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娑婆で生きること

「#社会人1年目の私へ」投稿コンテスト応募作品です。

今回はイラストエッセイにチャレンジしてみました。ところどころにイラストを部分ごとに載せていき、最後にどどん!と全体を載せるような構成にしています。

イラストだけ気になる方、いろいろすっ飛ばしても構いません。一気に下までスクロールしちゃいましょう。そして、最後に見た絵がなんとなくいい感じに見えたら、ついでに文章も読んでいって下さい。

 イラストにもしっくり来なかった方。全然構いません。この記事に反応してくれたあなたの心に、私が「スキ」を送ります。

 では、そろそろ始めます。
みなさんスクロールの準備を!!


社会人1年目の私へ


社会人2年目に突入したばかりの私は、3歩前くらいの自分に宛てて、この手紙を書くことになる。

ほとんど今の自分じゃないかとギリギリまで書くのを諦めていたけど、最近、とある映画を観て一つ気づいたことがあるから、それについて書こうと思う。

数ヶ月前の私にこの言葉が響くかどうかは分からないけど、言わないよりはマシだと思うからとりあえず言っておきたいし、言うからには声を大にして伝えたい。

それに、予想していないことだと思うけど、今の私は絵も描いている。吐きそうなくらいに色を使い、目が疲れてしまうほどに派手やかな抽象画だ。あなたの押さえ込んでいた心は、今、ものすごい勢いで爆発している。

技術的にはまだまだ劣るけど、それでも見た人の心をがっちり捉えてしまうような、そんな絵を目指している。

あなたにもこんなのが描けるのだと分かってほしいから、ところどころに散りばめておくことにする。喉が乾きそうになるくらいに熱い、私の大傑作をね。

めまぐるしい忙しさと不安の中にいるあなたは、私の言葉にイライラするかもしれない。

だけど、私だって散々考えてこの手紙を書いたわけだから、とりあえず今この瞬間だけは、耳かっぽじってよく聞いとけ。


私は数日前に「クワイエットルームにようこそ」という映画を観た。そう、あなたがずっと気になっていた映画だ。

精神科病棟で繰り広げられる、女性たちの「自分との戦い」の物語。とても観たいと思っているけど、変に影響を受けてしまうことを恐れ、観るのを躊躇っている。きっとそういう状況だね。

結論から言っておくと、あの映画はとてもよかった。

それに、切羽詰まったあなたが観ても、そんなにマイナスな影響を受けることもないと思うから、観たいと思っているのであれば安心して観てほしい。



私があなたに伝えたいのは、この映画が面白いということでは勿論ない。この映画の中で拾った「娑婆(しゃば)」という言葉についてだ。

収容期間を終え、刑務所から出てきた人間が「あ〜娑婆の空気はうめぇな〜」みたいなことを言ってるのを、映画などで見たことがあるんじゃないだろうか。まさに、その「娑婆」だ。

『娑婆(しゃば)』

 1.仏語。釈迦が衆生を救い強化する、この世界。煩悩や苦しみの多いこの世。現世。娑婆世界。

2.刑務所、兵営などにいる人たちが、外の自由な世界をさしていう語。「娑婆の空気」「娑婆に出る」

 出典:デジタル大辞泉(小学館)


映画の中で、この「娑婆」という言葉を使っている人物がいた。主人公の明日香と同室になった「栗田さん」と呼ばれる女性だ。

摂食障害、依存症など、精神的な面で様々な問題を抱える女性が集う中、彼女だけはとてもまともな人だった。けれど彼女は、病棟の外の世界のことを「娑婆」と呼んで、少し恐れているようだった。

「娑婆で生きるとはそういうことよ」

明日香に向けて放ったこのセリフが、今でも忘れられない。

結局栗田さんは、明日香よりも早く退院することができた。しかし、いよいよ明日香が退院するというタイミングで、なんと彼女は救急車に運ばれて病院に戻ってくるのだ。

「娑婆で生きるとはそういうことよ」

担架で運ばれていく彼女の姿を見て、思わず鳥肌が立った。そして、その衝撃がある大切な事実を私に教えてくれたのだ。



あなたは今、楽園を望んで仕事を辞めようとしてないだろうか。

この窮屈な環境から抜け出せば天国みたいな世界に行けると、根拠もなく信じてはいないだろうか。

厳しいことを言うようだけど、生きてる限りあなたは天国にはいけない

映画に出てきた栗田さんの言う通り、この世界にはどこまでも「娑婆」が広がっている。

どこに行こうが人はいるし、どんなに環境を変えたって「自分」という器は変わらない。


あなたには美人の双子の妹がいて、それに敵わない自分の顔立ちに苦しんでいるかもしれないけど、どんなに足掻いたって、あなたは一生その醜い仮面を被って生きていくしかない。


あなたを厳しく躾け、過去も未来も全てを決めようとしていた両親を、あなたはいまだに許していないかもしれないけど、あなたの親は一生あいつらで、血の繋がりを切ることなんて絶対にできない。


