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(51)半一方通行の関係

 普段テレビなどで見る人を町中で見つけると、どのように感じますか?人によってそれぞれだと思うのですが、その人の「テレビなどでの映り方」というのも関係していると思います。

【51】-1 テレビで見る人、ラジオで聞く人

 テレビに出ている人が今よりももっと遠かった時、テレビに出ている人を生で見ると「あー、○○さんだ!」とドキドキしていたように思います(個人的な感想ですが)。こう言っては何ですけど、動物園のパンダを見るような感覚に近いような気がします。
 今、仮にですが、この様な感覚を一方通行の関係とします。

 ……そう言えば「客寄せパンダ」という言葉は、そんなに新しい言葉じゃないはずだ、と今思いました。で、調べてみると、やはり上野にパンダが来た以降、田中角栄の言葉(人寄せパンダ)というのが由来らしいですが、興味ある方は調べてみて下さい。

 どこかで聞いたことがありますし、自分でもそう思うのですが、ラジオのパーソナリティは、テレビの出演者より距離が近いように思います。というか、それは、テレビよりもリスナー(聴取者)に語りかけている感じが、そのように感じさせるのかもしれません。
 葉書が送られて読まれることも多く、そのことも距離を近くしているのかもしれません。ラジオパーソナリティに会ってももちろんドキドキすると思うのですが、より友だちのように思うことが多いように思います(個人的な感想です)。
 こちらの方を、仮に半一方通行の関係とします。一方通行より近い気がするけど、本当の知り合い(双方向)にもなり切っていないという意味です。

 私は「テレビがなく、ラジオしかなかった」時代を知らないのですが、ラジオしかなかった時代にはそんなことはなく、ドキドキしていたかもしれないですね。

 舞台に出ていた出演者に、舞台の下で会うと、私はやはりドキドキします。全然知り合いのいない舞台を見に行ったあと、たまたま居酒屋で居合わせた時など「うわぁ〜」と思ったものです。これは一方通行の関係です。

 知り合いが出ている舞台の場合はどうでしょうか?知り合いの共演者は知らない人です。知り合いの共演者が印象に残る役だったりしたら、上演後のあいさつの場なんかで「あ、あの役の人だ〜」とやはりドキドキします(私の場合ですが)。これもまさしく一方通行の関係です。

 極端な例でいうと、例えば自分が指導している中学や高校の演劇部の大会を見に行ったとします。自分が指導している生徒たちは「頑張れよ!」とか思っていますし、終わったあとは「よくやったな、頑張ったな」って思います。でも、他の学校の生徒を舞台の下で見ると「あ、あの役の人だ!」と、ドキドキはしませんが、ドキッとすることはあります(しつこいようですが、私個人の感想です)。これも一方通行の関係です。

【51】-2 ネットで見る人

 さてここ10年ちょっとで急成長したオンライン動画配信ですが、これがこれまでのテレビ・ラジオ・舞台などの距離感を明確にさせてくれたように思います。

 YouTubeなどでは、いろいろな作品があるわけですが、友だちが楽しいことをやっている、というような感覚でつくられたり見ていたりするものが多くあります。「はい、みなさんこんにちは!」と始まったり、「ねぇねぇ聞いてよ〜」「面白いことがありました!」「怒ってます!」というように、友だちに話しかけているかのような作品です。また、自分の日常(○○ルーティーンも流行ってましたね)を見せることも影響しているでしょう。これは半一方通行の関係です。

 これはラジオの受取り方と似ていると思います。テレビは誰かと一緒に見ることも多くありますが、ラジオはどちらかといえば個人で聴くことが多いです。もちろん喫茶店で流れていたり、オフィスで流していたりすることもありますが、寝る前、車の中など、一人でじっくり聞くような状況であることが多いのではないでしょうか?

