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除菌から"加菌"へ - 微生物多様性がもたらす健康な都市

こんにちは、GoSWABの伊藤光平です。

GoSWABは都市に微生物多様性を高めて、都市に住むすべての人を健康で幸せにするための活動をしている団体です。

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これまで、多分野の関係者の方々からご協力いただきながら、首都圏で微生物サンプルを収集し、その種類や機能を解析して、人への影響を調査したり、イベントやワークショップを通して、一般の方に微生物や研究の魅力を伝えたりしてきました。

ビジョンとミッション

VISION
微生物との共生社会を実現し、より快適で健康な都市を創る

MISSION
微生物の多様性による利益を、実感を得られる形で個々人に届ける

上記のビジョンとミッションを掲げて、これまでの調査をもとに、微生物多様性を高め、日常空間をより快適なものにするようなデバイスの開発に取り組んでいます。

自宅の室内環境を改善する「GreenAir」

人は1日9割もの時間を室内で過ごします。今回の新型コロナウイルス感染症拡大により、オフィスや学校などで不特定多数と過ごす時間が減り、家族と自宅で過ごす時間が増えたかと思います。

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先日、小さいお子さんを持つお母さん20名程度にインタビューを実施しました。室内における病原菌やカビ、ダニが原因で生じるお子さんの喘息やアトピー、花粉症などのアレルギー症状などの疾患にくわえて、ペットのトイレや料理のにおいなども気になる方が多いようでした。

これらの有害物質は、空気中に浮遊しているだけではなく、家具や壁、床などの表面にも付着しています。

僕たちはこの問題に対処するため、微生物の代謝能力や多様性による拮抗作用を利用した微生物噴霧デバイス「GreenAir」を開発しています。

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GreenAirから放出された微生物は、室内の多様な有機物を消費して増殖し、病原菌の増殖を阻害したり、においや汚れを分解します。従来の化学洗剤よりも洗浄スピードは遅いですが、効果は長く続くと考えています。

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「除菌・殺菌」から「加菌」の時代へ

これまで、私たちはどうにかして微生物を排除しようとしてきました。新型コロナウイルス感染症の一件で、過剰かつ誤った除菌・殺菌が行われていたりもします。

完全な無菌環境を作ることは非現実的であるだけでなく、病原性微生物を不完全なまま制御し、健康リスクを上げる一方で、無害で有益な微生物を減らしてしまいます。

除菌・殺菌で解決する問題もありますが、微生物を加えることが利益をもたらす事例も多くあります。

薬剤耐性菌の台頭

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医師から処方される抗菌薬は、病原菌を除去し疾病の治癒に導く一方、使用を誤れば、必要な菌をも死滅させ、薬剤耐性菌の問題を招いてしまいます。WHOによると一切の対策を怠れば、薬剤耐性菌による死者は2050年には全世界で年間1,000万人にものぼると推測されています。

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Antimicrobial Resistance: Tackling a crisis for the health and wealth of nations」から引用。

また、気密性が高く化学洗剤で頻繁に洗浄されている都市の室内環境は田舎と比べて、微生物の多様性が低く、薬剤耐性遺伝子の多様性が高くなっています。抗菌薬配合製品が室内に残留し、薬剤耐性菌を増やしているとの研究もあります。

皮膚や腸内には、病原菌が増殖しないよう多様な微生物コミュニティによるバリア機能(拮抗作用)が備わっています。病原菌や薬剤耐性菌などが一定量増えないように微生物多様性を高めることには価値があります。

同様に室内環境においても、微生物多様性が薬剤耐性菌の発生リスクを低下させる一つの有効な手段となりえると考えています。

都市と衛生仮説

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衛生仮説とは「乳幼児期までの非衛生的な環境がその後アレルギー疾患の発症リスクを低下させるかもしれない」という理論です。

「都市より、多様な微生物と接触する農村部のほうがはるかにアレルギー疾患のリスクが低下している」と示唆する研究が複数あります。

たとえば、農家と非農家の子供の喘息の重症度を調べたコホート研究では、農家と非農家における室内の微生物コミュニティが大きく異なっていたことも、喘息症状の改善に寄与する大きな理由の一つではないかと言われています。

オーストラリアのアデレード大学の研究チームは、多様な植物が都市の微生物多様性を回復し、人間の健康に利益をもたらす可能性を示唆しています。「Microbiome rewilding (微生物コミュニティの再野生化)」と彼らは言っています。

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Microbiome rewildingについての論文『Relating Urban Biodiversity to Human Health With the ‘Holobiont’ Concept』のFigure 1を引用。

2つの武器「プロバイオティクス」と「ゲノム解析」

以上の社会背景をふまえ、僕たちは2つの武器を用いて人々が快適で健康に暮らせる都市を創りたいと思っています。

1. 微生物を理解して問題発見する「ゲノム解析」

ゲノム解析を用いて微生物コミュニティとその機能を明らかにします。つまり、環境中にどのような微生物コミュニティが形成されていて、どのような機能を持っているか推測できるので、その微生物コミュニティが生息する周囲の環境への影響、ひいては私たちへの影響も推測できると考えています。

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前述したプロバイオティクスを効果的に行うには、これから微生物を加える環境にはどのような微生物コミュニティが形成されていて、どのような課題があるかを理解していることが重要です。そのため、ゲノム解析でそれらを理解してからプロバイオティクスのアプローチにつなげていきます。

「室内の微生物コミュニティの理解」「公共交通機関での病原菌スクリーニング」「下水道での薬剤耐性菌モニタリング」「人の移動と微生物の移動の相互作用」など、ゲノム解析を通して多くの問題を発見できます。

