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タッチングムービー


明日は休みだから、夜ふかしをして映画を観ることにした。

彼と二人で映画を観るのは家の中とはいえ、ずいぶんと久しぶりだ。

映画を観る準備を済ませて、二人でソファに並んで座る。

テーブルの上には飲み物と食べ物……といってもスナックが多いのだけど用意されている。

正直、夜中にスナックを食べるのは気が咎めるのだけれど、久しぶりだからいいか、と自分を納得させている。

まあ、彼はそういうところは気にしていないみたいだけれど。

そもそも彼とはあまり一緒に映画を観ない。

三ヵ月……いや、もしかすると半年に一回?

一緒に観ることはある。

そりあえず、それくらいに今日は久しぶりなのだ。

まあ、それには理由があるのだけれど。

そしてその理由ゆえに、五分経っても観る映画が決まらない。

夕飯の時から話しているが、決まらないまま時間が来てしまったのだ。


やっぱりさ、夜中だからホラーとかアクション映画が観たいよ

私は夜中とか関係なくコメディ系統のやつが観たいな

それか、恋愛ものがいいなー

え?

また?

この間も観てなかった?

それは確かに先週観てたけど、それは一人で観てただけ

あなたと一緒には観てないわ

確かにそうだけど、と彼の気まずそうな返事。

その後も私が選ぶ映画はことごとく却下され、彼の選ぶ映画もことごとく却下した。


なあ、これじゃあ観る映画が決まらないよ

それは、私に折れろって言っているのかしら?

そういうわけじゃないけどさ……なんていうのかな、君の選ぶ映画ってこう……俺の趣味じゃないっていうか

それは私も同じことなのだけど、と思いつつ彼の言葉の続きを待つ。

なんだろう……感動の押し付けっていうのかな

そういう映画が多い気がしてさ

感動の押し付け、ね

目を細めて彼を見つめると、彼はしまったという顔をして目を逸らした。

や、うん……そうだな今日は君の見たい映画にしよう

それがいい

わざとらしく何度も頷くとリモコンを私に渡して、彼はソファに深くもたれかかる。


そう……それじゃあこれね

私もちょっと投げやりになって、普段の私と彼が絶対に選ばないアニメの映画を選択した。

一時期話題になっていたが、私たちは興味がなくて観なかったものだ。




映画も終盤に近付いた頃、隣で鼻を啜る音が聞こえた。

そしてぽつりとか細い声で言う。

感動の押し付けはやめてくれ……

チラリと視線だけ動かしてその様子を見る。

ふと、彼がこのような映画を観ない理由を言っていたことを思い出す。

彼は涙もろいことを自覚していて、一緒にそういう映画を観たら必ず泣いてしまう。

そんな格好悪い姿を私に見せたくないのだ、と。

付き合って間もない頃のことだったから、忘れてしまっていたけれど彼は確かにそう言っていた。

そしてそれは、今でもそう思っているということだったのだろう。

彼の両目から大量の涙がこぼれていくのを見て、不思議な気持ちになってくる。

観ていた映画のラストシーンが終わるまで、私はぼーっと彼の泣いている横顔をずっと見ていた。





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