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アメリカ大統領選挙の開票報道のひどさ(3)

これは(3)です。まだの方は(1)から読むのをおすすめします。


(1)、(2)では、メディアの開票状況の分析力の欠如について論じてきたが、ここからは、開票番組などでされていたおかしな解説について、いくつか取り上げることにする。

おかしな解説 ―州ごとの総取りのシステムのメリット―

 アメリカ大統領選は、ご存じの通り、全米の両候補の得票数で大統領を決めるのではなく、州ごとの(選挙人の)総取りシステムである。一応、自分の私見を書いておくと、これはアメリカの歴史や文化に根差したシステムだとは言え、このシステムは極めて不合理であると思う。

さて、これについて、開票を報じるワイドショーの中で、明治大学の海野素央教授が、「このシステムには利点もあるんです。もし、全米の得票数で決めたら、候補者は、ニューヨークやカリフォルニア、テキサスなどの大都市にしか行かなくなる。このシステムがあるからこそ、ネバダなどの小さな州にも候補者が来て演説するんです。」という趣旨のことを言っていた。これに対して、ワイドショーの出演者たちは、「あー、そうなんですねー。初めてこのシステムになっている理由を理解できました。」などと言っていた。

 しかし、ちょっと待ってほしい。本当に、あなたたちは理解したのだろうか?

 確かに、大統領選の候補者はネバダには行くかもしれない。でも、候補者が行くのは、限られた数の接戦州ばかりである。候補者たちはペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、フロリダ、ノースカロライナなどには何度も行くが、接戦州以外にはほとんど行くことはない。勝敗が決まっているのだから、当たり前である。ネバダには行くかもしれないが、人口の少ない州であるユタにもワイオミングにもアイダホにもテネシーにもオレゴンにも行かない。もちろん、カリフォルニアにもニューヨークにもほとんど行かない。

 ペンシルベニアに何度も行くのに、有権者数がはるかに多いカリフォルニアやニューヨークに全然行かないことがいいことなのか?

 こんなシステムのどこにメリットがあるのだろうか?

 接戦州の人たちだけが重要なアメリカ国民なんだろうか?

 これのどこが、州ごとの総取りシステムの利点なのだろうか?

 なぜ、出演者たちは、こんな理由で納得するのだろうか?


 「じゃあ、ワイオミングやアイダホには行かなくていいんでしょうか?」とどうして海野教授に質問しないのだろうか?出演者たちは、もしかしたら、ワイオミングやアイダホという州を知らないかもしれないが、アメリカにはたくさんの州があり、接戦でない州がたくさんあることくらいは、さすがに知っているだろう。であれば、せめて「じゃあ、候補者は、小さい州にはどこの州にも行っているのでしょうか?」くらいは質問すべきだろう。

 この説明に対して何も疑問に思わず、本当に納得した気になっていたとしたら、出演者たちは自分の頭で何も考えられない人たちだとみなされても仕方ないと思う。

おかしな解説 -開票の遅れの理由-

 開票日から2,3日経って、ペンシルベニアやネバダやジョージアやアリゾナは、まだどちらの候補がそれらの州を獲得したかが決定していなかった。そこで、テレビでは、どうして開票結果が確定しないのか、理由を解説したりしていた。さて、アラスカもこの時点ではどちらが獲得するか確定していなかった。実は、アラスカは、新たな開票結果がなかなか公表されず、トランプが獲得したとメディアが報道するまでに一週間以上かかった。アラスカは、最初から、トランプが優勢でトランプが獲得すると予想されていたにもかかわらず、である。

 さて、この時点(開票日から2,3日)でのあるテレビ番組では、あるコメンテーターが「アラスカは、時差の関係で投票締め切りが遅いので、開票が遅れています。」と解説していた。だが、この解説は間違いである。確かに、アラスカの投票締め切り時刻は一番遅く、一番早い州との間の差は6時間ある。しかし、6時間の差があっても、2,3日経ってからアラスカの票の多くが開いていないことの理由にはならない。開票日当日に、多くの州で結果が出ている。それとアラスカは全然状況が違うのだ。さらに、カリフォルニアなどとの投票締め切り時間の差は2時間しかない。

 というわけで、アラスカの開票が遅かった理由は、時差の問題とは全く関係ない。本当の理由を一応書いておくと、アラスカは、期日前投票の開票が約1週間後から始まるため、開票がなかなか進まなかったのである。

 つまり、このコメンテーターは、アラスカの開票が遅いことの正確な理由を知らず、生半可な知識でそれを取り繕おうとしたため、おかしな解説をしてしまった、というわけである。だが、この解説がおかしいことは、ちょっと考えれば(上述の通り)常識的にすぐにわかることである。テレビ局のスタッフでもちょっと考えればわかるだろう。そういう場合は、すぐに補足コメントを入れるべきである。時差の分だと2-6時間の遅れの説明にしかならないと、まともな視聴者ならすぐに思うはずで、視聴者を混乱させるだけである。

 結果的に虚偽の解説をそのまま流したのと同じであり、報道機関としても失格である。


(4)に続く!


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