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詩|関ヶ原

こんな真夜中にも遠くで蝉が鳴いて 命を
結ぼうとする力は 怖ろしくて 美しい 八月
眠気のジェルに とぷんと浸かって 
透き通って つめたい 青色の まどろみ
あなたはどうしてるんだろう 
今 ごぜんにじ 起きてる? 
眠っていてほしいような
この静けさを 遠くから 分け合いたいような 
夜中だから はんぶん 夢のなかだから 
テレパシーだって使えそうな気がして

万有引力は ひきあう孤独の力だっていう
七十年も前にあの詩を書いたお爺さんは
昔からずっと あんなきれいな目をしていたらしい
だから 
三回結婚して三回離婚してる

関ヶ原は雷雨
テレパシーは
たぶん届かない
わたしもきっとおばあさんになってもここで詩をかく
遠い街で
あなたが生きていてくれたら
それだけで嬉しいです
毎日にちゃんと 色がつきます
枕もと 切れてしまった糸電話につぶやく

こんな真夜中にも まだ蝉が鳴いてる
もしも しにがみに
50になるまでにはこと切れるぞお前 と 
脅されていたら 
いまごろ何か違ったのかな
もっといい詩を書いて 素敵な場所に居られたのかな

暴走族たちは
ぶんぶんとおうちに帰りました
アスファルトと交わる夜が端っこからめくれていく
空気が確実に湿度を増して 
寝床がべとべとした不愉快で満ちる

今朝も命のいろと 死の影が濃くて 
なんて愛おしい 八月

明け方 こちらでも激しい雨が降った
それでも限界まで 蝉は鳴くんだ

(「八月」から改題)

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