祖母は意地悪な姑で、祖父は自分を曲げない頑固者。2人のそういうところをあなたは死ぬほど嫌いだと思っているかもしれないけど、あいつらがこの世を去ったとしても、あなたの祖父母は永遠に彼らだ。


年金はどんどん高くなって、少子高齢化、地方過疎化、地球温暖化など、様々な社会問題が私たちに牙を向けている。あなたが生きている限り、それらがとうとう噛み付いてくる日は絶対に訪れる。どんなに走ろうと、そこから逃げることはできないよ。


仕事を辞めたって、これだけのものが一生あなたにまとわりついてくる。だから、天国なんて幻想だということを私は言いたい。

楽園みたいな生活なんて永遠に来ない。幸せになれる保証もない。

なぜならここは「娑婆」だから。

大事なことだからもう一度言っておく。ここは天国でも地獄でもない「娑婆」。苦しいのが当たり前で、どんなに泣こうが苦しがろうが、あなたはこのフィールドで一生を過ごさなければならない。



絶望させるようなことを言って申し訳ない。けれど、私はあなたに絶望してほしいから、この手紙を書いたんじゃない。

もう一回言います。

ここは「娑婆」。苦しいのが当たり前の世界。

それはつまり、苦しみを「感じてもいい」世界だということではないのだろうか。

私たちが立っているこのフィールドでは、苦しんでもいいし、悲しんでもいいし、逃げてもいいし、失敗して、転んで、足をくじいて、骨を折っても構わない。

それだけのことを何百回も犯したって、生きることを許されている世界。

それが「娑婆」。それは大きな「自由」だ。



___あなたは上司に毎日のように文句を言われて、夜も眠れなくなっている。

いいじゃんそれで。

文句を言われて眠れなくなって、とことん苦しめばいい。散々苦しんで「参った!」と思ったら、思い切って辞めてみて、次に進めばいいだけだ。

なにせここは「娑婆」なんだから、そんな一回程度の転職はかすり傷のようなものじゃないか。



___双子の妹よりも自分の顔は醜い。

いいじゃんそれで。

その器で生きていけばいいじゃないか。どんなにあなたが醜くても「娑婆」はあなたを許してくれる。その姿で縮こまって歩こうが、堂々と歩こうが、気にせず明日を与えてくれる。

それに、あなたには「世界で一番可愛い」と言ってくれるパートナーがいるじゃないか。その言葉に一生騙され続けることなんて、あなたが毎日繰り返している愛想笑いよりも簡単だ。



___あなたをずっと縛り続ける両親がいる。

いいじゃんそれで。

縛られて苦しみなよ。たくさん苦しんで、縛られるのはこんなにも苦しいのかと腹一杯味わったらいい。そして、そんな苦しみを他の人に味わって欲しくないとあなたが願うのであれば、そこから自分のできることを考えればいい。

もし耐えられなくなったら逃げればいい。どこまでも逃げて、遠くで子供を産んで育てて、ようやく親の気持ちが分かったら、いそいそと帰って謝ればいい。

山あり谷ありでいい。なにせここは「娑婆」だから。



___祖母が母に嫌がらせをする。祖父が頑固で面倒くさい。

いいじゃんそれで。

どんと受け入れてやればいい。母の愚痴を聞いてやりながら、祖父母にイライラすればいい。たくさんイライラして、イライラするのに飽きてきた頃に祖父母が死んだら、三日三晩泣いてやればいい。

散り散りになった「家族」の形を、修復できてもできなくても一向に構わない。ただ、あなたが取り戻したいと願うのであれば、そのための努力を積み重ねればいい。



 ___地元が嫌いだ。

いいじゃんそれで。

ずっと嫌いでいればいい。公務員か農家にならなければ一向に職なんて見つからないこの田舎町を、ギラギラと睨みつけながら、あなたはここでアーティストを続ければいい。

お金に困ったら働いて、貯金が貯まればもう一度チャレンジすればいい。嫌になったら逃げてみて、向いてないと思ったら違うことを始めてみてもいい。

変な噂を立てられたって知ったこっちゃない。何度も何度も打ち砕かれて、その度に何かを拾っていけばいいじゃないか。

なにせここは「娑婆」なんだ。町の1つや2つなんて吹っ飛ばすくらいに、自分の世界をぶつけてみろよ。



___たくさんの社会問題に世界は食われていく。

いいじゃんそれで。

片腕でも生きてみろよ。食い尽くされて、失ったものを惜しく思うのではなく、残されたもの、場所、人でどう生きていくかを考えてみろよ。

子供を産みたいと思うなら、子供の未来を残していけよ。あなたの手の平はまだつるつるだ。たくさんの土を耕して、そこに種をまいていけよ。




足元を見てほしい。

あなたは今、「娑婆」という大きな鳥の上に乗っている。その鳥は人々の怒りや、苦しみや、喜びや、涙を含んで、虹色に輝いているはずだ。

あなたが生きている限り、その鳥から降りることは絶対にできないけど、その鳥に乗っている間、あなたはずっと「自由」だ。

転んでも、泣いても、怒っても、裏切っても、憎んでも、悲しんでも、笑っても、走っても、飛んでも、横になっても、立ち止まっても、悔しがっても、黄昏ても、嬉しがっても、間違えても、感謝しても、謝っても、後悔しても、希望を抱いても、愛しても___