 YouTubeなどの動画配信サービスも、みんなで楽しむこともありますが、部屋で見る、電車の中で見るなど、まずは個人で楽しむことが多いのではないでしょうか。そういう意味で、ラジオパーソナリティもYouTuberも、個人に語りかけてくる感じが多く、親近感を得やすく、会ったことはないのに友だちのような感覚になりやすいと私は考えています。

 だから、YouTuberが撮影しているところに出会わしたら、もちろんドキドキするとは思いますが、友だちに気安く声をかけてしまいそうになる感じもあります。

 一方でTik Tokは、「面白いことをやっているところを見てもらう」つまり作品としてでき上がっていることの方が多いため、友だち感覚というよりは、昔のアイドルのように、少し距離が遠い気がします。Tik Tokクリエーターが町中で作品を作っている場に出会わしたら、やはりパンダを見るような気持ちになるかもしれません。つまりTik Tokは一方通行の関係です。

【51】-3 今日の本題

 話は変わりますが、今年(2022年)はコロナ禍とはいえ、ずいぶんワークショップや学校での授業が行えるようになってきました。なのですが100%と言うわけにはいかないので、少し工夫が必要なこともあります。

 私は東京都新宿区にあります私立中学2年生との「コミュニケーションの授業(1回2時間×3回)」を10年以上行っています。コロナ以前は全ての回でクラス全員で演劇づくりのワークショップを行っていました。
 しかし昨年と今年は、第1回の授業をクラスを半分に分けて行っています。半分は私と実際にからだを使ったゲームなどをしますが、残りの半分は、私が事前に作った動画を見てもらいながら、インタビューを書き起こす練習をしてもらっています。

 つまり半分は私とリアルに出会ったあとに動画を見てもらい、残りの半分は動画で先に私と出会ってからリアルな私に出会うということです。

 ここからが本題なのですが、リアルに私と出会った時の感じが、同じクラスなのに少し違います。先程から長々と書いている距離感が少し違うように思うのです。

 この中学2年生は、都内でも屈指の進学校で、勉強も出来ますし、斜に構えるような感じの生徒はほとんどいません。でも、人間誰でもそうですが、初めて会った人に対しては、警戒心があるというか、ちょっと様子を見るというか、ある一定の距離が当然あります。
 でも、動画を見て先に出会った生徒たちは、活動場所に入ってくるなり話しかけるなど、少し距離が近いように感じました。この時私は「あ、YouTuberの距離感だ!」と思ったのです。

 生徒たちは、教室で全員で見ているとはいえ、動画から話しかけてくる私に近い距離感を感じたのかもしれません。マスクもしていませんし。
 授業を始める時に「みんなは僕を動画で見てるけど、僕はみんなに会うのは初めてだからね」というと、本当に「あ、そうか」と言った生徒がいました。それだけ距離感が違うということだと思います。
 言い方を変えると、最初にリアルな私に出会う生徒たちは、最初から双方向の関係なのですが、動画で私に出会う生徒たちは半一方通行の関係なのです。そこから双方向の関係になるという、ちょっと不思議な感覚があるのです。

 それが良いことなのか悪いことなのかは、まだ分かりません。事前に動画を見ることによって、逆に距離が広がってしまうこともあるでしょう。でも、この距離感をとらえ直すことによって、つまり事前に動画で出会ってもらったり出会わなかったりという工夫をすることは、これからのワークショップの一つの鍵になるようにも思います。 

 話は少しズレますが、以前多方向と言うことを書かせて頂きました。

 その時書いたのは、オンラインワークショップで大切なのは多方向ということです。でも、まがりなりにもクラスの生徒たちはリアルで出会えていて、リアルで集っている以上多方向には自然となっていきます。そのような時に、私のような外部の人間の場合(でなくても、先生と生徒たちという関係性の違いがある場合)、リアルであっても一方通行になりがちで、また生徒たち同士の共同作業(多方向)ということはできても、進行役(先生)と生徒たちの関係を変えるのは難しいことも少なくありません。

 その時に半一方通行という関係を工夫することで、ネット時代・コロナ禍のワークショップを一歩先に進められる、そんな予感がするのですが、どうすれば良いのかはまだ分からないです…。

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