第14球 野球が好き(特別寄稿2)

 皆さま、こんにちは。漫画家の小路 入留(こみち はいる)です。
普段は月刊誌でファンタジーものの連載をしています。今のところ、2巻まで出ているので、読み始めるにはいいタイミングじゃないかなと思います。書店で野球関連本を見たあとに、青年コミック売場にも足を運んでいただけるととても嬉しいです。

 さて、ファンタジーマンガを描いている小路がなぜ野球エッセイに寄稿することになったかと言いますと……私、実は、野球がすっごく大好きなんです! 月刊誌の巻末やSNSでもたびたび野球関連の話をしているので、私のことを知っている方は納得していただけるのではないかと思います。

 でもこれまでに一度も始球式やら野球イベントには呼ばれていないので、このエッセイを機にどこかからお声かけないかなーと正直、下心があります。ただ問題は、私、プロ野球のどこかのチーム推しではなく、野球というスポーツの推しなんです。なので、嫌いなチームもなければめっちゃ好きというチームもないんです。あー……だから呼びづらいのかな。
 でも、プロ野球好きの皆さんのなかにも、私のように特定のチームを応援するのではなく、野球そのものを楽しみたくて、プロ野球を見ている方もいらっしゃるんじゃないかなぁと思っています。
 
 そういうスタンスになったのは子供の頃、めちゃくちゃ好きだった選手が、私が22歳の頃に引退しまして……そのときの喪失感というか、虚無感というか、明日から誰を憧れにして野球を見ればいいんだろう……というくらい、ものすごく落ち込んだことがきっかけです。
 野球チームも選手もたくさんいるのに、たった1人の引退がここまで私を落ち込ませるのかと、そのとき大学生だったんですけど……恋人に振られるよりショックで……しばらくプロ野球を見られませんでした。

 でも、やっぱりどうしても気になってしまうんですよね。気づくとスポーツニュースで結果を確認してたり、新聞のスポーツ欄でまず野球の記事を探してしまう。私の大好きだった選手はもう、選手じゃないからどの試合にも出ていないのに。
 野球関連の特番があると、とりあえず録画予約しておくか、みたいな考えになったり、野球関連の考察コラムなんか見つけると思わず読んでしまったり。私にとって野球は生きていく上でなくてはならないものなんだなって少しずつ実感していくようになりました。

 あるとき思い切って球場へ行ってみたんです。大好きだった選手が所属していたチームの試合を。あの人はもういない、グラウンドにもベンチにもいない。試合に出ているのはいつの間にか、私の知らない選手ばかりになっていました。その試合、大好きだった選手のいたチームがサヨナラ勝ちしました。その瞬間、私は泣いていました。嬉しくて、勝ったことを嬉しいと思える自分が、あの人がいなくても、野球が楽しかった、野球を楽しめた自分になんだかすごくホッとしたのを覚えています。

 でも、心のどこかでは寂しい気持ちは今でもあります。引退して10年以上たちましたけど、私にとっては唯一無二のヒーローで、それは永遠に変わらないと思います。

 サヨナラ勝ちの試合以降、私はいろんなチームの試合をテレビで見たり、ラジオで聞いたり、ときには球場へ足を運んで見るようになりました。たくさん見て聞いていくうちに、私の中のプロ野球の楽しみ方が少しずつ変わっていきました。

 そうして今私は、野球というスポーツを見ることが好きなイチ漫画家となりました。
 漫画家になろうと思ったのも好きだった選手の映像や写真を見て、自分なりに模写していたのが始まりでした。描いて「うまいね」って言われると、うれしいじゃないですか。それで調子のって描きまくってたんですよね。まぁ考えますよね、好きな選手が活躍するマンガを。で、描いてまた「おもしろじゃん」って言われると、調子のるじゃないですか。そのまま絵を描くことが趣味になって、好きな選手をモデルにした、剣士が活躍するファンタジーを描いたことがあったんです。それを賞に応募したら、佳作をいただきまして、担当さんがついて……今に至ります。

 マンガを描くことで好きだった選手を思い出します。思い出さないときはないくらいです。でも今はそれが苦しくはありません。時間が解決する、とは良くも悪くも聞く話ですが、良くも悪くも本当のことだなと、私は思います。でも、時間だけが解決するのではなく、結局は自分の心が一番なんですよね。応援していたあの時間、あこがれていたあの気持ち、感動をたくさんもらったあの日々は間違いなく私にとっての宝物です。


 日々の生活の中で、ちょこっとヘコんだり、気持ちがあがらないときはこの宝物に頼ります。

 でも、もしかしたら明日、私の前に現れるかもしれません。大好きだったあの選手を凌駕するほどの選手が。
 
 
 さて、野球のオフシーズンもまもなく終わりますね。年が明ければ自主トレの話題、キャンプ情報と少しずつ、でも確実にプロ野球界は盛り上がってきます。
 私もマンガの連載をしっかり描き、オフの楽しみとして野球観戦を楽しみたいと思います。球場までの移動中にぜひ、私のマンガを読んでみて下さい! 野球のやの字も出てきませんが……。

 ここまでお読み下さり、本当にありがとうございました。
 次回はプロ野球選手のエッセイとなります。どうぞお楽しみに!
 漫画家の小路入留でした。

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