2. 微生物を加えて問題解決する「プロバイオティクス」

プロバイオティクス(Probiotics)とは、人体に良い影響を与える微生物(善玉菌)、または、それらを含む製品、食品のこと (Wikipedia)

食品だと、乳酸菌を補って腸内環境を整えてくれるヨーグルトやぬか漬けが該当します。

また、腸内細菌バランスの崩壊や多様性の低下 (dysbiosis)は、心身に悪影響を及ぼし、炎症性腸疾患やうつ病などの発症、重症化との関連がわかってきています。

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都市も自然が少なかったり、都市にある住居は高い気密性や過剰な除菌・殺菌による洗浄により、微生物多様性が低い状態にあります。

そのため、良い微生物を加えるプロバイオティクスは微生物多様性を高めるために必須であり、「微生物の噴霧」「有益な微生物を取り込む建築設計」「都市への植樹」などの施策も、微生物を加えるという広義のプロバイオティクスだと考えています。

持続可能社会の実現のための微生物多様性

2つの武器に加えて、微生物を用いるアプローチ自体が持続可能な社会の実現に貢献すると考えています。

生態系において微生物は分解者として水質浄化、汚染物質除去などあらゆる物質循環に寄与しています。

この生態系に基づくシステムを構築することが、持続可能な社会の実現にむけて重要な手段になり得ると考えます。GoSWABの活動で達成するSDGs目標はこの3つです。

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ニールセンが2015年に実施した『企業の持続可能性への取り組みに関するグローバル調査』では「持続可能な製品には少し高いお金を払ってもよい」と考える消費者は全体の66%を占めていました。

近年、パタゴニアやAppleなど持続可能性に考慮している企業は、高く評価されています。

最近では、株式会社ユーグレナが経営理念・企業ビジョン・スローガンをなくして「Sustainability First」というフィロソフィー(哲学)を制定しました(資料)。

居住空間からはじめる都市デザイン

僕たちはこれらの武器を使って、まずは都市を構成する個人に向けて微生物多様性による利益を届けます。

「微生物多様性を高めるために、都市に大きな森を作ろう!」という考えもあるとは思いますが、このアプローチはほぼ不可能だと思っています。

また、このような個人向けモバイル生態系もハードルが高いです。笑

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なぜなら、微生物多様性による恩恵を受けていても、それが実感しにくいものだからです。実感しづらいものを、都市にトップダウンで実装することはできません。

なので、まず「顕在化した個人の課題」に対する解決法として微生物を用いることで、微生物を使うことを「習慣」や「文化」にしていく必要があります。都市を構成するのは個人の文化の集積だと考えているからです。

それをふまえて、この順番でボトムアップで、サービスを展開していきます。

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① Homeは、家族の居住空間を想定しています。

個人が現状で抱えている室内環境の課題解決がメインで、ソファやベッドに付着したダニ、花粉などのアレルギー疾患の原因物質の除去、ペットや料理のにおいを解決します。

② Buildingは、オフィス、学校、商業施設などを想定しています。

ここでは、① Homeでの課題に加えて、不特定多数が集まる場所なので感染症対策、オフィスであれば生産性向上が解決すべき課題になります。

③ Cityは公共交通機関、道路、公園などをイメージしています。

ここでは、①②の課題を解決するのはもちろんのこと、都市デザインに関わる多くのステークホルダーと協力して下水道の薬剤耐性菌モニタリング、微生物多様性を高めるような建築材質の選定や設計もします。衛生仮説実践のための、微生物を供給する緑地スペースの構築もします。

以上の順番で、個人が微生物多様性の価値に実感を持つことができれば「微生物多様性が高い都市が、家族のための健康な都市」というイメージが醸成されて、微生物多様性という指標が都市の1つの価値になると考えます。

このようなサービスの展開を通して、多くの人と協力しながら、都市に住む人みんなを最高に幸せにしていきます!

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P.S. 微生物多様性を文化にするため、人の感性を刺激する「微生物を用いた表現方法」を考えています。バイオアートやスペキュラティブデザインなど気になっております。相談にのってくださる方、ご連絡ください!

「都市と微生物多様性」をもっと知るための文献

僕たちを日々勇気づけてくれるのは「都市と微生物多様性」について価値を感じている世界中の研究者たちの存在です。彼らの素晴らしい取り組みの一部を以下にご紹介します。

論文

建造環境の微生物学のレビュー。

Microbiome rewilding の論文。都市の生物多様性が健康に寄与する。

都市化と微生物コミュニティ変動の関連性。

農家と非農家の子どもにおける喘息リスクの関連性。

人工環境における閉じ込めと洗浄の増加がもたらす微生物多様性の喪失。

機械換気は自然換気よりも室内の微生物多様性が低いし、病原性微生物が相対的に多くなる。

建造環境の微生物学のレビュー。

室内の埃の中にいた微生物の分類と機能が抗菌化学物質と強く関連している。

動画

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山形県鶴岡市出身の23歳です。都市と微生物のGoSWAB代表。 都市に微生物多様性をもたらして、人々を最高に幸せにしたいです。 詳細プロフィール http://profiee.com/i/koheiito/

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微生物たちは南極や火山,宇宙ステーションなど世界中あらゆる場所に存在している.僕たちの体の中にも38兆個もの細菌が共生しており,腸内細菌をはじめとして僕たちの体の健康を大きく左右することが知られている.もちろん,都市にも微生物は多く存在している.また,人は1日の9割もの時間を室内で過ごすが,室内は屋外と比べ5倍も汚れている.室内空間における微生物が数多く研究され.ヒトの健康への影響が多く明らかになってきた.室内の微生物に考慮する重要性,研究でわかってきている室内の微生物が与える健康への影響のエビデンス,室内の微生物をコントロールすることで得られる利益を適宜論文を引用して解説する.

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