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食糧余剰と不足が共存する社会で (上)

学内の学生の約6割が食事の回数を減らしているーー

新型コロナウイルスの流行が続き、社会的隔離(ソーシャル・ディスタンス)が日本社会でのコンセンサスとなりつつあった7月半ば、東京都内の著名な国立大学のキャンパスで衝撃的な事実を聞くことになった。

この記事のシリーズ(3本連載)をつうじ、日々の生活で食事を十分に食べることが難しくなった人や、そのような方々を支援する方々の声を多くご紹介する。読者のみなさまと一緒に、これからお伝えする「食の貧困」について具体的なアファーマティブ・アクション(状況改善につなげる行動)を描きたい。

僕は直近の数ヶ月、「フードパントリー」と呼ばれる手法の食糧支援を実施している方々を取材した。まずは東京・府中市における事例をご覧いただく。


「フードパントリー」

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取材当初、僕にとってはこの言葉そのものが新しいものだった。すでに馴染みがある方もいると思うが、改めて定義を確認したい。


西日本新聞 によると;


企業から寄贈された食品を生活困窮家庭に無償配布する地域の支援拠点という意味で、米国の貧困対策として知られている。

とある。


日本以外の諸外国でも、主催者が指定したある地点へ参加者に来てもらい、一定期間の食糧を箱詰めで渡す形式が一般的な形として普及し始めている。日本では災害時での物資支援の場面や、セカンドハーベスト·ジャパンなどの大手団体の活動が浸透してきた。


いっぽうで、貧困家庭の子どもへの食糧支援や居場所づくりのための「子ども食堂」が日本ではメディア報道などでより頻繁に取り上げられている。公的な場所でカレーなどを提供する形式が一般的だ。地域の有志が資金と労力を出し合って準備をし「地域で孤食をなくそう」と活動する場面は多くの人にとって馴染み深くなっている。


しかし、子ども食堂には「子どもを出席させることで、自分の家庭が貧困であると地域の人に知れ渡ってしまう(又はそう思われる)」といったプライバシーの側面から、保護者が参加へのハードルを感じてしまうことがある。


これに対し、フードパントリーは公共施設などが受け取り場所として指定されることが多いものの、限られた人数の環境で個別に食べものを受け取るため、一定のプライバシーを保ちながら食糧支援ができる、という側面がある


そして、冒頭にある(とある大学で経済苦などにより)「学生の約6割が食事の回数を減らしている」という情報を頂くにあたって、フードパントリーを日々実践しているNPO法人シェア·マインド代表理事の松本靖子さん(お写真㊦)に多大なお力添えをしていただいた。

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松本さんは毎週1回以上、府中市など東京都西部の多摩地域で生活苦などで食糧を得ることが難しい方に向けて少額の会費で個別に食べ物を配布する活動をしている(こちらの詳細は次回掲載分でお伝えします)。

松本さんにお繋ぎしていただき、6月28日(日)に東京の府中市で食糧支援活動をしているフードバンク府中が主催する学生向けフードパントリーの現場を取材した。コロナ禍でアルバイトが出来ないなど経済的に困窮した学生らを想定し、市内に在住·在学している学生に声をかけたところ、60名からの申込みがあった。

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当日の様子を簡単に動画でまとめた。こちらの動画をご覧いただきたい。

現場を取材するなかで、とくに目立ったのが外国人留学生の姿だ。

当日にフードパントリーを訪れた、東京外国語大学でジャーナリズムを専攻する学生さん2人のご協力で、国際基督教大学(ICU)に通う留学生の方にお話を伺うことができた。 


「飲食店でアルバイトをしていたけれど、新型コロナウイルスの流行でアルバイト先が閉店してしまった。まだ奨学金を貰っている自分はマシだが、家賃や食費などの生活費の支払いが苦しくなっている」


と声をあげていただき、「言語の壁もあるなか、なかなか役所などでコミュニケーションを取ってくれる人もおらず、補助金の申請などもうまく進まない」と、留学生たちが行政からの支援を受けるうえで障害を感じていることも共有していただいた。


その他にもフードパントリーに参加した学生さんからは;


「府中市に在住している中国人留学生です。コロナの影響で5月からバイトを失いました。今のところは頑張って新しい仕事を探していますが、仕事の先がなかなか見つかりません。給料がもらえていなくて、家賃などの生活費を支払わないといけないということで、困っています。恐れ入りますがそちらから、しばらくの間食糧をいただけますと助かります」

「朝晩はカップ麺やレトルトしか食べていない日々です。食品の種類が限られたせいか、食べる意欲もだんだんなくなっています。学業(の負担)も増して、勉強の傍ら料理する気力は減る一方です。そこで、外語大のページでフードバンクのことが見つかりました。ありがたい気持ちでいっぱいです」
“Rent for the last month was not paid” (先月分の家賃を滞納しています)


となどの声が集まった(フードバンク府中より)。


当日にお話を聞くと、府中市にある東京外国語大学の学生さんの姿が目立った。なんと集計の結果、フードパントリー参加者全体の半数近い30名が同学の在学生だったことが判明した。


このような状況を受けて、大学側も迅速に対応した。7月10日、東京外国語大学は学内で学生さん向けのフードパントリーを実施した。同学のOBの方々やフードバンク府中の協力もあり、膨大な食糧が集まった。当日の様子を簡単な動画でまとめた。 


