それぞれの国と時代にそれぞれの恋愛社会がある〜ある新書を読んでみて〜

今回は新書の話をしようと思う。
その新書とは、鈴木隆美『恋愛制度、束縛の2500年史 古代ギリシャ・ローマから現代日本まで』(光文社新書)のことである。
この本を通じて私はとても感銘を受けた。
本の内容と自分の感想について書いていこうと思う。
以下、ネタバレを含みますので、避けたい方は見ないようにお願いします。

筆者の主張


この本の主題としては恋愛といういのは、制度の歴史なのだということ。日本の恋愛もガラパゴス化していて、これから日本独自の恋愛哲学、社会学が必要だということを説いている。何故ならば、恋愛は西洋で生まれたもので、制度として明治時代に日本に輸入されたものである。でもその制度の根本にあるものは西洋がキリスト教や革命の歴史で培った「イデア」や「個」であり、それまでの日本で大切にされてきた「和」や「粋」「色」や「情」とは性質の異なるものであった。日本文化はそれを排除することなく、西洋の恋愛を表層的に真似することでそれを取り入れた。それが現代では日本独自の発展を遂げているということである。

ここで、所長が気になったことを何点かに分けて書いてみようと思う。
細かい話は原著を見て欲しい

恋愛x制度の視点について

いつの時代にも、スタンダードな恋愛がある。それは見方によっては恋愛の制度として形づくられていく。この本で紹介されている古代ギリシャの例を紹介したい。少年愛(ゲイ)が価値が高く、徳のある男性は少年を口説く。そしてその時は鶏をあげるというものだったという。また、人間はもともと2人の人間が合体して1人の人間だったがその人間が生意気だったがために2つに割られてしまった。その片割れと合体したいと思うのが「恋」というものという説明もあったらしい。
今からしたら、「へえーそうなんだ」とおもいますが、それがその時代の恋愛スタンダードだったそうです。ということは2000年後の人類からは「出会い系アプリ、何それ?」と言われるようになっているだろうということだ。今、私たちが恋愛の当たり前と思っている事柄はそう思わされているのかもしれない。そしてそれにはそう思わせられる歴史がきちんとあるからなのだ。この本を読むとその歴史がわかる。また、恋愛と宗教についても考えることができるだろう。

恋愛はもともと日本人にないものが前提となっている

「イデア」が何かをわかっている日本人ってどれくらいいるのだろうか。本によるとイデアとは神が見ている世界だそう。神は全知全能で完璧な者への憧れが根本となっているらしい。そしてもう一つが「個」の概念。ヨーロッパは革命を通して、「個」を培ってきた。革命以前は理性重視で感情もルール適用で表現していたが、そんな制度よりも「本当の自分」を生きることが大事である。それができるのが恋愛だという理屈で培っていったのが「個」の概念だったようだ。
一方で日本にはヨーロッパが培ってきた概念がないのに、「恋愛」の制度が輸入された。それまでの日本では乱交であったり、筆下ろしというような慣行があり、それが野蛮とされるからだそうだ。ヨーロッパに追いつきたい日本は形だけ真似るという対処を取ることとなる。そして日本の恋愛は依存システムだという。「お互い様」「おかげさまで」という関係を作り、コミュニティの中で空気を読み、集団への同調行為が行動原理となる。現代の日本にはキャラ萌文化というものがあり、キャラ前提のコミュニケーションをする。そしてそのキャラは型であり、その型を可愛いと思うことで成り立っているのだそう。つまりキャラに則っているとグループの和を乱さないというわけだ。そして筆者は西野カナさんの『トリセツ』を共依存ルールを作ろうね!という解釈だと言っています。以前『トリセツ』については書いたが、『トリセツ』に共感できない身としては頷く内容だった。となると、日本で自立しようとする女性は恋愛しにくいということなのだろうか。「あなたはあなた」「私は私」という思いがいたるところででてくる私は日本での恋愛に向いていないんだろうかとつくづく思った。

海外に恋愛社会留学してみたい

この本を2回読んだが、思ったことが2つある。2回目はより深く理解できたというのもあるが、強く思ったことは同じだった。1つは「海外の恋愛社会事情を知りたい」というのと、もう1つは「恋愛社会がこれからどうなっていくのか気になる」ということだ。それぞれの国にそれぞれの恋愛の歴史があるというならば、日本の恋愛社会に向いていない人間は狩場を変えれば良いかもしれないということだ。私は、大学院時代に留学生から「えりこりんは海外行ったらモテるよ」と言われたことがある。「そう、ありがとう」と言いながらも全然嬉しくなかった。日本でモテないならば海外に行くというのは逃げだと思っていた。だけれども、日本に流れている恋愛文化と自分の考えが合致しなければ心地良い恋愛はできないのだろう。とすると、自分が心地よく恋愛できる社会を求めるのも良いかもしれない。また、いつの時代もどの国でもそれぞれ恋愛に対する説明をしているという意味ではロマンがあるなと思う次第。そしてその恋愛に対する説明は宗教とも密接な関係がある。それをもっと知っていきたいと強く思った。

ざっくりな話となり、説明の内容が薄くなってしまったが、本当に素晴らしい本なので、知識不足を補ったあとで詳しい内容はまた別でまとめてみたいし、レディーファーストの成り立ちや、今回の話で紹介できなかった恋愛否定論者プルーストの話も紹介していきたい。

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