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微生物ワークショップ 『マイクローブ ハンティング』開催レポート

先月、軽井沢のキャンプ場『ライジングフィールド軽井沢』にて、BIOTA主催で微生物ワークショップ(全8回)を開催しましたので、レポートしたいと思います。

キャンプ場でのサイエンスワークショップという初の試みではありましたが、江村くん (@KEIO_tsubasa)やライジングフィールド軽井沢のスタッフの皆さんが運営からイベントページの作成まで全面的に協力してくださり、とても素敵なワークショップとなりました。本当にありがとうございました。

開催概要

日程:2021年8月16日(月)〜8月19日(金)
場所:ライジングフィールド軽井沢
対象:お子さんとその家族

開催の背景と目的

自然環境や生物多様性の重要性がよりいっそう主張される時代になりましたが、地球上に最もたくさん生息している微生物やそのコミュニティは目に見えないためなかなか存在を実感できず、仲間はずれにされている感が否めません。

目に見えないけど確かに存在して地球を回している微生物への想像力、そんなものが今後の一歩踏み込んだ生物多様性の議論において重要になってくると思っています。

広大な自然があるライジングフィールド軽井沢で微生物を想像するワークショップをヒラクことで、感性が開いた子どもたちに微生物の身体性を獲得してもらうために『マイクローブハンティング』と題して、微生物たちを集めて観察・培養し、その多様性を体感しました。

ライジングフィールド軽井沢

本ワークショップを実施させていただいたライジングフィールド軽井沢についてご紹介します。

ライジングフィールド軽井沢は、JR軽井沢駅から北に6kmほど白糸の滝まで繋がる白糸ハイランドウェイを通ることで到着します。駅からタクシーでも行けるるし東京から車で行っても3時間程度ととてもアクセスが良く、設備が整っている高規格キャンプ場です。

宿泊場も多様なニーズに応えて、野営フィールドがあったり、常設テントも複数あります。

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広大な自然から多様な微生物たちを集める

広大な自然から、目に見えない微生物の多様性を実感してもらうことを目的に本ワークショップを設計しました。

具体的には子どもたちがライジングフィールドを探索しながら、植物や土壌、河川、建築物や人工物など好きな環境から微生物を採取して観察や培養をするというプログラムになります。

普段目にしている森林などの自然環境には、目に見えない多くの生き物が生息していることや、それぞれが生物種を超えてイメージできないほど大きいスケールで関わり合っていることをワークショップを通して少しでも想像してもらうことで、自然環境の見え方、自身の生態系への関わり方について考えてもらえるのではないかと思いました。

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多様な微生物たちを見つけるために

微生物たちは大きさやカタチが多様なだけではなく、それぞれ異なるエサや異なる環境で独自のコミュニティを築いて生活しています。そのため、微生物を集めて観察するための手法は複数用意しました。

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集めてすぐにその場で観察できる植物・動物プランクトンなどは、コニカルチューブに水や土を取ってきてもらい、顕微鏡にてその場でお子さんたちに探してもらいました。

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その一方で細菌や真菌類などはその場ですぐに確認するのが難しいため、培地を用いて数日間培養したのちに観察しました。

微生物を培養できる『コンタクトプレート培地』を用いて、採取したい表面に押し当てて微生物をとり、そのまま数日間培養したのちに観察しました。

培地によっても生えやすい微生物に差があるので、通常の寒天培地に加え、複数の選択培地も使ってもらいました。

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今回、バクテリア・セルフチェッカー『mil-kin』という1μmまでの微生物をスマホで観察できるデバイスも使用しました。こちらは、mil-kinを開発している株式会社mil-kinさんにお借りしました。以下の写真は、ワークショップにて、mil-kinで観察した土のサンプルです。

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解像度だけではなくスマホで撮影できることもあり本当に大人気でした。

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また、学びの補助としてライジングフィールド軽井沢さん側のご厚意で、微生物関連の絵本や図鑑も購入いただきました!

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微生物と共生していることを認知する

自然環境から多様な微生物を採取して培養や観察をするだけでは、認知はできるものの、目に見えない微生物たちが普段の生活と切り離された場所の存在として感じてしまいます。

そこで、手形の培地を使って自分の手に生息している微生物を可視化することで微生物の存在をもっと身近に実感できるように試みました。培地の独特な触感に、子どもたちは結構盛り上がっていました。笑

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日々変化していく培地の展示

ワークショップにて、コンタクトプレート培地で採取した細菌や真菌類などはその場での観察が難しいため、数日間培養した後に観察するため、キャンプ場の一角で展示していただきました。(ライジングフィールドの皆さん、ありがとうございました!)

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参加してくださった方々の多くは軽井沢周辺に居住している方で、ワークショップ後に自分たちが採取した培地の微生物の増え具合を確認してくださっていました。

※ 培地が開かないようにテープで固定して展示しています。
※ 培地は展示後に実験室にて滅菌操作の後に適切に処分しました。

コンタクトプレートでは、同じ種類の培地でも採取した場所によって全く異なる色やカタチ、大きさの微生物が生えていることが観察できました。

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手形の培地では、個々人の手に異なる微生物たちが存在することを観察できました。これは、個人のライフスタイルや年齢、直前に触ったものなども影響していると考えられます。

それぞれ個人ごとに異なる微生物コロニーが増えていますが、微生物が増えなかったヒトは一人もいないことから、微生物とヒトとの密接な共生関係を想像できます。

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ワークショップで気をつけたこと

1. 答え探し、答え合わせにしないこと
まず本ワークショップでいちばん重要視したことは、何か特定の答えを探したり、答え合わせにしないことです。

そもそも地球上のあらゆる環境に生息しており、最も多い種類や数をほこる微生物たちですが、どのように生きていて進化しているかなど研究者たちにもわかっていないことばかりです。

そのため、特定の微生物だけをスタンプラリーのように集めるようなことを促さず、想像力を遥かに超える微生物たちの多様さを観察で実感してもらうようにしました。

2. 想像力、思いを馳せること
微生物は目には見えないだけであらゆる環境で生活していて、そのスケールの大きさはヒトの想像力を遥かに上回ります。

本ワークショップでは、フィールド内の自然環境を回りながら、「ここにはこんな微生物がいそうだな」と想像をしながら採集し、観察してもらいました。

たとえば、微生物はヒトや動植物など他の生き物に共生しているので、生き物同士のつながりを考えることが役立ちます。土や木には微生物がたくさんいることがイメージできますが、ヒトにも微生物がいると知っていると、ヒトが触れた机や椅子にも微生物たちが残されている可能性に気づきます。

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おわりに

今回のワークショップでは、自然環境からそこに住む多様な微生物たちを発見してもらいました。普段は意識しない存在である微生物たちに思いを馳せて採集していき、ワクワクしながら培養・観察を行い、その多様さに驚かされるというプロセスです。

今回、特定の微生物を見つけ、「これは○○だね!」と同定するような単一の答えを見つける作業はあまり重要ではありません。まずは「ぜんぜんわからないものだらけだ」ということをわかってもらい、その中でどこまでがわかっているのかということを学校での理科教育等で補うことができると、かなり身体性を獲得する学びになると思います。

微生物だけではなく、生物学はあくまでも私たちの身の回りですでに起きている現象の、解像度やスケール感を変えた新たな視点で研究されていると思います。そのため、私たち自身もどんどん周囲の動植物や環境と積極的に関わることで、誰もがサイエンスができるし、新しい発見を得られるチャンスがあると思います。

参加してくださったみなさん、協力してくれた江村くん、ライジングフィールド軽井沢のスタッフの皆さん、本当にありがとうございました!

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