面会交流国賠控訴審判示メモ

来るべきときに,読み解くべく,本日は,判示の紹介

東京高等裁判所令和2年(ネ)第45号令和02年08月13日

主文

1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由


第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は、控訴人A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I及び同Jに対し、それぞれ50万円及びこれに対する平成30年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被控訴人は、控訴人K、同L、同M及び同Nに対し、それぞれ100万円及びこれに対する平成30年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

  本件は、夫婦間で婚姻中に別居し、又は離婚して別居した結果、未成年の子と別居している親(以下「別居親」という。)の立場にある、又はその立場にあった控訴人ら(原審原告ら)が、憲法上保障されている別居親の子との面会交流権の権利行使の機会を確保するために立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたり立法措置を怠ってきたことは、国家賠償法1条1項上の違法な行為に該当すると主張して、被控訴人(原審被告)に対し、各50万円又は100万円の慰謝料の支払及びこれらに対する不法行為後の日である訴状送達の日の翌日(平成30年4月11日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
  原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らは、これを不服として本件各控訴を提起した。

第3 当裁判所の判断


 1 当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも棄却すべきであると判断する。その理由は、原判決を次のとおり改め、後記2を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2、第3の1に記載のとおりであるから、これを引用する。


  (1) 原判決5頁2行目の「条約に批准し」を「条約を批准し」に改める。
  (2) 原判決6頁4行目の「教育権」を「教育の権利」に改める。
  (3) 原判決6頁13行目及び9頁13行目の「3条」の後に「2項」を加える。
  (4) 原判決8頁1行目から2行目にかけての「法整備を整えるべき義務」を「法整備をすべき義務」に改める。
  (5) 原判決9頁4行目、15頁17行目及び21行目の「旭川学テ最高裁判決」を「旭川学テ事件最高裁判決」に改める。
  (6) 原判決12頁3行目の「次女」を「次男」に改める。
  (7) 原判決15頁5行目、18頁13行目及び20頁13行目の「大法廷」の後に「判決」を加える。
  (8) 原判決15頁7行目の「原告らが主張するような法制度を立法すること」を「所要の立法措置を執ること」に改める。
  (9) 原判決15頁19行目の「面会交流権を」を「面会交流権が」に、16頁4行目の「憲法26条が」を「憲法26条を」にそれぞれ改める。
  (10) 原判決18頁15行目の「面会交流権における現行法」を「面会交流権に関する現行法」に改める。
  (11) 原判決19頁15行目末尾に次のとおり加える。
  「そうすると、上記意見書をもって、控訴人らの主張する別居親の面会交流権が憲法13条により保障された人格権であるとは認められない。
  (12) 原判決22頁5行目から7行目までを次のとおり改める。
  「以上からすると、別居親の面会交流権が憲法上保障されており、その権利行使のために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であって、それが明白であるとは認められないから、別居親の面会交流権についての立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものとはいえない。」

 2 控訴理由について
  (1) 憲法26条に基づく主張について  

 控訴人らは、親の子に対する監護養育は、単なる社会的事実ではなく、子の教育の基本的形態であり、親の子に対する監護養育も憲法上保護されなければ、子の教育に関する憲法的保障は実現できないから、別居親の面会交流権は憲法26条により保障されていると主張する。
  しかし、旭川学テ事件最高裁判決が、子の教育の最も基本的な形態が親の監護としてあらわれるという社会的事実を指摘するにとどまり、それ以上に憲法上の権利として監護権や面会交流権が保障されていることを判示する趣旨とは認められないことは、補正の上引用した原判決第3の1(2)において説示したとおりである。そして、憲法26条は「教育を受ける権利」を保障するものであるところ、子の教育の最も基本的な形態が親の監護としてあらわれるからといって、親の子に対する監護養育が憲法上保護されなければ、子の教育を受ける権利が保障されないとはいえないから、控訴人らの主張は理由がない。
  また、控訴人らは、親の子に対する監護養育が単なる社会的事実であるとすれば、親は子の監護養育について裁判所に権利の実現を求めることができないはずであるところ、面会交流は、憲法26条の下位規範とされる民法820条や改正後の民法766条1項等によって基礎づけられ、裁判所に権利の実現を求め得る法的保護性が確立しているから、別居親の面会交流権は憲法26条の保障を受けると主張する。
  しかし、民法820条等が憲法26条の下位規範である旨の控訴人らの主張は、独自の見解であって採用できず、別居親の面会交流権が憲法26条の保障を受けるという控訴人らの主張は理由がない。
  (2) 児童の権利に関する条約及び憲法98条2項に基づく主張について
  控訴人らは、児童の権利に関する条約9条1項は、子どもが親と物理的に接触を維持する権利を保障しているところ、わが国では子どもの連れ去りが法的に野放しの状態になっているため、9条1項に面会交流の機会の保障も含まれていると解さなければ、「権限のある当局」の「決定」によらない親子の分離、子どもの連れ去り別居が横行することを容認することになり、同条約の趣旨に反する結果となるから、別居親の面会交流権は同条項によって保障されており、同条約の批准時から、わが国は9条1項及び3項を実現し、別居親の面会交流権を保障するための立法措置を執る法的責務を負っていると主張する。
  しかし、同条約9条1項は、子が親から引き離されることのできる場合を限定した規定であって、面会交流について定めたものとみることはできない。また、同条約9条3項は、あくまで子の面会交流の権利を尊重する旨の規定にすぎないと解され、同項と9条1項を併せても、別居親の面会交流権を保障したものとは解されないから、控訴人らの主張は理由がない。
  また、控訴人らは、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律の第2章第3節は、親子の「接触の権利」、すなわち別居親の面会交流権の確保を目的としており、別居親の面会交流権が憲法上又は条約上の権利として保障されていることを裏付けていると主張する。
  しかし、同節冒頭にある同法16条において、「当該国又は地域の法令に基づき面会その他の交流をすることができる者(日本国以外の条約締結国に住所又は居所を有しているものに限る)」と定めていることからすると、同節は、別居親の面会交流権が憲法上又は条約上の権利として保障されていることを裏付けているとは認め難いから、控訴人らの主張は理由がない。
 

