どうして"正しい姿勢"は疲れるのか?
ヨガの指導をするかたわらヨガに関する情報を発信しているウェブサイト「ヨガ空間」を営んでいます。一言で「ヨガ」といっても様々な流派、指導者がいるのでしょうが、誰かに習ったヨガではなく、身体に習ったヨガを伝えています。
ここでは、身体に習った「正しい姿勢」についてのお話をします。
疲れるのは「正しい姿勢」ではないから
どうして"正しい姿勢"は疲れるのか? それはそれが、本当には「正しい姿勢」ではないからです。
一般的に正しい「良い姿勢」と聞いて思い浮かぶのは、背筋がピンッと縦にまっすぐ伸びている姿勢であり、一方「悪い姿勢」と聞いて思い浮かぶのは、背筋がぐねっと前に曲がり丸まっているいわゆる"ネコ背"の姿勢でしょう。
左のイラストがいわゆる"正しい姿勢"、中央のイラストがいわゆる"猫背"です。右のイラストも悪い姿勢として知られていますが、背筋がクネッと後ろに曲り反っているいわゆる"反り腰"、あるいは"ハト胸"の姿勢です。
・ 正しい姿勢のイメージ : 背筋がピンッと縦にまっすぐ伸びている形体
・ 誤った姿勢のイメージ : 背筋がぐねっと前に曲がり丸まっている形体
そもそも… 「正しい姿勢」とは?
そもそも、どうして背筋が伸びているのは正しい「良い姿勢」であり、背筋が丸まっているのは誤った「悪い姿勢」であると言われているのでしょう。つまりここでの「良い vs 悪い」を区別する基準とはいったい何でしょうか。
まず、健康を維持するうえでの「正しい姿勢」とは、身体にとって良い姿勢であり、その逆に「誤った姿勢」とは身体にとって悪い姿勢であると結論づけることができます。
そして身体にとっての良い姿勢とは、身体に過度な負担をかけない姿勢であり、身体にとっての悪い姿勢とは、身体に過度な負担をかける姿勢と言い換えることができます。
・ 正しい姿勢 : 身体に過度の負担がかかっていない形体
・ 誤った姿勢 : 身体に過度の負担がかかっている形体
身体に負担をかけない姿勢
では、"身体に負担をかけない姿勢"とは、具体的にはどういうことなのか先程のイラストで見ていきます。
身体の重みの中心となる重心点がイラストに「●」で示されている「頭、中胸、下腹」の三箇所です。これはいわゆる「上丹田、中丹田、下丹田」です。
左のイラストは、3つの重みが重力方向に重なり「背骨、骨盤、大腿骨、脛骨、踵骨」などの骨をメインとして身体の重みを支えているので身体に過度の負担はかかりにくいです。
しかし、中央のイラストは頭蓋の重みを背中の筋肉を使って支えていますし、右のイラストは必要以上に背中の筋力を使っているので身体に過度の負担がかかる可能性があります。
つまり、身体に負担をかけないためには、3つの重みを骨格で支えることが要点です。逆にいえば、これらの3つの重みを筋力で支えないこと、あるいは余計な筋力を使わないことがその要点です。
・ 正しい姿勢 : 身体の重みを骨格で支えている形体
・ 誤った姿勢 : 身体の重みを筋力で支えている形体
本題 : 何が間違っているのか?
ここまでは、姿勢に関心のある多くの方が一度は聞いたことのある話かもしれません。
しかし、ここでの本題は「どうして"正しい姿勢"は疲れるのか?」です。それは最初に述べた通り、本当には正しい姿勢ではないからです。
そうは言っても、今まで述べてきたことに異論をはさむ余地はありません。では一体全体、何が間違っているのでしょうか?
