富士西湖冬キャンプ日記0~衣食住をなぞる旅~

★ただ一つ生まれ変わる方法
「結婚相手を選ぶコツはね、衣食住の重視の仕方が似通っているかどうかなのだよ」
 かつて恩師にそう言われたことがある。恩師の夫婦は共に食を重視する家庭だったそうだ。以降、恩師の相方が如何に善良で知性に溢れているかだの、恩師の夫婦は食べ物の好みが一致しており、どこそこのお店の中華料理が絶品だっただのと話が続くが、特に関係ないので省略する。
 自分の話をすると、僕は多分衣食住のステータス振り分けが3:7:0くらいの家庭で育った。とにかく住に関して両親の関心が薄かった。母はそもそも「家電の雰囲気が嫌い」とか言うから家には最低限の神器しかないし、父は本を買いすぎて本棚の横に本棚と同じ高さの平積みが形成されていた。何より二人とも洗濯物への優しさが欠如しており、かつ物を捨てられない性質だったため家の内装は畳まれない洗濯物と骨董品のようなスピーカー、半壊したベッド、シールの貼られたまま放置された椅子など、違法増築を繰り返したような謎めいた作りになっていた。そのくせ家族の誰も――僕自身も含めて誰も――文化の荒んだ我が家の内装について何も思っていないところが救いようがない。
 だって家でしょ? 住めれば良いじゃん。
 知らずに部屋が散らかっていたことに気付く度に、悲しい性がそう囁く。床も壁も天井もある。水とガスと電気は出るし冷暖房も死なないレベルに完備。これ以上に何を望む? そんな性の所為で、僕は金輪際きれい好きの人達と共同生活はできないのではないか。成人するまでずっと同じ環境だったから、住環境をがらりと劇的に帰る機会なんて、もはや社会に存在しないのかも……
 ところがどっこい!
 世の中には、僕の知る限りたった二つだけ、自分の中にある衣食住のスタイルを綺麗さっぱりリセットしてやり直す方法がある。
 一つは海外で生活すること。国という枠組みを取っ払われると、住宅の壁材もフルーツの価格帯も肌の露出に対する意識も殆ど全く新しいものになる。そんな中で生きて行かざるをえなくなるから、新生活の始まりと共に衣食住のステ振りが変わる可能性は大いにある。
 そしてもう一つが、キャンプである。
 キャンプは生活拠点でないところに生活拠点を作り上げる趣味だ。寝る場所、活動する場所を確保し、火を駆使して料理を作り、防寒と防水に優れた服を身に纏う。社会で培った洒落なんぞ役に立たない。アウトドアにはアウトドアの衣食住があり、初めてアウトドアをする人間はまさしくキャンプを通じて衣食住の価値観を生まれ変わらせるのだ。
「今度Fとキャンプするんだよ」
「マジ? 俺も行くわ」
「いいよー」
 1月半ば、友人のSとラブライブのブルーレイを見ていた僕は、その程度のノリで冬キャンプに行くことに決まった。行き先は山梨県の西湖。富士山の見えない湖畔に一夜限りの住まいを建て、それっぽい外行きファッションで寒さをしのぎ、バーナーで湧かした珈琲を飲んだり煮込み料理を啜ったりする旅を夢見て。
 この記事はそんな、衣食住をリセットする生活を味わう濃厚な二日間を記した日記である。本質的には社会見学した後の作文とあんまり変わんないけど、キャンプは素敵だったし、何しろ同行者が天才揃いなので興味があればお付き合いいただければ幸い。最近まとまった日記を書く時間が取れないので連作っぽくしていきます。

★登場人物
F :ガチキャンパー。今回の旅のリーダー。趣味にあらゆる資産を突っ込んでおり、様々なキャンプ用品の他にもギター、ドラム、ベース、トランペット、カレー作り、ギャルゲなど多方面に趣味を持つ。カリスマが凄い。天才。
S :ガチライダー。「俺が握るのはハンドルとおっぱいとラブライブレードだけだから」が信条。休日に時間を見つけては愛用のバイクで日本全国を旅している。離れ島も好きで隙あらば伊豆諸島までピクニック感覚で遊びに行くアウトドア派の既婚者。特技は壁走り。天才。
僕:ガチゲーマー。子供時代、ボーイスカウトかなんかに嫌々参加させられ、ペンションに泊まっていたらルームメイトがホラー番組を見ていて怖くて眠れなくなった。寒さには決して強くないが、我慢だけはできる。泊まりイベントに必ずボードゲーム持ってくるタイプ。天才ではない。

つづく。

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