 (3) 憲法14条1項に基づく主張について

  控訴人らは、国境をまたぐ親子の面会交流については、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律によって、中央当局として外務省が関与するのに対し、国内での別居については、公的機関による援助が存在せず、裁判所が関与するのは面会交流の内容を定めるまでであり、実際の面会交流は全て当事者に委ねられ、何の公的フォローもないという差別的取扱いが放置されていると主張する。
  しかし、中央当局による援助は、面会交流支援機関のリストを公表し、同支援機関を利用する際の費用を一定の限度で負担するというものであり(甲28)、国内での別居であっても、面会交流支援機関は利用できるから、この点において差異はない上、国境をまたぐ親子の面会交流では、親子が言語、文化環境、法制度の異なる場所で生活していることから、国内の場合に比して、面会交流の実現について、より多くの困難を伴うと考えられることからすれば、上記差異は、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものというべきであるから、控訴人らの主張は理由がない。
  

(4) 憲法13条に基づく主張について

  控訴人らは、面会交流権は、子の利益の実現としての側面をも併せ持つ、別居親が面会交流を求める権利であり、ここで「面会交流」とは、「夫婦が離れて暮らすことになってからも、一緒に暮らしていない親と子どもが定期的、継続的に交流を保つこと」、「夫婦が離婚などにより離れて暮らすことになってからも、一緒に暮らしていない親と子どもが会ったり、電話や手紙などで定期的、継続的に交流を保つこと」であるから、面会交流権は権利としての一義的明確性を有しており、憲法13条により保障されていると主張する。
  しかし、引用にかかる原判決第3の1(5)において説示したとおり、そもそも、面会交流の法的性質や権利性自体について議論があり、別居親が面会交流の権利を有していることが明らかであるとは認められないから、控訴人らの主張する別居親の面会交流権が憲法上の権利として保障されているとはいえない。

  (5) 憲法24条2項に基づく主張について

  控訴人らは、憲法24条2項は、離婚並びに婚姻及び家族に関する事項について、個人の尊厳に立脚して法律を制定することを義務付けるところ、民法上、離婚や別居により一方の親の親権・監護権が制限されることが前提とされ、事実上も、別居後は同居親の協力なくして幼少期の子どもと会えなくなることが容易に想定されるにもかかわらず、面会交流を保障する法整備を行っていないのは、法の不備にほかならないと主張する。
  婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法13条、14条1項に違反しない場合に、更に憲法24条にも適合するものとして是認されるか否かは、当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものとするのが相当である(最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2586頁参照)。
  しかるに、別居親と子との面会交流については、民法766条により、子の監護に関する事項として、子の利益を最も優先して考慮して父母の協議で定めるものとされる一方で、協議により定めることができないときは、家庭裁判所がこれを定めることとされており、家庭裁判所に、監護親に対し別居親と子の面会交流をさせるよう命じる審判の申立てをすることができ、また、当該審判において監護親が命じられた給付の特定に欠けることがない場合には、当該審判に基づき間接強制をすることができるものとされている(最高裁平成25年3月28日第一小法廷決定・民集67巻3号864頁)。面会交流に関する以上の法制度は、別居親と子との面会交流が不当に制約されることがないようにされているものといえ、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠くものとはいえないから、控訴人らの主張は理由がない。
 3 以上の次第で、控訴人らの本件請求は、その余の争点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
  よって、原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

第2民事部

 (裁判長裁判官 白石史子 裁判官 浅井憲 裁判官 湯川克彦)

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