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平日も休日も


三時のおやつはホットケーキだった。

甘いものが得意じゃないのにどうして彼女はホットケーキを作ったのだろうか。


これ、ホットケーキじゃなくてパンケーキだからね


こちらの心を読んだかのように彼女は僕にそう言った。

僕は曖昧に微笑んで目の前に出された、ホットケーキならぬパンケーキに視線を落とす。

フォークとナイフを手に取り、まだ何もかかっていないそれに切り込みを入れる。

柔らかい触感がナイフから伝わってくる。

僕は一口サイズにしたそれをぱくりと食べた。

ほんのりと甘い。

そしてやはり柔らかい。

五回ほど奥歯で噛んで胃に落とす。


うん、美味しいよ

そ、よかった

はちみつはいる?

ううん、大丈夫

そ、わかった


彼女もテーブルに着くと、パンケーキを食べ始める。

僕も彼女も何もかけないでプレーンのまま、それを食べる。

食器の音がカチャカチャと鳴ったり、鳴らなかったりして時間が過ぎていく。

僕も彼女も食べるのは早い。

だから彼女が三十分で作ったものを半分の時間で食べ終わる。


ごちそうさま、食器は僕が洗うからゆっくりしてて


彼女は一度だけ頷きありがとうと言う。

二人分の食器を持ってシンクへ向かう。

水をスポンジに少しだけ含ませて洗剤をかける。

もこもこと泡を立て食器を洗っていく。

食器と一緒に冷めたフライパンも一緒に洗う。

水の流れて行く音がキッチンに満ちる。

洗い終わる頃になぜか彼女がキッチンに入ってきた。


どうしたの?

うん……なにか飲もうかなと思って

あー、ごめん冷蔵庫開けるよね

あと一分待って

うん


僕が食器を水きり用のかごにいれ、手を拭いてキッチンから出る。

入れ替わりで彼女がキッチンに入る。

冷蔵庫を開けて彼女は麦茶を取り出した。

僕と目を合わせ、麦茶を持つ手を少し上げて首をかしげてみせる。

これは僕も飲むかと聞いている仕草だ。

僕は一度首を縦に振る。

彼女も僕と同じように首を縦に振る。

なんとなく、そのまま彼女が麦茶を二つのコップに入れる様子を眺めていた。

麦茶を入れる音が響く。

均等に入れ終わると彼女は麦茶を冷蔵庫に戻す。

キッチンの入口まで来ると彼女は僕の分のコップを差し出す。

受け取ったコップから冷たさが指先から掌に広がっていく。

彼女がキッチンから出ると、一緒にリビングに戻る。


ソファに座ってのんびりと過ごす。


何の変哲もない、僕と彼女の一日だった。







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