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第十回 名もなき今の物語

以前と比べ家にいる時間が格段と多くなり、まあそんな生活に慣れてきたよねと思いつつも、やっぱり知らず知らずにストレスも溜まっているようで、気楽なテレビ番組なんかが見たくなります。特段、知的好奇心を唆るようなやつでもなく、感動させるようなやつでもなく、大袈裟じゃない、ちょうど良くおもしろいやつです。

最近はサブスクにも沢山のテレビ番組のアーカイブがありますので、そこから相席食堂ってのを見つけて、そんな気分の時に見てます。

内容としては、芸能人・著名人が全国各地に出向き、旅先で現地の方々に相席をお願いしながらコミュニケーションをとっていくもので、それだけでも旅番組として成り立つとは思うのですが、ただのそれで終わらない理由は番組MCの技かなと。

番組MCの千鳥の二人は一切ロケには行かず、スタジオでそれらのビデオを見ながら、要所要所でビデオを止めてつっこんでいくのですが、それ用に編集されたビデオと言えども、その止め方もコメントもうまいのですよね。

誰も気付かなさそうな、何て事ない発言や街の風景も、見方を変えればそんなおもしろくできるのねって感じで番組が進んで行きます。同じ情報量でも感受性と想像力で見える世界は違うのですね。

この日常に溶けてしまいそうなありきたりの瞬間に向き合っていけたなら、もっと自分も世界も分かってくるかな。

「猫を棄てる 父親について語るとき/村上春樹」を読んで、ふとそんな事を思いましたよ。これだけ相席食堂の話をしといて、この本の話だったのかい。

今回の村上春樹は一味違いましたね。あの独自の匂いを醸し出さないまま、彼の父親の話が次々と書かれています。文章を部分的に切り取ったら彼のファンだとしても村上春樹作品だと確信できる人は少ないかも知れない。それでも、最後は村上ワールドに誘われています。それこそ、まるで彼の小説のように。

事実を淡々と書けば書くほど、逆に彼独特の物事の捉え方と発想が浮き彫りになっていくようで、きっと、あなたのまわりにも、あちらこちらにたくさん物語はありますよと教えられた気分になります。いつもこの不思議な架け橋から見える景色をその卓越した表現力で読ませてくれてるのですね。なんだか村上春樹の秘密を垣間見れる様な一冊です。

ちなみに、もうすぐ始まる子育ての前に我が家の猫を妻の実家で預かってもらうのですが、妻はこの本のタイトルを見て、寂しくなるであろう私の心の準備の本だと勘違いしてました。そう言う本じゃないよ、って言おうとしたけど、やっぱり大きな意味ではそう言う本かも。

猫と暮らす日々で何かが私に大きく染み込んだはずです。猫がいなきゃ猫と暮らさない未来もやってこないしね。ややこしいかな。いやいや、そう言うものよ。眼に映るものが全てじゃないよって誰かが言ってたっけ。

* * *

今日の一曲。Step Out / Jose Gonzalez

映画「LIFE! (The Secret Life of Walter Mitty)」より。映画のキャッチコピーは、”生きてる間に、生まれ変わろう。”だそうです。


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日記・雑記。日々のあれこれ。東京都在住。毎週月曜と金曜に更新出来たらいいなあ。

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