その鳥が背中からあなたを落とすことは、絶対にない。


やりたい放題やればいい。たくさんの感情をヨボヨボになるまで吸収して、ようやく体が虹色に染まってきたら、鳥から抜け落ちた一本の羽として、ふわりと落ちていけばいい。

そしたら私はあなたに拍手を送る。誰よりも大きな音を出して、その美しい羽になった自分に、永遠に拍手を送り続ける。


そうやってあなたは生きていけばいい。

大きな鳥の上で、自分の全ての感情を受け入れて、泣きながら、叫びながら、どんどん体を染めていけばいい。

虹色に染まったあなたの体は、とてもきれいなはずだ。

「娑婆で生きてきました。」

死ぬ前に言ってみろ。

めちゃくちゃかっこいいじゃないか。


仕事を辞めても辞めなくても私は一向に構わないけど、それだけは胸のうちに秘めて、堂々と生きていってほしい。

ちなみに今の私は仕事を辞めてしまっているけど、あれだけ周囲に隠してきた愛しい文学の世界を気の向くままに発信できている。

やっぱり家族には未だに認められていないし、好きなものを買えるお金もほとんどないけど、大きな器で受け止めてくれる優しい人々に囲まれて、調子をこきそうなくらいに幸せだ。

このまま行ったら必ずずっこけると思う。なぜならここは「娑婆」だから。そう簡単には行かないよ。

でも、それでも構わない。ずっこけて当然。そこで泣きながら反省して、また明日へ向かうつもりだ。


あなたがそのまま仕事を続けたら、また違った未来が広がっているかもしれない。辞めてしまった私にはもう歩めない道だけど、もし仕事を続けるなら、パラレルワールドで頼もしく生きていってほしい。

「娑婆」で生きていこう。

一緒に「娑婆」で生きていこう。



でも、ほんの少しだけあなたに守ってほしいことがある。

それは、鳥の上から誰かを突き落とさないこと。そして、自ら落ちていかないこと。

あと、風で吹き飛ばされないように、自転車に乗る時はしっかりヘルメットを被って、車を運転する時はシートベルトを着用すること。

気を失って落ちないように、毎日最低6時間は睡眠をとり、健康的な食事を心がけ、愛犬まめちゃんの散歩を忘れないこと。

落ちそうになっている人がいたら、何も言わずに抱きしめてあげること。

自分が落ちそうになったら、声をあげて助けを呼ぶこと。

どんなに腹が立っても、忙しい仕事をしているパートナーに心の中でちゃんと謝ること。そして、ひっそりと感謝をしながらふくらはぎをマッサージしてあげること。



 以上、よろしく頼みます。

大丈夫、人生はあなたの味方だ。


あなたの一番のファン Kojiより


娑婆鳥』 Koji  2019.6.2


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コメント11件

神谷さん

その「押しすぎない程度」ってところが、とんでもなく大好きです神谷さん……。
お言葉に甘え続けます(笑)
あれだけ好きの理由を言うと決めていたのに、これだけは、直感で好きだという感情に取り憑かれたと言うしかありません。
語り尽くせないほどの感動と衝撃と覚悟を感じました。
「娑婆という鳥」という表現、そして、力強くて美しい鳥の絵がもう何も言えなくさせます。
世の中の理不尽さに苦しんで、もがいてきた昔のわたしにこのお話を読ませてあげたいです。いや、今の私にとってもすごく力をもらいました。さすがです!
moonさん

コメントを下さったこと、そしてmoonさんの「好き綴り」マガジンに追加して頂けたこと、本当に嬉しいです!

やっぱりmoonさんに好きと言われると、叫びたいほどに高まります!!この気持ち大切にしますね☺️

今までたくさんのことから私は逃げてきました。だから、今でも逃げる能力だけは誰よりも長けている自信があります。
けれど、それがあったからこの「娑婆」という鳥を見つけられた。だから、昔のmoonさんもきっともがいてて正解なんです👍

これから一緒にいろんなものを見つけていきましょう!
過去記事にごめんなさい、コジさん。はるさんの記事から飛んできました。
なんて言ったらいいんだろう、これは6月の頃のコジさんが、過去のコジさんに向けて書いたお手紙のはずなのに、わたしが励まされた気がします。ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、とか。いいんだよそれでってことを、背中を撫でてもらったような気がしてます。ありがとう、コジさん。あなたがこのnoteの街にいてくれて、本当に良かったです。「祈り」はわたしの宝物で、お守りです。それを生み出してくれたコジさんは、わたしにとってとても素晴らしい人で、言葉では言い尽くせないくらいの感謝でいっぱいです。これからもコジさんに優しさが沢山降り注ぎますように。コジさんが苦しい時は何もできないかもしれないけど、話を聞いて一緒に泣けるわたしで在りたいです。すぐに会えるっていう距離じゃなくても、手を繋いでいる気持ちでずっもいます。いつもありがとうございます!
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