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特注品



鉄の檻に入るのと

石の檻に入るのと

木の檻に入るの

君ならどれに入りたい?


昼飯を食べてうとうとしているときに妙な質問が上から降ってきた。

無視をして目を閉じたままにしていると、まぶたを引っ張られて強制的に起こされてしまった。


なんっだよ!

気持ちよく眠ってたのによ!

眠ってないでしょ!

眠りかけでしょ!

同じことだ!

全然違うわよ!


ぎゃーぎゃーと意味を持たない言葉をお互いに投げ合う。

意味のない時間が過ぎていく。

このまま放っておいてもいいのだが、それだと後が面倒になることがわかる。

だから面倒でも眠たくても、こいつの質問に付き合うことにした。


あー……で、なに、檻の話だっけ?

そ!

鉄か石か木!

どの檻に入りたいかなーって

……あー、それなら木だな

どして?

燃やせば簡単に抜け出せるから


そっけなく言って、欠伸をひとつ。


君だったらどのタイプの檻でも燃やせるじゃない

……まあな


一番燃やしやすそうなものを選んだだけなのだが、なぜかこいつは不満そうな顔をしている。

頬を膨らませても全く怖くないどころか、ふざけているようにしかみえない。


……君はさ、本当に木だったら簡単に抜け出せるの?

多分な

ふうん……じゃあ、今から木の檻に閉じ込めるから抜け出してみてよ


何かおかしなことを言われた気がしたので、じっと相手の顔を見つめる。


抜け出せるんだったら、時間はいくらかかってもいいよ


目の前に広げられた掌から空間が歪みだす。


おい……ふざけるのもいい加減に

ふざけてないよ!

ちょっとした課題を出されちゃったからさ、それに付き合ってもらおうとしてるだけ!

付き合うとは一言も言っていないんだが

自信ないの?

あんなに木だったら簡単に抜け出せるって言ってたのに

あのな、そういう問題じゃ




キーンと耳鳴りのような音がしたかと思うと、全く別の空間へ飛ばされてしまっていた。

相手にするんじゃなかったとうんざりしつつ、周りを確認する。

木で出来ている檻、というか迷路のように思えた。

面倒だからさっさと燃やして出口を作ろうかと思ったのだが、木に触れてみると燃えないタイプの木だということがわかり燃やすのを止めた。


全く……なんでこんな面倒な檻をこしらえたんだあの馬鹿は


ここに居ないものに文句を言っても始まらないのだが、口に出さずにはいられなかった。


この檻というか迷路を抜け出さなければ直接文句を言うこともできない。


面倒くさいなと口に出して、ゆっくりと迷路を進む。


燃やすことのできない木に触れながら、いつ抜け出せるのかもわからない迷路を歩き続けた。






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