そして、同学はこのフードパントリーの開催にあたり、160名あまりの学生さんに暮らしぶりについて聞くアンケートを実施した。そこで明らかになったのが、冒頭で紹介した「学生の約6割が食事の回数を減らしている」(※ただし、データサンプルはアンケートに回答した学生さん) ということだったのだ。


加えて、4人に1人が「来月の生計が回らないかもしれない」·「食費が心配」などと回答した。


僕自身もつい数年前まで関西の大学に通う身だったが、学内でフードパントリーが開催されるという状況をは想像し難い。このような学生さんたちの苦しい状況を受けて、学内で食糧の無料配布するにまで踏み切った大学側の切迫感をありありと感じることになった。


しかしここで強調したいのは、僕はこれまでご紹介した学生さんらの経済苦を新型コロナウイルスの流行によるもの、という結論で終えるつもりは毛頭ないということだ。当日にフードパントリーに参加した学生さんに個別にお話を伺うことができた。こちらの動画をご覧いただきたい。

「しんどいのはしんどいんですけど、コロナがどうに関わらず苦しい人ばっかりが友達なので、うーん、まぁ苦しいですよね」

と、大学2年生の彼は切実な胸のうちを明かしてくれた。 食べることでしんどい思いをしていながら生活を送る学生さんたちの気持ちを少しでも想像していただきたい。

そうなのだ。

僕たちは今年の3月以降、メディアなどを通じ「新型コロナウイルス(以下コロナ)の流行で苦しい生活を強いられる人がいる」という報道に触れている。もちろん、コロナ流行により、職を失ったり事業を畳んだり、収入が減った人の数は数え切れないし、急速な世の中のシフトのなか、生活苦に陥った人たちの姿を真っ先にイメージしてしまいがちだ。

しかし、最も大切なことは「満足に食べることが難しい状況に置かれた人びと」はずっと私たちの身近に居て、このイシューはずっとわたしたちの社会に横たわっているということではないだろうか。

フードバンク府中の活動のお手伝いをされている、府中市議会議員の西埜真美さんは

「たしかに、フードパントリーに来られる学生さんの様子をみると、彼らの生活が苦しくなっているのを感じています。ただし、東京外国語大学のような決して著名な大学ではない大学に通いながら、オンライン授業を受けるためのPCを購入するのが難しかったり、大学を中退せざるを得なくなったことで多額の奨学金の返済に苦しんだりと、より深刻な状況に置かれている学生さんの姿も目にしています」

と語る。NPO法人 シェア・マインドの松本さんも

『食糧支援をつうじて知り合った方から「おかげさまで今月は通院できる費用ができそうです」という声を聞いたことがありました。食の支援から、より深刻な貧困が見えてくるのです』

と、支援活動の現場から見えてくるより深刻な状態を話す。


僕はこのようなお話を受けて、声をあげることすら難しいほど追い込まれている人たちが、実はたくさんそばに居る、という視点を忘れないことが重要だと感じている。

そして、僕たちの生きる日本社会では、食糧そのものはあらゆる場面で余り廃棄されているのだ。松本さんとお会いするきっかけとなったとあるイベントでは;

消費者庁の統計によると、まだ食べることができるのにも関わらず廃棄されてしまう食品、いわゆる「フードロス」の総量は612万トン。国民一人当たり換算で”お茶腕約1杯分(約132g)の食べもの”に相当する。

という統計データが主催者の方から紹介された。

つまり、これは


食べものが捨てられているのにも関わらず、十分に食べることが難しい人がいるーー。

という大きな矛盾を抱えている社会的イシューなのだ。いま、僕たちは限られた食糧を奪いあうゼロサム·ゲームをしているのではないのかもしれない。食糧が余っているのにも関わらず十分に分配てきていない、システムのエラーとして議論していく問題ではないのだろうか。

次回は社会的孤立が生まれる背景や、資本主義の仕組みの中での食糧配分の妥当性など、マクロな視点から議論をより深めたい。そこで、「すべての人に十分に食べものが行き渡るために」というゴールに向けて活動しているシェア・マインドの松本さんの活動内容をご紹介する。



============= お知らせ =============

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僕(松木 耕, ジャーナリスト)らが設立したメディア・コミュニティの Social Actors は8月29日(土)の午後3時〜、NPO法人シェア・マインド代表理事の松本靖子さん・府中市議会議員の西埜真美さんらをお招きし、対話セッションを行います。フードバンク府中の取り組みをご紹介しながら、現代における食の貧困に対して取られるアプローチはどのようなものが望ましいのか考えます。

ご参加をご希望される方は、こちらのフォームからご参加登録をお願いします。(※Zoomでの無料開催となります。ご登録後、メールアドレスに会議室のリンクをお送りします)

先進国の都市部における食の貧困は東京・府中市だけではなく、世界各地や日本全国でリーダーが解決策を導きだし、変化が起きつつある重大なイシューです。

「すさまじい量の食糧廃棄が日々発生するこの社会で、なぜ満足に食べることが出来ない人がいるのか」という問いについて考え、一緒に対話しながら、わたしたち1人ひとりひとりが取ることができるアクションを描きましょう!

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