さて、先程のイラストと同じく、① 背筋の伸びている姿勢 ② 背筋が反っている姿勢(鳩胸) ③ 背筋が丸まっている姿勢(猫背)の3つを示しています。
しかしここでは、左のイラストが正しい姿勢で、残りは誤った姿勢ではありません。それが間違いです。
なぜなら、先程のイラストと違う点があるからです。大きな違いは「地面に立っている」か「椅子に座っている」かの違いです。もう一つの大きな違いは、「腕を下におろしている」か「腕を前にあげている」かの違いです。
本当に正しい姿勢とは、背筋のことだけを調えていても実現できません。つまり、身体全体のことを調えていなければ実現できないのです。とくに、脚の状態と腕の状態を無視することなく、しっかりと注意を向ける必要があります。
・ 本当に正しい姿勢 : 身体全身を調えている形体
・ 本当は誤った姿勢 : 背筋だけを調えている形体
正しい姿勢作りの2ポイント
1.脚を調える
まず脚の状態が、背筋の状態に大きく影響していることを見ていきます。
この3つの姿勢はどれも膝が閉じています。このように膝が閉じていると骨盤は後ろに傾くため、右のイラストのように身体は自然と猫背姿勢になってしまうのです。まさに多くの方が経験していることです。
それにもかかわらず左のイラストのように、身体の自然に反して無理に骨盤を立てようと頑張ると必要以上の筋力を使わなければならないため、その結果として疲れてしまいます。
立っているときであれば、左のイラストのように足先の向きが正面へ向いているとき骨盤は後傾し背筋が丸くなります。一方、右のイラストのように足先の向きが程良く外側へ向いているとき骨盤は立ちます。さらに外側へ向くと骨盤は前傾し背筋が反ります。
同じように座っているときであれば、左のイラストのように膝頭の向きが正面へ向いているとき骨盤は後傾し背筋が丸くなります。一方、右のイラストのように膝頭の向きが程良く外側へ向いているとき骨盤は立ちます。さらに外側へ向くと骨盤は前傾し背筋が反ります。
※ ただし、椅子の高さなどにも影響されます。股関節より膝頭が高くなると骨盤は後傾し背筋は丸くなります。椅子の高さや脚の位置を色々と工夫して、骨盤が立ってしまう姿勢を見つけてみましょう。
● 古に習う
戦国武将が床机に坐っている姿や、武士が床に正座で坐っている姿でも、膝を開いている絵などが残されています。試してみると明確に理解できるはずです。
✒︎ ポイント1
骨盤を立てようと頑張るのではなく、骨盤が立つように"脚"を調整すること
2.腕を調える
次に腕の状態が、背筋の状態に大きく影響していることを見ていきます。
この3つの姿勢はどれも腕が前にあがっています。このように腕が前にあがっていると、あるいは机などに腕がもたれていると、右のイラストのように身体は自然と猫背姿勢になってしまうのです。まさに多くの方が経験していることです。
それにもかかわらず左のイラストのように、身体の自然に反して無理に背筋を伸ばそうと頑張ると必要以上の筋力を使わなければならないため、その結果として疲れてしまいます。
立っているときであれ座っているときであれ、左のイラストのように腕が前にあがっているとき、あるいは机などに腕をもたれているとき、背筋が丸くなります。一方、右のイラストのように手が程良く手前に引き寄せられ浮いているとき背骨は伸びます。さらに後に引くと背筋が反ります。
※ パソコン作業のときでれば、腕を手前に引き寄せたところにキーボードがあると背筋は伸びやすくなります。机の高さやキーボードの位置を色々と工夫して、背筋が伸びやすい場所を見つけてみましょう。
● 古に習う
宮本武蔵も『五輪書』水の巻に"秋猴の身"として、手を前に伸ばしてはいけないことを説いています。試してみると明確に理解できるはずです。
※ 秋猴(しゅうこう)の身とは、手を引き寄せている猿の姿
✒︎ ポイント2
背筋を伸ばそうと頑張るのではなく、背筋が伸びるように"腕"を調整すること
まとめ : 答えは自身の内にある
正しい姿勢作りとは、背筋だけを調えようとするのではなく、背筋を伸ばすための脚と、背筋を伸ばすための腕とを調えることがポイントです。
無理やり頑張って骨盤を立てようだとか、無理やり頑張って背筋を伸ばそうだとかしていては疲れるのもまた自然なことです。本当に正しい姿勢とは、本当に無理をしていない姿勢であり、本当に自然な姿勢のことです。
上のイラストは近年の"ヨガ"でよく見られる胡座(あぐら)の姿勢です。さて、このような脚の状態、このような腕の状態にあるとき、骨盤は自然と立つでしょうか? あるいは背筋は自然と伸びるでしょうか?
自身の身体をよく観察してみましょう。答えは自身の外側にではなく、自身の内にだけあるものです。
✒︎ 正しい姿勢作りのポイント
❶ 自然と骨盤が立つように、脚の状態を調える
❷ 自然と背筋が伸びるように、腕の状態を調える
✒️ 追伸
たとえ猫背姿勢でデスクワークをしていても、その合い間に「んぐぐ〜」っと伸びをすれば身体はスッキリと持ち直します。「伸び」については別の記事にまとめてあります。
詳しくは、「ヨガ空間」のカテゴリー「姿勢」などに書いています。↓
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