ箱」のように、いろいろな素材が詰まった楽曲です。

03/ Marche de Kokeshi – こけしの行進
アルバムの中では数少ない、明確なイメージのもとに作曲した楽曲です。妻が収集しており、私自身も好きな「こけし」をテーマにした曲を作りたいと思っていて、なにかいい素材はないものかと探していたところ、過去に作りかけて置いていたテーマのメロディのメモの中から、これはいいかもしれないと思い、音源化するにあたって今回改めて書き下ろしたものです。
テーマのメロディが少しトリッキーなコード進行で、中間部もすこし変わった転調のし方をするのですが、全体的には、少しジャズに寄せた雰囲気の曲に仕上げています。

04/ Londonderry Air – ロンドンデリーの歌
 今回初めて収録したカヴァー曲です。
 オリジナル曲ばかりを作っているので、1曲くらいはなにか耳なじみのある曲を収録してみようか、と思い、選曲して録音しました。
 この曲は、ライブなどでもよく弾いていたので、音源化するにあたって改めて編曲し、楽譜に起こしました。素朴なメロディを活かしたいと思い、あえてメロディ1本のみで始まる構成としました(ので、録音の際随分苦労しました・・・)。

05/ Monochrome - モノクロームの旋律
 とても短い曲です。「モノクロ」というタイトルのように、色彩のない、明るくも暗くもない、まったくフラットな状態を音で表現したいと考えて、作ったものです。
 どのような方法がいいのだろうか、と考える中で、短い単旋律のみで、あえて長短の調性がない教会旋法を用いることとしました。
 水を打つように静まり返った空間をじっとみつめているようなイメージで弾いてみました。

06/ Natsu no zanzou – 夏の残像
 打ち込みを用いたスタイルで、終わりゆく夏の陽炎の向こうに懐かしい風景が見えるようなイメージを持ちながら制作しました。モザイク的に、京都各所で採録した夏の音を織りまぜています。中間部のミニマル的なアプローチは、初期の久石譲さんの音楽にありそうななさそうなイメージですがいかがでしょうか(笑)。
なんとなくぼやけた様子、すでにそこにはないものの中に残った音や匂い、色彩の様子をみごとに言い表している「残像」という言葉の存在がとても好きで、曲が完成してタイトルを決める際も、わりとすんなりとこの言葉が頭に浮かんだのを思い出します。
ちなみに、「残像」にあたるフランス語訳が見当たらず、最終的に、語感そのもののニュアンスも含んでいる日本語の表記をそのままタイトルとして採用しました。

07/ Valse abstraite - 抽象的なワルツ
 すでにYouTubeで公開していた楽曲を、アルバム収録に際して推敲しなおしたものです。
 今回のアルバムでは、アンビエントなサウンドの曲を1曲は含めたいと思っていました。逆回転と正回転を組み合わせた時に浮かんでくる音像のゆがみが面白いと思い、今回制作に取り入れてみました。ちなみに逆回転している曲は、やはりこのアルバムに収録している「Gaspard」という曲になります。
 この曲を逆回転させたものが楽曲全体の背骨になっているのですが、当初できた音源をある友人が聴いたときにもらった感想が、「ワルツを踊っているような風景がみえる」というものでした。
 それを聞き、逆回転にして、楽曲の構造がまったくねじれたものになってしまっても、リズムやビートといったものは残るものなのか、と膝を打ち、タイトルも変更することとしました。
 ちなみに、息子が0歳8か月ごろに楽器を適当に鳴らして遊んでいた様子を採録したものを使用しています。「不規則なものどうしをぶつける中から見えてくる調和」という裏の意味も込めています。

08/ Nostalgie – 望郷
 すこしきわどい曲を入れたので、その後には落ち着いた曲を、という思いからこの曲をここへ配置しています。
 個人的に好きで敬愛するピアニストのおひとりである、フェビアン・レザ・パネさんの楽曲をイメージしながら作曲したものです。パネさんのピアノは、紡ぎだす音から匂いや温度感、色彩があふれ出てくるようで、とても魅力的なのです。到底届きそうにない自分自身の目標であり、憧れでもあります。そんなパネさんへの思いも込めながら作った曲です。メロディアスなテーマをモチーフにして、何度も転調を繰り返しながら反復されていくのが特徴です。

09/ Feuilles mortes – 枯れ葉
 メロディを持たない、アルペジオの音型のみで構成された楽曲です。
作曲を進める際に、ピアノをなんとなく触りながら思いついたフレーズを頼りに、繋いでいったというような記憶があります。当初は「Prélude」が仮タイトルで、この曲を冒頭に持ってくるつもりでいたのですが、後でタイトルを「枯れ葉」に変えました。起伏はないのですが、静かな熱を孕んだような、そんな雰囲気の音楽です。

10/ Gaspard – ガスパール
 「Valse abstraite」で逆回転にして用いるために作曲した曲です。エリック・サティの「ジムノペディ」を彷彿させるような、緩やかな3拍子の楽曲です。タイトルには深い意味合いはなく、楽曲のイメージからタイトルを充てています。
 ちなみにGaspardとは、キリスト教の新約聖書に出てくる、「東方の3博士」のひとり、カスパールに由来していて、将来の受難である死の象徴のこと。曲の持つ、どことなく虚無感ただよう雰囲気からインスピレーションを受けてこのタイトルを選びました。

11/ Saison des pluies – 雨の日
 好きな作曲家である、フォーレやショパン、プーランクのような雰囲気を持つピアノ小品をつくりたいと思い立ち、作曲したものです。作曲のきっかけとなったのは、フォーレのノクターン第2番。あの曲の冒頭のような静寂で繊細なメロディからインスパイアされて書き進めていきました。調性もノクターン第2番と同じく、ロ長調としています。
 タイトルは最終的に「雨の日」としていますが、どちらかというと、しとしとと長く降り続く梅雨や秋の長雨のようなイメージで名付けています。

12/ Esprit de lumiére – 光の使者
 2016年に宮崎県の南部、日南半島を旅した際に、市木という場所にある宿に立ち寄りました。「芋を洗うサル」で名の知れた幸島がある場所なのですが、豊かな自然が残っていて、大変好きな場所でその後も何度か訪ねたことがあります。その市木にある、人っ気もほとんどない広い海岸で、2017年の夏の朝に採録した音をモチーフに、即興的に音を重ね録りしながら構成していった楽曲です。繰り返されるピアノのアルペジオの音型にのせて、管楽器のロングトーンが彩りを添えながら徐々に盛り上がっていきます。
 曲中で息子の産声や笑い声を後から挿入していますが、最初から意図していたわけではなく、制作の過程で思いついたものです。タイトルも、最終的に出来上がった段階で名付けたもの。
 この曲を含めて、すべての曲に言えることでもありますが、図らずも、作った当時の自身のかけがえのない日常や思いそのものが無意識的に表現に向かわせていたのかな、と、出来上がってみてから改めて考えています。

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