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噂の拡散は(感染症よりも)核分裂モデルに近い

噂による情報拡散は、SNSの普及もあって良い面・悪い面それぞれの顔があります。

今のように、地震の感度が高いときには悪い面が顔を出します。たとえ驚くニュースをSNSで見ても、安易にシェアするのは危険ですね。

特に、AIによる画像・動画加工がしやすい時代においては、個人がその真贋を見極めるのはもはや不可能といってよいかもしれません。

突然ですが、物理学者は物事を単純化した「モデル」を通じて研究を行うことがよくあります。(他の基礎研究も同じだと思いますが)

つい最近、とある物理学者が、SNS拡散が「核分裂」と似ているという研究を発表しました。タイムリーなので紹介したいと思います。

従来より、SNSの拡散は「バイラル(viral)」というウイルス感染に例えた用語がありました。バイラルマーケティングというビジネス手法も存在していたぐらい一世を風靡しました。

ところが、感染モデル(古くは1960年代から考案)では、SNSの拡散をうまく説明することが難しいということが分かり、今回採用したのが「核分裂」モデルです。

いきなり非日常的でぎょっとするモデルですね。

まずは核分裂の基本情報です。こちらのサイトを参考にしました。動画で見るともっとわかりやすいかもしれません。

まず、核分裂しやすい元素として「ウラン」が知られています。

そのウラン(分裂しやすい235と分裂しにくい238があります)に中性子をぶつけると、不安定な原子核が2つに分裂し、その過程で中性子が放出されます。
そしてそれがまた別のウランに衝突して新たな核分裂反応を誘発します。

上記記事内の図

この分裂時に生じる膨大な熱エネルギーが原子力の源です。

これを噂の拡散に当てはまると、中性子が「噂」で、それを広める人がウランの原子核です。

これだけ書くと、従来の感染症モデルと同じに見えますが、違いは「拡散するヒトの利害を考慮するかどうか」です。

感染症は、地震が感染菌に罹ったことをしらずに他の人に移してしまう、「受動的」なモデルです。

一方で、原子核モデルでは、分裂して中性子を放出するときになにがしかの閾値(能動伝播閾値)が存在します。つまり、噂の拡散者自身がなにがしかの意志(というか利害)を持って能動的にその噂を発信します。

以下に、もう少し細かい類似対応を載せておきます。

中性子→噂
235U →噂を直接転送する個人
238U →噂を何度も受け取り、それを転送する個人
表面エネルギー →噂の伝播を止めることの影響、例えば評判
クーロンエネルギー(化学)→ 噂の伝播の影響を高める(例:関心価値)
放出されたエネルギー→読む、いいねする、コメントするなどの行動による社会的影響

https://pubs.aip.org/aip/adv/article/14/7/075326/3304858/A-rumor-propagation-model-based-on-nuclear-fission

結果として、現実社会の噂が広まる動きと(過去の感染症モデルよりも)近い動きを示しました。

どちらにしても怖いシミュレーションです。

特に今のようにピリピリした南海トラフ監視強化期間においては、たとえその情報が正しそうに見えても、良かれと思ってSNSで拡散する行為はやめようと思います。


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