見出し画像

年下の冷たい肩


「かわいい」
裸で横になったまま、カーテンからの光が2人の顔を照らしていた。出会った当初、かおりにこんなふうに言われると思ってなかったし、こんな関係になるとも思っていなかった。

かおりはぼくの6個下だった。6個も下の女性に「かわいい」と言われると、ぼくのプライドは悲鳴を上げる。ぼくは童顔でよく歳を下に見られる。これは大きなコンプレックスだった。初対面では男女問わず大抵なめられ、ぼくを敬おうとする人なんてほとんどいない。それに6個も歳が違うと、小学生と中学生くらい差がある。

かおりはぼくの何を「かわいい」と言ったのだろうか。そんな疑問を抱こうと「おれのどこが可愛いの?」なんて聞くことはしない。そんなの聞いたところでなにが変わるわけでもない。

ただわかるのは、かおりは6個上のぼくを「かわいい」と思ったらしい。


かおりはぼくの女友達の会社の同期で、たまたま飲んでいるところに街で居合わせた。

「おお、コジくん!何してんの?」
「お、ここみ。飲んでたよ。結構入ってるみたいだね」
「いやいやー、そんな飲んでないし!笑」
「そんな顔でいうなよ、顔真っ赤だぞ」
「うるさいなあ!」
「どこ行くの?決まってないなら一緒に行く?」
「ええ。どうするーかおり?」
「ここみに任せる」
「おっけー!じゃあいこう!」

ここみ、かおり、ぼく、ぼくの友達の4人でカラオケバーに行った。ここみはマイクを離さず、ぼくはそれが楽だった。一方でかおりは控えめな性格で、自分から話すことはなかった。要所要所で目が合うとニコッとしてくれた。

2人はアパレルに勤めていて、凄くオシャレだった。かおりは長袖と短パンの水色のセットアップに黒のカバンと黒の革靴。髪色はピンクのボブで身長は170cmでスタイルがよかった。見た目の奇抜さとは反対に、有村架純のような素朴な顔をしていた。

けっきょくかおりとはほとんど喋らず「マイクいる?」だとか「何か飲む?」くらいだった。それよりも友達の友達にガツガツ行くのが気が引けてしまい、連絡先を交換せず解散した。


次の日起きるとインスタの通知が来ていた。かおりからフォローされていた。丁寧にダイレクトメッセージまで来ている。
「昨日はありがとうございました!ここみのインスタから来ました!また飲みたいです!」
意外だった。かおりに悪い印象はなかったし、もっと知りたいなとも思っていたが、まさかあちらから行動するとは思っていなかった。

「こちらこそありがとう。ぜひぜひ、ぼくでよければ」
「いつ空いてますか?」
返信をするとすぐに予定を聞いてきた。


「おつかれ」
「お疲れ様です!」
中身の入ったグラスが軽く当たり、カツッという音が鳴った。

ここから先は

2,771字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?