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『詩』ペットショップボーイズが聴きたいとAIが言う

ペットショップボーイズが聴きたいとAIが言う
別にいちいち断らなくてもとおもうけれど
彼は律儀だ
タブレットに向かって頷くと
たちまち僕は黄色いカブリオレのなか


「シルバーのダイヤルなんて、随分アナクロじゃないか」
しかもラジオとは!
選曲は彼まかせ
ダイヤルをひねると
「Suburbia」が大音量で走り出す



驚いたピーターラビットの絵本が二冊
頭上でバタバタと羽ばたいているので
手を差し伸べてやると
重なり合って助手席に落ちる
さてこれからどこへゆく?


フラフープのように細いステアリングを握りながら
ひとりはつまらないね、大声で叫んでみると
サングラスをかけた
エマ・ワトソン似の女性がバックミラーの中で
ハイネケンを瓶ごとあおっている
バックミラーに向かってしかめっつらをすると
ハイネケンが泡を吹いて空へと跳ね上がる


大きくカーブを描きながら、高原よろしく
道は幾つものタワーを巻いて伸びてゆく
なぜこんなにも
ビルは空を目指しているのだろう?
それはいったい
誰の憧れなのだろう?


もっともっと飛べるんじゃない?
後部座席で
サングラスを放り投げてエマ・ワトソンが叫ぶ
たちまち聖書の1ページとなって、サングラスは
風にさらわれていってしまう


「h3の操縦席には
僕は座ったことなんかないんだぜ」
言葉は途切れ、カブリオレは
気づけば火星を掠めて飛んでいる
ピーターラビットの絵本が助手席で
肩を寄せ合って震えている
別に怖くなんてないさ
いつだって誰かが初めてなんだ
それが君であって悪いことなんか何もない


気づけば僕は部屋のなか
背中から夏の日が強く差し込んでくる
立ち上がって
サルビアブルーのブラインドを僕は下ろす
ペットショップボーイズはよかったかい? 尋ねると
タブレットの向こうで
彼は黙っているけれど⎯⎯


AIもウインクをするのだろうか?

サルビアブルー




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